『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「……まさか」
「そうだ、
ルイはハッとした表情を浮かべながらジャンのもとへと近寄りポケットを
「位置情報が有効……ここに居るのがバレてるのか!?」
「ああ、そうだ! だから早く!」
「えっ? 何? 何の話?」
二人にしか分からない話をしているみたいで、話についていけない。
けれどこちらに振り返る血眼になったルイの目線が、現状がただごとではことを訴えているとだけ理解できた。
「すまない大和、今は説明をしてる暇はない! 僕はこいつを担ぐから大和は鈴原を抱えて今すぐあれに乗って——」
「……ねえ。あれ、なに」
動き一つひとつに焦燥を滲ませたルイが、半ば命令口調で私へ言いつけた直後。
ヘリコプターのその更に向こうの上空に、見慣れないものを目にした。
暖色と寒色の混ざった、青紫で彩られた光る雲のような。
例えるなら真っ黒な水の入った絵の具バケツに、筆先で青紫の色水を垂らしていくような。
そんな幻想的な何かが、夜空にぽつ、ぽつと私たちの方にまで彩りを広げてきていた。
まるで宇宙や銀河を思わせるような光景を目の当たりにし、頭の中の疑問符が最大に達した瞬間。
周囲に轟音と閃光が響き渡る。反射的に目をつむるとともに、香蓮を抱く力が不意に強くなった。
身体にはなんともない。ならあれはいったい——。
心が乱れ一緒に目を開けると、一機の軍用ヘリが火の手を上げながら廃工場へと墜ち、工場の真ん中で爆炎を上げた。
墜ちた場所に可燃物でもあったのか、この廃工場一帯が仄明るい炎でじんわりと照らされる。
「……え」
人が、死んだ。何の前触れもなくこんなにもあっさりと。
なのに困惑ばっかりが前に出て、その衝撃を理性でしか理解できていない。
さっきまでヘリのあった宙に残されたのは、あの彩られた雲の残滓。
墜落から間髪入れずに、もう一機のヘリが墜落した方へ機関銃を乱れ撃つ。
赤い弾道が夜闇を照らし、少し間を置き二発のミサイルが白い尾を引きながら打ち込まれた。
「ここ……街中、だよ。何が起こってるの……?」
今までも異能者と戦ったあと、ヘリが回収に来ることはあっても戦うなんてこと無かったのに。
目の前で起こっていることの理解を脳みそが勝手に拒んだ。
そのヘリも一拍置いたのち、またあの雲に彩られながら真っ二つに折られその場へ落下していく。
「ねえ、ルイ! 教えて、何が起こって——」
不安に駆られ、香蓮を抱えたままルイの方へと目を向けると。
既にルイの足はわなわな小刻みに震え、竦んでいた。
その手も
彼は唇を震わせながら、言葉を力なく綴る。
「来る……ロムルスが……!」
「ロム……ルス?」
確か私を狙ってるっていう——。
その時。
私たちの背後に「何か」が落ちてきた。
軽い足音を立てながら着地したそれは、こちらのことをただ無言で眺めている。
そんな光景が、上空に陣取っている黒鳥から情報として送られてきた。
ただそれだけなのに。
野犬に、獅子に、緋熊に背後を取られたかのように、体の筋肉がガチガチに固まって動けない。
額から流れ、目に入った汗を瞬きで掻き出すことすら憚られるばかりか、意識の無いはずの香蓮の毛が逆立って、私の手のひらを撫でた。
そんな圧倒的な何かがよりによってここに……いや、ここを目がけて墜ちてきた。
「……これは、どういうことだ」
私とルイの間を悠々と横切ったロムルスは、縛り付けられたジャンへと歩み寄っていく。
その通り際に目にした鋭い眼差しに、思わず息を呑まされた。
堀の深い顔、色黒な肌、カールの掛かったセミロングの毛髪に、左肩のあたりに金銀で彩られた紺色の一枚布を身に着けた男性。
特徴一つずつはなんてことないのに、私たちの方に何の関心も向けていない余裕な様子が、既に強烈な胃の痛みを更に駆り立てに来ている。
「ちっ! 違います! これは勘違いと言いますか!」
「何が違う。言ってみろ」
「あっと……そ、そうです! 回復! 回復の機会を伺っていたのです!」
そうやって醜く言い訳をするジャンへ、ロムルスは純然たる失望の眼差しを向ける。
「……もう
異変……もしかして、ルイの最後の一撃のことか。
ロムルスは溜息混じりにそう零すと、肩の布地から小さな留め具のようなものを
「ロ、ロムルス様! どうか命だけは……! もう一度チャンスを!」
「——待たん。これが契約の代償だ」
ジャンがそうやって命乞いするも、ロムルスは意に介すこと無く手刀をジャンの胸に突き刺した。
瞬間、またあの「雲」がジャンを中心に広がる。
その雲から身体全体で熱を感じるとともに、頬に生温かい液体がかかる。
——血。ジャンの、血。
ジャンはその胴に大きな穴を穿たれ、真っ二つになって、そして……死んだ。
あいつを縛り付けていた街灯も下のあたりでへし折れ、轟音を響かせながら倒れる。
死んだ。殺した。こんなに簡単に、躊躇うこと無く。
なのに今は目の前のこの男に視線が釘付けになる。
まるで手洗いのあと撥ねた水気を切るように、ロムルスは一枚布で自分の顔に付いた血を左座もなく拭き。
ついに、その視線をこちらに向けてきた。