『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~   作:大和ユキ

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第25-1話:「熱」

「あのクソババアめ! こんな大切な時期に何してくれてんだ!」

 

 

 翌日の朝八時、知恵の館の傍に建てられたホテルの一室で。

 ルイの組織「盟約」と敵対しているはずの「円卓」リーダー、獅子心王リチャードが私の目の前で机を叩き割りながらそう吐き捨てた。

 

 ルイが提案しつつ自ら盟約へ許可を取り付け、リチャード側が「怪物殿の頼みとあらば」として実現した対談。

 私とリチャードが対面する横で、さっきまで文字書きに使っていた机がいきなり叩き割られたことに、ルイは手をわなわなとさせながらひどく困惑していた。

 

 机の上に置かれていたコーヒーの缶の中身がこぼれ、スリッパ越しに足へと染み込む。

 

「すまんな、ついカッとなってやってしまった。あとで弟……ジョンに掃除させる」

 

 ジョン……昨日私をアリエノールのところに案内しつつ警告した男か。

 あの人、リチャードにも小間使い扱いされてるのか。そりゃ自虐癖も付くわ……なんて、少しだけ同情の念が湧いてきた。

 

 

「けど実を言うと、何がそんなに問題なのかよく分かってないんです」

 

 昨晩あのメインホールであった出来事を指しながら、私はリチャードへそう質問をした。

 ルイから提案された「悪い企み」は、講和を僕らの有利に進めながらアリエノールをぎゃふんと言わせる方法を思いついた、というものだった。

 そりゃあ私はあんだけ酷いことを言われたわけだし、ルイのことだって侮辱された。

 

 けれど、それが原因でなんでリチャードがここまで激昂するのかが分からなかった。

 

 

「ふん……いいだろう、説明してやる」

 

 そう言いながら私の方を真っ直ぐと見つめ、ふんぞり返るリチャード。

 少し上から目線なのは気に障るけれど、この人は異能者の間では先輩で。

 そして何よりも、ロムルスに及ばずとも私より格段に強いのを肌感覚で感じ取る。

 

 

「あのババアがやらかしたことは三つだ」

 

 ゲクランとかもそうだったけど、この時代の男はなんでこうも視覚情報が多いというか、手振り身振りが大仰めいているのか。

 リチャードは手で三を作ると、今度は前のめりになって私へ説明を始めた。

 

「まず一つ目だが、これはまあ分かりやすいだろう。怪物殿、一応確認しておくが貴殿は盟約側の人間という理解で間違いないよな?」

 

「はい」

 

 ——盟約のリーダー、シャルルさんは現代を相当に気に入っているらしい。

 だからこそ彼は「やり直し」のゲームそのものを破壊することを目論んでいる。

 そこの目的は私にとっても間違いないと、なにげに初めてその立場を確かにした。

 

「だよなあ。盟約と円卓の講和会議。円卓の人間が盟約の人間と勝手に接触し、その果てに侮辱した」

 

「……!」

 

「へっ。気付いたか、その表情。そーだ、これはもう怪物殿だけの問題だけじゃねえ。会議そのものをおじゃんにしかねない大事件だ」

 

「だから、会議本番でいきなり出して場が引っ掻き回されないために今調整してるんですよね」

 

 ルイが丁寧な口調で私へそう補足すると、リチャードは「やるなあ小僧!」と言いながら子犬を撫でるみたいにルイの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

 いいな、ズルい。

 私もああやってわしゃわしゃ撫でたいけれど、あれやると怒るんだよな。

 あっ、そんなこと言ってたらうんざりした表情(かお)し始めた。

 

「……でも、まだ最初の理由なんですよね」

 

 ルイへ助け舟を出す意味も含めて、話を戻す。

 

「おっとそうだったな。それでババアがその場でやらかしたのは侮辱だけじゃねえ。厳密には、最初の同盟提案だけでもアウトだ」

 

「それは私が同盟を受ける受けないだけじゃなくて、提案しただけでアウトってことですか?」

 

「ああそうさ、あいつが勝手にやったこととは言え、これを傍から見りゃ『円卓が盟約側の新進気鋭の異能者を引き抜きに掛かった』以外の何物でもねえからな」

 

 あっ、そうか。

 あのおばさんは「もっと周りに強い人が居たらって思わない?」なんて提案してきてたけど、ちょっと離れて見てみると私がそれを受けたら盟約側からは裏切られたみたいに見えるのか。

 しかもあいつが勝手にやったことって、リーダーのリチャードに許可取ってなかったのか。

 

 当たり前だけどこういう感覚は全然身につかないな、と少しだけ反省した。

 

 

「今のが二つ目の理由。そして最後、三つ目の理由だが……これはババアのやらかしってより悪い癖って言ったほうが正しいかもな」

 

「悪い癖?」

 

 予想してなかったのか、カバンをボード代わりに何かを書き取っていたルイも頭の上に疑問符を浮かべる。

 

「ああ、悪い癖だ。この時代にあの時代の感覚を持ち込む悪癖だな」

 

 リチャードもうんざりしているのか、さっきまでな豪胆な語り口から一転、大きなため息をしながら口を噤む。

 

「まずだが、俺は政略結婚そのものは間違ってると微塵も思ってねえ。俺が前世に置いてきちまった嫁……ベレンガリアも恋愛婚と政略結婚の間みてえなものだったしな」

 

「……間違ってないのなら、なんでそれが悪い癖になるんですか」

 

「へっ、そんなの考えるまでもねえ。要は『古い』って話だ」

 

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