『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「……うむ、譲るとしよう」
リシュリューはそう言うと、ルイへと目配せしながら再び席へとつく。
ルイはそれを確認すると、リチャードやゲクランほど大仰めいてはいない、それでも上手いと思わせるような語り口と手振りで話し始めた。
「どうも、ここからリシュリューさんに代わって発言させていただきます、本田ルイです。確かに保護提案はあくまで口約束で、その破棄の定義も曖昧。そちらからしても、到底同じ解釈に及べるものとは思いません」
ルイははっきり、そしてすらすらと。
なおかついつもの元気溌剌さも僅かに残したような声色で、弁明を口にしていく。
そして。
「——ですが、こう言ったらどうでしょうか。正式な婚姻ではなくとも、私的かつ男女の蜜月の関係があったと言っては」
私的かつ、蜜月の。
僅かに心が揺れるのを必死に抑えながら、ルイの言葉を噛み砕く。
そう。これが、ルイの言った「悪いこと」。
アリエノールが、私を政略結婚の道具だとかなんだとかで汚してくるなら。
同じく、私たちの恋愛を政略結婚っていう型に鋳溶かして反論する。
もちろん、これで得られるのは会議の有利とアリエノールのぎゃふんという表情。
けれど私を一時的にでも苦しめた文脈で、あっちが痛い目を見るのならそれで上々だ。
「明確な開始時期は一週間前あたりから曖昧ですが、互いの関係を確定させた四日前のメッセージ記録なら。プライベートなのであまり公言したくはないですが、お出しすることも——」
「お黙りなさい」
ルイが話している途中で、アリエノールははっきりとルイへそう言いつけた。
あまりの迫力故か、さっきまで調子よく話していたルイもそれに固まる。
「あなたは日曜に教会へ行くこともしない不信心者ですが、予てからクリスチャンと聞いています」
えっ、そうだったの?
いわゆる「世俗的」ってやつなのかもしれないけど、付き合い始めても知らなかった事実にさすがに顔を崩す。
「ですが、なんですって。私的な男女の蜜月。現代人は恋愛だのなんだのといいますが、婚約すらしていない、愛人となんら変わらない関係をここに持ち出さないでいただきたいです」
……いまなんて言ったこの人。愛人と変わらないって?
いったいこいつはどんだけ私たちを侮辱したら——。
そうやって怒りが頂点に達しかけたとき。
ルイが、私の足を軽くちょんと蹴ってきた。
明確な、けれど小さな合図。別に乗り出して暴れようってのでもないんだからそんなことしなくたって——。
ルイの方へ顔を向けると。彼が、私のことを湿っぽい目線で見つめてきていた。
まるで、何か許可を求めるような。いいよね、と口にしているような。
そんな目線を。
「…………っ」
ルイが何を考えているか分からない。こんな展開は筋書きにない。
けれど、ルイなら。
ルイなら、信じられる。
そう思って首を縦に振った。
「……確かに、僕は不信心者かもしれないですし、僕らの関係は政略ではなく個人の恋愛です。ですが——」
その文脈が何を言うのかはさっぱり分からないけれど、途中でその言葉を切るなりルイが私の左腕を引っ張って立つよう促してくる。
理由もわからず立たされたあとに、ルイは私と彼の右手を重ね口にした言葉に。
私は、思わず耳を疑った。
「僕ら、きちんと婚約はしましたから」
「……………………はっ!?」
えっ……こんや……はえっ!?
えっ!? 私そんな風に受け取られることして……。
いやまあ確かに四日前、ルイに誘われた気晴らしデートで通りかかったシルバー屋で「欲しいな、一緒に買お!」って言って指輪買ったけど!
ぶっちゃけ束縛したいなって意図はあったけど!
だからってまだ婚約は——。
「ごめんね、めぐみ。まだ言っちゃダメな約束だったよね」
そうそう、まだ言っちゃダメでって違う! そもそもしてない、婚約!
ってか今、初めて「めぐみ」って呼んでくれた!?
今までにも理由のわからないことになって視界がゆがむことはあったよ、うん。
けれどこれはなに!? 恥ずかしさと嬉しさと意味不明さが混ざりあって理由わかんないことに——。
「ぶっ……」
頭の中で私の声がキンキン鳴ってうるさいところで、耳に誰かの声が入ってくる。
周りへ目を向けると、大体が「こいつマジか」って冷えた目線を向けていて、大佐がシャルルと一緒に今日何回目の、そして今までに聞いたことのないぐらい大きなため息をするなかで。
一人だけが、必死に笑いを堪えていて。
「ぶっはっはっはっはっは! おいマジか! くそっ……がっはっはっはっは!」