『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「…………」
問いかけにぐっと口をつぐみ、唇へと皺を寄せるルイ。
物憂いを孕んだ息遣いが何度鼓膜を突き続けても、ただその場で手を結いながら立ち続ける。
どんな答えでもいい。なんなら答えになっていなくたっていい。言葉じゃなくてもいい。
彼へ微笑みかけながら、何か彼なりの返事があるのをただひたすらに待ち続けた。
「……興味が、ないわけじゃない」
そう切り出しながら、ぽつぽつと考えを口にしていくルイ。
声色は今までで一番頼りなくて、そしてか細くて。
それでもさっきよりは自信を持って紡がれていることが、芯のある口調から分かった。
「この身体が誰のものなのか、僕の正体がいったい何なのか……興味がないって言ったら、それは嘘になる」
まあそれはちょっと分かっちゃうかも、ちょっと違うけど人類のドキュメンタリーとか好きだし。
記念館でのルイの言い草からして、私よりもそういう興味は強そうだったし。
「でも……それを暴こうとしたら、
そのあと、声になっていない息を吐きながら再び言い淀むルイ。
大丈夫だよ、焦らなくて良いよ。私はここにいるから。
内心宥めていると、ルイは絞り出すように「それが、怖いんだ」と告白し——。
「だから……僕は、今の僕でいたい」
彼は自分の口で問いへの答えを、彼の意志を、そして切実な本心を言葉にした。
見上げるルイの瞼からは、憂いを残しつつも震えと一緒に混じっていた迷いがさっぱりなくなっていた。
自分の両手を合わせるとともに弾けるような音が周囲へ響き、私の上ずった声が広場の一角へと響く。
「よし、じゃあ決まり! もしも
まとめて受け入れるとは言わない。
多分だけど彼はそれを望まないし、簡単に思いつくだけでルイの意志を全く汲めてないように思えて。
「だからルイ。もしそうなったら、ルイの方も私の手を掴むこと! いい? 約束だよ?」
約束。その言葉とともに、彼の近くへと手を差し伸べる。
口を開け、ぽかんとした表情を浮かべるルイ。
かと思えば、私をからかうように鼻で笑った。
「な、何かおかしなこと言った?」
「……いや、みんなは『そうなっても受け入れてやる』とか言ってくれてたんだけどね。そういう提案は初めてされたからさ」
「えっ、そっちの方が良かった?」
今の一言、結構勇気絞って言ったんだけどな。
けれどその言葉とは反対に、ルイは目に疲れを帯びつつも今日一番の笑顔を見せてきた。
「いいや……そうなったら、身体を返すしかないのかなって。僕は仮住まいさせてもらってるだけなのかなって思ってたから。僕が僕のままで居て良いってのは、変な話だけど……僕にとっても考えつかなかったから……」
さっきまでの憂いはどこへいったのか。
瞼を震わせながら自分の手を眺め、ほんとうに新しい発見をしたみたいに息に興奮を混じえていた。
「だから……ありがとうな、大和」
「……ッ!」
僅かに目を細め、はにかみながらそう告げながら私の手を取るルイ。
少し前にも握った彼の手は、相変わらず小さくてもきちんと男の手をしていて。
でも今の約束は何の問題解決にもなってはいないし、今すぐ解決できる問題じゃない。
それでも今朝からどこか浮かない表情をしていたルイが、やっとその重荷を降ろしたような表情を浮かべてくれたことがすっごく嬉しかった。
……っていうか今気付いたけど私相当キザなことしてなかった?
内心笑われてたりしないかな、ちょっと心配になってきた。
「急にこんなこと話してごめんな。大和」
「いーよ別に。昨日から聞いてたことではあったし」
ズボンの埃を払いながらベンチに忘れ物がないかチェックするルイ。
なんか見てる感じ、今日の山場は超えた感じかな。
ルイが秘密を打ち明けてくれたことは嬉しいけど、これは彼にとっては切実な問題で。
私が「聞けて良かった」なんて漏らすことは口が裂けても————
「あれ、そういえば」
切実な秘密っていえば。
ルイは、あんなにも言いづらそうにしていた秘密を私に共有してくれた。
でも重い直せば私の方にもあるじゃん、言いにくい秘密……それもルイのものに比肩するぐらい大きな秘密が。
そのお返しってわけじゃないけど、この際だから私の中に眠る悪魔——リヴァのことも言っておくべきなのかもしれない。
「ねえルイ、私の方からも——」
そうやって私の方から話を切り出しかけたところで。
ここから少し遠く、モール前の広間の方から「きゃー!」という女性の甲高い声を鼓膜とつんざいた。
「向こうの方からだ……!」
「行こう、大和」
ルイの言葉の通りに、横のレンガ造りの建物の間を縫うように広場へと駆ける。
あーくそう、さっきまではちょっと背伸びできて嬉しかったヒールが邪魔くさいったらありゃしない。
広場の方からは、顔に焦りを浮かべあからさまに動揺した人達がこちらに逃げ込んでくるのを目の当たりにして、向こうでただならぬ何かがあったって疑いは半ば確信へと変わった。
レンガ造りの壁の終わり際、高電圧注意という注意書きがされた配電設備らしきボックスの裏へと隠れる。
その裏からすっかり人が掃けた広場の方へと顔を覗かせると——。
「ねえ、ルイ……あれなんだっけ」
広場の真ん中に植わっていた一本の広葉樹の周りに、異様な外見をした二十体ほどの
その装いは、頭にターバンを巻いたりアラビアンな鎧を身に着けたりなど様々。
けれど、異様なのはその装いじゃなくて表情。
比喩じゃない文字通り透き通った青白い肌を持つそれは、その表情が読み取れないどころか鼻や口などの顔のパーツが一切無いのっぺらぼう。
手足の動きや背丈こそ人間のそれではあるけど、その異様な外見からしてただの人間とは到底言えなかった。
ニュースなんかで何回か見たことがある、いまいち正体については知らない奴ら。
でも正体が分かんなくても、その手に握られてるのが槍や剣などの武器だってことは確かで……なら、見過ごすことはできない。
このデートを上空から見守ってくれていた
「待て大和。あれは異能者じゃない、霊兵だ」