ダークディケイドの力持ってゼンゼロの世界に転生出来たけどカメンライドできる種類が酷すぎる。 作:そらまめまめま
シン、と静まり返った空気に、押し潰されそうになる。
さっきまでの騒ぎが嘘のようだ。
消えたい……
そんなことを考えている僕の袖を、誰かがそっと引っ張った。
「れ、レイト様……! こっちです」
「え?」
振り返ると、そこにはカリンちゃん先輩がいた。
そのまま手を引かれるようにして、僕は店の裏手へ連れていかれる。
カリンちゃん先輩に連れられて裏に行った
「あ、あの…助けてくれてありがとうございます!」
「いやいや、カリンちゃんこそ怪我は無い?」
「は、はい……大丈夫です」
そう答えたものの――カリンちゃん先輩は、どこか浮かない顔をしていた。
「……どうしたの?」
「カリン、また…迷惑をかけちゃいました」
「……は?」
「レイト様に助けてもらって……カリン、何もできなくて……」
俯きながら、カリンちゃん先輩は自分の手を握りしめる。
「カリン…こういう時いつも駄目なんです。強く言えなくて……誰かに助けてもらってばかりで…メイドとしても、もっとちゃんとしなきゃいけないのに…カリンなんかが接客してても、お客様は楽しくないんじゃないかなって。」
「カリンちゃん」
「それに……レイト様みたいに堂々としてる人を見ると……本当に何もできないんだなって思って……」
僕は一度、息を吐いた。
そして――
カリンちゃんの目を見る。
「じゃあ聞くけど、君が『何もできない』っていうのは、誰が決めたの?」
「え……」
「僕?店長?お客さん?違うでしょ?じゃあ誰?」
カリンちゃん先輩は答えられず、視線を落とした
「……わ、私……です」
僕は頷く。
「つまり、君自身が勝手に決めつけてるだけだ」
「……っ」
「『私なんか』って言えば、自分が傷つかずに済む。失敗しても『どうせ私なんか』で片付けられる。誰かに迷惑をかけても、『私が駄目だから』って納得できる。便利な言葉だよね」
少しだけ声を落とす。
「でもね――それを使い続けてる限り、君はずっと自分を馬鹿にし続けることになる」
「……」
「僕は、それが気に入らない」
カリンちゃんが顔を上げる。
「え……?」
「僕は今日ここに来て、右も左も分からなかった」
少しだけ苦笑する。
前世で通っていた学校はバイト禁止だったから、接客業なんてもちろんやったことない。
不安しかなかった。
「初めてことでめちゃくちゃ緊張してるのにメイド服を渡されて、『え、僕が?』ってなってたし」
「……ふふ」
ほんの少しだけ、カリンちゃんの口元が緩む。
「そんな僕に、君は笑ってくれた」
思い返せば、本当に些細なことだった。だけど――僕にとっては、ちゃんと意味のあることだった。
「『凄く似合っています』って言ってくれた」
僕も少しだけ笑った。
「僕が緊張してた時も、変にからかったりせず、普通に接してくれた」
「……レイト様」
「それだけでも、僕にとっては十分助けになったんだよ」
「……でも、私は……」
「だから」
僕はその言葉を遮るように、静かに言った。
「勝手に『何もできない』なんて決めないで」
「……っ」
「君が自分をどう評価するかは、君の勝手だよ。けどね、僕から見たカリンちゃんは、君が思ってるほど駄目な奴じゃない」
「…………」
カリンちゃんの目が、少しずつ潤んでいく。
「むしろ――もっと自分を評価してもいいんじゃない?」
「……カリンは、そんな……」
「あるよ、君が気付いてないだけ」
「……」
「だからまず、『カリンなんか』をやめてみよ?」
しばらく黙っていたカリンちゃんは、やがて小さく頷いた。
「……はい」
「それから、自分ができたことを一個ずつ数えてみよう」
「できたこと……?」
「そうさ」
僕は踵を返す。
店内へ戻ろうと、一歩踏み出してから――ふと立ち止まった。
「……あ」
「?」
「ちなみに、今日メイド姿の僕に『凄く似合っています』って言ってくれたこと。」
僕は振り返り、カリンちゃんに笑いかける。
「それ、もう一個目に数えていいからね」
「……っ」
カリンちゃんは目を丸くした。
それから――ほんの少しだけ恥ずかしそうに、それでも確かに笑った。
その後は何も問題なく、夕方になったところで僕の仕事は終わった。
「はぁ〜〜……」
店思わず大きなため息が漏れた。
アドレナリンが出てたのか知らないけど、一気に疲れが出てきた……。
というか、普通に疲れた。
メイド服を着て…この時点でおかしいな
そんなことを考えていると、後ろから声が飛んできた。
「あ、レイト。おつかれ。どうだった、仕事は?」
そして、今日一日の出来事を思い返しながら、しみじみと答えた。
「メイドさんを、もっと敬おうという気持ちになりました」
「何言ってんの?」
「…………」
ですよね。僕も何言ってんのかよく分かんない。
ただ――今日一日メイドとして働いてみて、ひとつだけ確かなことがある。
世の中のメイドさんって、すごいわ。
「…ま、いいや。あんたさ、カリンちゃんになんかした?」
「え? 特になにもしてないけど……なんかあったの?」
もしかして、またなんか落ち込んじゃったのかな?
