『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
ショッピングモールの裏側にある出入り口から外へと出てしばらくが経った。
微妙に暖かかったモールの屋内から一転、乾いた風が肌を撫でるたびに頬の毛が逆立つ。
裏出口って言っても人っ子一人居ないわけじゃなく、モールの最寄り駅がこっちにあるからか、人影もぽつぽつと目に入った。
そんな小さな都市公園のような雰囲気もあるこの裏口で、私は手持ち無沙汰に指を組み換えながらルイのことを待っていた。
「ガタンッガタン」
ベンチ横の青い自販機から、飲み物の落ちる音が二度鼓膜を揺らす。
ルイは軽く屈みながら自販機の取り出し口から二本の缶を取り出すと、そのうち一本をこちらへ投げてきた。
受け取った缶には、ありふれた銘柄に加え「無糖・ブラック」と書かれている。
「ブラックで良かったか?」
「……なんで私がブラック飲むって知ってんのよ」
普通、女子高生相手にブラックコーヒーなんて出さない。
自販機で買うのを見られているか、好意的に解釈するなら香蓮から聞いたか。
その答えは、ルイの浮かべた焦りの表情が示していた。
……さっきも思ったけど、やっぱルイってこういうの向いてないんじゃないかな。
ほぼ初対面の相手に「実は監視者で」って告白するのは何か順序を間違えている。
スパイ映画だったら間違いなくトラブルメーカーだろうなと思いつつ、ルイの方へ耳を傾ける。
今は、そんなことに構っている暇はない。
「さっきの話、聞かせて」
六年前の事件以上の惨禍。
本当はここまで来る間に聞きたかったこと。
あの店からここに至るまでの時間も気が気じゃなかった、いい加減聞かせて貰えないと私の方も困る。
「……結論から言おう。君は、ある男に狙われている」
ルイは前屈みになると、真剣な横顔を覗かせながらそう話を切り出す。
狙われている、と聞いて耳の奥で昨日耳にしたロベールの声が蘇った。
「……それってもしかして、昨日襲ってきたあの男と関係あるの?」
蘇ったのは、ロベールへ目的を聞いた際に本人が口にしていた『契約先があなたを交渉材料として望んでおられまして』っていう言葉。
頭の中で点と点が嫌な形でつながる。
「鋭いな。そうさ、ロベール・ダルトワの契約先はほぼ確実に君を狙っている男だ。軍が尋問した結果、身の安全を保障する代わりに簡単に口を割ってくれたみたいでね」
「なるほどね」
私も生け捕りなんて言われたのはほぼ初めてだったから、これで合点がいった。
っていうか今さらっと軍が尋問した結果って言った?
もしかしたらその「組織」と軍は協力関係にあるのか、なんて憶測が立つ。
そんな不明瞭な情報を埋め合わせるように思考を巡らせつつ、再びルイの方へ耳を傾けた。
「そして、君のことを狙っている男の名前だけど……名を『ロムルス』という」
ロムルス————。
そういえば、歴史担当のオタク教師の斎藤が授業を脱線してロムルスの話をしていた気が。
だとしても身近じゃない、物々しい名前なのに変わりはない。
食べ終わってから随分経ってアイスの甘ったるさが口の中で気持ちの悪さに変わったのを、コーヒーの苦みで洗い流した。
「ロムルスは今から二千年以上前、あのローマを興した張本人だ」
「……やっぱ、何回聞いても昔の人が来てるって感覚は慣れないかも」
「だろうね。僕もそう思うよ。例外は君たち現代人の異能者だけだ」
缶のカフェオレを開けて、それを呷るルイ。
へえ、私みたいな人が他にもいるんだ。
でもそうか、今目の前にも居るもんな、現代人の異能者。今更驚くことでもなかったか。
教科書に居るような人が現代に存在するのも信じがたいけど、私の怪力や治癒、
「けど第一さ、あいつらってなんで蘇ってるわけ?」
「ごめん……その理由はわからないんだ。けど、その目的は分かる」
「理由は分からないのに目的は分かるの?」
「ああ、しかも人間なら誰でも共感出来てしまうような目的で、それは……」
ルイがその続きを口にしようとした途端、何かに気が付いたような素振りをしながら口を固く閉じた。
まるで自分がそれを口にしたあとに何が起こるかを察したような、そんな雰囲気。
「……言いかけたなら教えて。私がなんでこうやって会いに来てるか忘れたの?」
——私がわざわざ会いに来てるんだから、包み隠さずに教えろ。
私から見てもなかなか性根の曲がった理屈。
けれど、それが香蓮の安全に繋がるのならなんとしても聞かないと。
目を細め、少しばかり俯くルイ。彼は僅かに息遣いを荒くしたのち、その続きを口にする。
「……人生を、やり直すためだ」