『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~   作:大和ユキ

45 / 49
第11-2話:手を掴むこと!

「…………え?」

 

 彼の告白を聞いたあとに漏れ出たのは、自分でも分かるぐらいに気の抜けた声。

 「信じられない」とか「受け入れられない」じゃなくて、普通に言っていることの意味が分からない。

 本当は一発で理解してあげるべき場面なのかもしれないけど、本当に意味が分からないからどうにも……。

 

「じゃあ、簡単な例え話をしよう」

 

 理解出来ていない私を見かねてか、前屈(まえかが)みから一転、今度はベンチの背もたれに体重を預けたルイがその続きを口にする。

 

「異能者は二種類に分けられる。その種類ってのは分かるか?」

 

 あっ、どんな話だろうって思ったら()()()とか異能周りの話か。

 異能者の分類……っていきなり聞かれても思いつかないな。

 

「……良い異能者か、それとも悪い異能者か。とか?」

 

「っておい、そうじゃないだろ」

 

 調子を崩したように溜息を漏らすルイ。

 そう言われても、私にとっては今までそれが全て……もっと言えば異能者は私か私以外かだったんだから仕方がない。

 

「まあそれも間違ってないかもしれないけど、そんな分類は今から言う分類の前には全く意味を成さない」

 

 ルイは左の握りこぶしを身体の前に出すと、その手で一・二と数字を刻んでいく。

 

「一つ、過去の異能者。ロムルスやジャンみたいなあらゆる時代の英雄や支配者たちが、死の後にこの時代へとやって来て異能を授かるケース。二つ、現代の異能者。大和含め今のところ七人しか確認されていない、現代人の親から生まれた子が異能を授かるケース。この二つだ」

 

 あー、なんか前モールで話した時にルイがそんなことを言ってた気が。

 正直あの周りの話は「六年前以上の惨禍」って前振りに頭を引っ張られすぎて、覚えてたりそうじゃなかったりが曖昧なんだよね。

 

「てか現代の異能者って七人しかいないんだ。私も自分とルイ以外知らないなあ」

 

 何気なしに口にしたその言葉に、息を詰まらせるような表情を浮かべるルイ。

 

 ……あれ、今私なんかおかしなこと言ったかな。

 実は私とルイ以外にも、知ってる人で他に現代の異能者がいるのかな……なんて予想したあとで。

 

「…………大和、ごめんな。僕はその七人に含まれていないんだ」

 

「ルイが……えっ……えっ?」

 

 さっき彼の言った「僕は、僕じゃない」って言葉で驚けなかった分もあってか。今度こそルイの言った言葉の意味に言葉が出なかった。

 ボトルを握る力が僅かに強くなる手。肺が凍ったみたいに息が苦しくて、なのに喉を通る空気の音が頭蓋の中に響いて。

 脳みそが全力で他の可能性を探った。

 

 七人には含まれていないけど実は八人目の、とか。

 実は第三の分類があって、とか。

 

 けれど、それじゃわざわざ種類だとか人数だとかを細かく話した意味が分からなくて。

 ルイが「過去の異能者だ」って以外の結論を導き出せなくて。

 

 でも、その事実よりも私が言葉を失ってしまったのが。

 彼の眺める私の顔がそんなに酷かったのか、その口を固く噤みながら瞼を震わせ、怯えるような表情をしていたことで。

 皮肉にもそれを目の当たりにして、初めて曇った視界や思考が晴れてきた。

 

 

「……順を追って話そう」

 

 小さく息を呑み、視線を落とすルイ。

 ここからは一旦彼の話に耳を傾けようと、小さく息を吐き出し聞くことに専念する。

 

「僕が物心ついたのは、幼稚園に入ってしばらくした頃だったと思う。その時は広島に住んでいて、お義父さんと二人で暮らしてたんだ」

 

 今のところはなんてことない普通の話だ。

 ずっと愛知(こっち)で暮らしてると勝手に思ってたから「広島で育った」ってのがちょっと意外なぐらいで、別にどうってことはない。

 

「でもな、おかしな話はここからなんだ。僕はその時期に初めて、自分の名前がルイだってことを()()()()()んだ」

 

「……思い出した?」

 

「ああ、本当に突然……なのにそれが間違いじゃないってのだけは分かって。お義父さんも過去の異能者なんだけど、義父さんが今の時代に来て目覚めた時にまだ首が座ったぐらいの赤ちゃんだった僕を抱えていたらしくてね」

 

 ルイはちょっとだけ可笑しそうに「まあ、物心がつく前だからその時のことは覚えてないんだけどね」なんて、苦し紛れに作り笑いを浮かべた。

 なるほどね……なんとなくだけど話は読めてきた。

 つまりは、赤ちゃんの状態でこっちに来たから……前世って言ったらいいのかな。

 そのときの記憶が全くなくって、覚えてるのは自分の名前だけ。ラベリングだけは過去の異能者、なのに過去の記憶だけが無いっていうちぐはぐな状態になって。

 

 まとめた考えを口に出すと「ああ……その理解で問題ないと思う」って、ルイは一切の言い淀み無く首を縦に振った。

 語りを続けるのをやめ、またもや前屈(まえかが)みの姿勢になる彼。

 その表情には、山場を乗り越えて息を落ち着けるような息遣いと、それでも私の反応を見逃さまいとこちらへ視線を送る不安そうな表情の二つが混ざり合っていた。

 

「そしたらさ、なんでわざわざ言ってくれたの? 別に黙っておく選択肢もあったと思うんだけど」

 

「この話は過去の異能者たちの間で有名でさ。現代の異能者の中にも知ってるやつがいるから、他人から言われるぐらいならって思ったのと————大和とは、長い付き合いになる気がしてさ。それは一緒に戦う仲間としても、友達としても。だから嘘は吐き続けたくなかった」

 

 ……隠し事は嘘じゃないよ、なんて甘えはこの場ではご法度かな。

 実際私も現代の異能者だって勘違いしてたぐらいだし、これがルイの口以外から耳にされていたら受け入れられたか分からない。

 

 にしても、そっかあ。ルイが過去から。

 でも昔の記憶はなくて、自分の名前以外はいまの生活の中で築かれたもので。

 

 最初は頭が真っ白になってどう受け取ったらいいか迷ったけど……私にしてはかなり早い段階で答えは出ている。

 けれど、これを言う前にルイの気持ちを汲まなきゃいけなくって。ルイ自身に選んでもらいたくって。

 

「……ごめんな大和、せっかく楽しい時間だったのに。今日はこれが言いたかっただけだから、ちょっと歩くけどパルコとか栄の方にでも——」

 

「じゃあさあ、ルイ」

 

 そうやって前置きしながらカバンを置いてベンチから立ち上がって、ベンチから離れようとするルイの前へ通せんぼするみたいに立ちはだかる。

 ルイはきょとんとした顔を浮かべながら、もう一回ベンチの方へと腰を落ち着けてくれた。

 

 …………今からする質問は、すごく意地の悪い質問かもしれない。

 私がこれを聞いてしまったら、ルイは一つの答え以外口にできなくなるかもしれない。

 

 でもこれは必要なことだから聞かなきゃいけない。いつか誰かが聞かなきゃいけないのなら、私が最初に聞きたい。

 既に西に傾きつつある太陽を後ろに、手を後ろで結びながらルイの方へと向き直った。

 

「ルイはさ。その前世の自分と今の自分、どっちがいい?」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。