『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
翌日の五月十日の昼十二時ごろ、名古屋駅の北あたりにある
洗面台の鏡に自分の姿を映しながら、前髪やブラウスのフリルをあーでもない、こーでもないといじくり倒していた。
昨日、ルイから来たあのメッセージのあと。
私は香蓮の言うがまま、こないだ一緒に行ったのと同じモールへと連行され、二十着以上の上下セットを子供が自分の人形を着せ替えするみたいに試着させられた。
そればかりか店のラインナップに気に入らなかった香蓮は、モールでスカートを一着だけ買うと私を自分の家に連れ込み、これまた何着か着せ替えて最終的に今身につけているトップスを押し付けてきた。
そんな着せ替え職人鈴原香蓮が選んだ上下セットは、良くも悪くも
トップスは飾りすぎない程度にフリルが付いた、ベージュの柔らかい生地でできている袖無しブラウス。
そして横断歩道の標識のペンキを原色でぶちまけたみたいに真っ青な、これまたふわっとしたフォルムのロングスカート。
おめかしした私の姿を「めぐちゃんは脚長いから、下手に脚を出すよりもロングのスカートでおしとやかに見せた方が映えるね!」なんて香蓮が寸評したのは今朝のことだった。
「うう……学校のじゃないスカート慣れないよ」
通気性の良いスカートが気持ち悪いけど、今は顔のほうが大事。
香蓮が昨日化粧も選んでくれたけえど、今日はポーチに入れただけで使ってない。
厳密には今朝試しに化粧してみたんだけど、結果召喚されたのは目の異様に大きな化け物。
そんなわけで今日はその化け物を洗い流してから保湿、軽くファンデで調子を整えてきたぐらいで、化粧らしい化粧はしていない。
幸いなことに顔の産毛や眉を剃って整え、リップを塗って唇に艶を出すだけでも顔の見てくれは最低限確保出来るし、美容院は先週行ったばっかり。
「ああもう! 埒があかない!」
私としてはいつもの格好で行っても良かったと思ってたところを、わざわざ香蓮がおめかししてくれたんだ。
変にいじくったりせず堂々と行けば良い。そうに決まってる。
ある種の割り切りというか諦めを感じながらも小さく息を吐き、さっき電車から降りてきた人の人混みに紛れるように駅の構内へと出ると。
栗色の髪毛をした見覚えのある男の子が、私の姿を見るなりその脚を止めて向き直ってきていた。
「ル、ルイ……!」
いつもと変わらない栗色の毛をしたぱっつんのメンズボブ。
その琥珀色をした瞳を大きく見開いて、私のことをただ何も言わずに眺めてきていた。
ちょっとした柄の入った白いシャツの上から、触り心地の良さそうな薄手生地の紺色の上着を羽織っていた。
スタイリッシュに振り切らずに、けれど今日が学校でのプライベートの日だってことを全力で主張してくるような装いで。
っていうか、あと集合時間まで二十分はあるのになんでこんな場所にいるの?
けどそれは私の方も同じか、なんて内心でツッコんでみても今目の前にルイがいるって事実は変わらなくて。
彼を目の前にして、意図せず思考が空回りし続ける。
「や、大和……は、早いね」
電車から降りてきた一団がすぐそこにある改札口を通ったあとになってから、ルイはやっとその口を開いた。
でもその反応はどこか余所余所しくって。
そればかりか、一度口を開いてからというものの全く目を合わせようとしない。
……もしかして、さっきお手洗いであれこれいじりすぎた?
香蓮に合格をもらったのは行きの電車に乗る前だし、私が余計なことしたかな。
ってか、あれ、なんか、私。
あーだめだ、自分でも分かるぐらいにあがってて視界がくらくらする——
そう自覚した頃になって、ルイが少し申し訳なさそうに口を開いた。
「その……前私服見た時と随分違っててさ……今日が
やり場に困ったように、右手で頭を掻くルイ。
そして泳いでいた目がぴたっと止まり、そのままゆっくりと私の方を向く。
「すごく、似合ってるよ。大和」
「…………!」
そ、そっか。ちょっと戸惑ってただけか。
でも考えなしに黙り込んで相手を困らせるのはいただけないよ。
そうやって軽口混じりに釘を刺そうと思ったのに。
「あ、ありがとう」
恥ずかしさに混じって正直な声が漏れ出ちゃう。
っていうか、なんかさっきとは別の意味で顔が熱くって。
「……! ほ、ほら行こう。ずっとこんなとこいるのも迷惑だし。チケットももう取ってあるから」
「そ、それもそうだね! 行こ行こ!」
誰も居ない駅構内に迷惑もなにもないでしょ。
それに対してツッコんでしまえば、彼についていく後ろで私がどんな顔をしているのか見られてしまう。
だから後ろから見える彼の表情も見なかったことにして、お互いの顔を見ないためにその言葉を必死に呑み込んだ。
あれ、でもチケットといえば。
そういや今日ルイと一人で会うってことにかまけすぎて、どこ行くのか聞いてなかったや。
……まあ彼と一緒なら大抵どこでも楽しいだろうから、別にいっか。
その油断が命取りだったことを知らずに、私は真っ赤になった顔を手で仰ぎながら改札をくぐっていった。