『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
これを否定したら人として何か大切なものを失ってしまう気がして。
首を縦に振る代わりに、彼へそう聞いた。
「……! もちろんだ! これは鈴原さんにも関わる話だからね」
ルイは目を大きく見開きながら、鼻から長い息を出した。
そのひとつひとつに混じる、隠しきれない安堵。
「でも、鈴原には口止めしておいてくれ。この話が世間に漏れるのは避けたい」
「……って言っても、なんて話したらいいか分かんないよ。いつまでに返事すればいい?」
「厳しいだろうけど、明日の昼までに返事が欲しい。急を要する事態なんだ」
小さく頷くも、結局話に乗ってしまったことに罪悪感を覚える。
いつもなら一人で解決するって啖呵を切ってたんだけど……ルイ相手だとどうにもいつもの調子が出せなくて、やっぱムカつく。
やり場の無くなった脚を組みながら、そんなことを思ってしまった。
「リリリリリリ……リリリリリリ……」
「……あれ、香蓮だ」
唐突に鳴り響く香蓮の着信音。
もどかしい思いも、少しの驚きの前に霧散する。
「おっ、丁度いいな。ついでに話の約束だけでも取り付けてくれると助かるんだけど」
「…………」
でも……珍しいな。
こうやって喧嘩したとき、仲直りを持ち出すのは毎回私の方だったのに。
少し違和感を感じるけど……まあ、気分が変わるときぐらい誰にでもあるか。
「もしもし香蓮、どうし——」
応答ボタンをタップした途端、スピーカーの向こうから漂う湿った吐息。
香蓮じゃ…………ない。
「ねえ、誰よ。あんた」
自分でも声がぐっと引き締まったのを感じる。
血相を変えるルイを無視し、その場から立ち上がった。
『っふ……まだ何も言ってないぞぉ?』
ねっとりした、湿度の高い声質。
鼻詰まりを感じさせるような滑舌の悪さ。
『俺の名はジャン・ド・モンフォール。正式なブルターニュ——』
「どうでもいい。香蓮はどこ」
『……まあ待てぇ、交換条件はあ——』
「香蓮はどこって聞いてんのよッッッ!」
喉から出る、怒気の籠った声。
周囲の通行人が、それにつられて一斉に私の方を振り返る。
『っっ!? めぐちゃん!? めぐちゃんなの!? ダメ、ここに来ちゃ——っぐ!?』
『黙ってろこのガキが……!』
「香蓮っ!?」
香蓮は喉に何かを詰まらせるような息苦しそうな声をあげ、また黙り込む。
電話の盗難、通信の偽造……散らかった可能性が、一番
誘拐だ。
「大和、何があった? まさか——」
横から状況を聞いて来るルイへ無言で鋭い眼光を向ける。
義理人情もないような行動なのは分かってるけど、今はそんな状況じゃない。
私の意思を察したのか、ルイも一瞬目を見開いたのちに首を縦に振った。
「……目的はなに」
電話へ戻り、私の方から話を戻す。
怒号が飛びかけたけど、耳に残った香蓮の声がそれを抑えた。
『っふ……今から一時間以内、指定した場所へ来いぃ』
「目的はなにって聞いてるんだけど」
『警察や軍の気配を感じたらこのガキを殺す。いいなぁ?』
私へそう釘を刺し、真意を伏せたまま通話を切る誘拐犯。
通話終了のツーツーという電子音が鼓膜を揺らす。
「大和、
「……ええ」
「クソ……もう動かれたのか!」
視界の端でルイが明らかな動揺を浮かべる。
けれど……動けない。視界が窄み、通話終了の香蓮のアイコンへ吸い寄せられる。
なんで香蓮?
私が背負うべきなのに?
香蓮が巻き込まれる義理はないのに?
でも一つだけ確かなことは……このままだと、香蓮が死ぬ。
それが頭に過った瞬間、脳の血が沸き立った。
「相手は誰だった? 目的は? 鈴原さんは無事だったか——!?」
そんなに鬼気迫った表情をしているのか、その丸い目を剥くルイ。
異能の力を行使する時特有の、神経が熱を持つような感覚が腕にほとばしる。
音を立てて軋むスマホ、その画面に映し出されているのは一件のメッセージ。
『名和の臨海部、中京製鋼の廃工場跡地へ来い』
場所も分かった。
なら、私がやるべきはここで突っ立ってることじゃない。
「……行くわよ。助けてくれるんでしょ」
ルイの言葉を試すようなことだけを口にして、私たちはベンチの元から足早に去った。