「なんか吹っ切れたような、やけに元気だったからさ」
「そうなんだ…」
元気になってくれたのかな?
「そっか……」
自然と、口元が緩む。
それなら――。
今日、メイド服を着た甲斐くらいは、あったのかもしれない。
「レイト様、初のお勤め、誠にお疲れ様でございました。」
「あ、ライカンさん!ありがとうございましす。」
改めて見ると身長デケェ…
「大変でしたけど、凄いやりがいがありました。」
「そう思えていただけたなら何よりです。次もお願いします。」
「はい!…え、次?」
「隼人様のほうでは、すでにお手続きを済ませておられますが……その件について、何もお聞きになっておられませんか?」
( '-' )スゥゥゥ……
なるほど?そういうことか。
隼人さん。
今度しばく。
……いや、一旦置いておこう。
今日はもう疲れた。
それに――次の別のバイトを探すよりかはいいか…そう考えたら、案外悪くないのかもしれない。
「わかりました。次もしっかりと頑張ります!」
「では連絡先の交換をお願いします。詳しいことはまた後日説明いたしますので。」
うっっひょぉおぉおおおお!!
ゼンゼロキャラとの連絡先交換……!
感激であります!!
今日の疲れ?
知らん!!
全部吹っ飛んだわ!!
腕をギリギリと爪を食い込ませながら笑顔を保って交換した。
「あ、そういえばライカンさん。ここら辺にカメラを売ってるお店ってありますか?」
「ふむ、カメラ…ですか。ルミナスクエアから少々離れてはいますが、『須々木カメラ館』という建物ならば知っています。お教えいたしましょうか?」
「はい!お願いします!」
なにその『鈴木写真館』に似た名前の建物!
行くしかねぇよなぁ!
「あら、ライカン、レイト様、ちょうどいいところに、お菓子をお作りましたの。」
声のする方へと顔を向けると禍々しい食べ物(?)を持っているリナさん……もしかして僕とライカンさんで食べないといけない感じ…?
「り、リナ?それは……なんの……」
めちゃくちゃ食い気味やん、ライカンさん。
いつもの余裕はどうした。
「クッキーを作ってみましたの♪」
「「クッキー?」」
思わず声が重なった。
僕とライカンさんは、互いの顔を見合わせる。
そして、もう一度――リナさんの持っているものを見る。
……クッキー?
これが?呪物じゃなくて?
「ライカンさん……ごめん」
「……?」
僕はそっと一歩、後ろへ下がった。
本当にごめん。助かるにはこの方法しかないんだ。
「リナさん!」
「はい?」
「ちょうどライカンさんがクッキーが食べたいと仰っていましたよ!」
「レイト様!?」
……ごめん、ライカンさん。
僕はタヒぬわけにいかないんだ。
後は――頼みます。
「じゃあ僕用事があるので僕はこれで!」
踵を返す。
そして――走る。
全力で。
エーテリアスに追いかけられた時よりも速く。
全力で逃げた。
「にしても……うっ…思い出すだけで」
思い出すだけで、胃が重くなる。
……あのクッキー。
いや、クッキーだったのか?
考えるのはやめよう。
カメラは――また今度にしよう。
でもまあ――。
「……ライカンさん、頑張ってください」
遠く離れた空の下、僕は静かに祈った。
……本当に、ごめん。