『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「霊兵?」
「ある程度の強さを持った異能者が召喚できるしもべみたいなものだ」
ってことはつまり、今まで私のことを狙ってた弱い異能者じゃ召喚すらできなかった代物ってことね。
そりゃ直接見たことがないわけだ。
「周りに危害を加える様子もないし、多分主人からの命令を失って迷子になってるだけだ。こちらから出れば余計な被害が出る可能性もある」
そう言われたら、確かに路頭に迷ってるだけに見える……かも。
さっき逃げ惑っていた人たちを追いかけてもいなかったし、周囲に血痕や被害者の姿もない。
けど異能周りの厄介事には変わりない、この物陰からしばらく観察に徹するべきか——。
とりあえずの結論をつけたところで、私たちの後ろから何か黒い影が迫ってきているのが
そこから一瞬遅れて、強く踏み込む足音が鼓膜を揺らす。
次から次へと、今度はいったい誰——
「ルイッ! 伏せて!」
その疑問を口にする前に、私の手がルイの頭へと勝手に伸び、彼の身を屈ませた。
常人なら目にも留まらぬ速さでこちらに近付く……敵か。
「ッ!? あっちの方に行くの!?」
「バカヤロー、好きにさせておけばいいのに突っ込むっていったい誰だ——」
珍しく言葉を荒げながらも、顔を上げ駆けていった影を目にした途端に固まるルイ。
奇しくもそれは私も同じで、影は霊兵の一団へと割り込むなり次々と手にかけていく。
その影は霊兵たちとは違ってきちんと人間の肌を持っていて、毛髪は銀髪。
目つきから多分日本人だってことも分かるけど……目を引くところはその強さ。
一閃、一突き、そしてまた一閃。
攻撃を加える度に、霊兵たちが光の粒子となって消えてゆく。
その戦いの素振りを目の当たりにして受け付けられたのは、「強い」っていうシンプルかつ強力なインパクト。
そして最後の霊兵を片付け、両足を落とされた霊兵を足蹴にしながら首へ一閃を加える男。
……見たところ、霊兵はダメージを受けると異能者とは違って光の粒子となって消え、死体は残さないみたいで。
だからあいつらは生きた人間じゃないってのは見て分かる。
それでもその男が霊兵へ加えた一蹴りに、何か蔑むような意図が含まれていた。
「…………」
勝利に息の一つすら漏らすことなく、首を鳴らしながら腰に差されていた鞘に刀をしまう。
男の装いは和洋折衷、黒のナポレオンジャケットと袴が一体になったような服を着込んでいて、肩の部分に目立っている肩章が日光に反射して黄色く光り輝いていた。
周囲を見渡したあと、その釣り上がった目は最後私たちの方へと向けられ、その足も同じ方向に運ばれてくる。
——今度は、私たちか。
ただでさえヒールで足元が悪いのに、さっきの動きを見せられたあとだとついていける自信が余計になくなる。
いっそのこと、裸足か踵の棒を折るかした方がマシになるんじゃ。
そう思い左手でヒールに手を掛けようとした瞬間。
「大和、剣をしまってくれ。あいつは戦う相手じゃない」
ルイが細々と口を開き、私へ武器を降ろすよう言ってきた。
けれど肝心のルイの額にはこの暑さだけじゃ説明できないほどの汗の粒がついている。
「で、でもあいつこっちに近付いてきて」
「向こうも刀を抜いちゃいない。だから大丈夫だ」
「……分かった」
別にあいつのことを信頼出来たわけじゃない、ルイの言うことを信じただけ。
空気を含ませながらそう言って、
直後、私から五歩ほどの距離で。その男が股を軽く開きながらブーツの靴底を鳴らした。
「なぜお前らが共にいる。大和めぐみ、加えてそこの異能者」
わずかに低く、透き通った声。凛々しい外見から年上だと思ってたけど、もしかして同年代?
ってか初対面なのに私の名前知っててどこか不満げだし、ルイのことも異能者呼ばわり。
疑問に重ねられた疑問が頭の中を駆け巡るそばで、ルイがゆっくりと口を開く。
「……須藤、武蔵」
喉をぐっと締めたような声で、苦しそうにその名を口にするルイ。
歴史は平均点取るぐらいの私だけど、その名前と合致する人物は古今東西思い当たらない。
けれどその態度に口調、声色。そして何よりも私の勘が「あいつはいけ好かないヤツだ」ってことをしきりに訴えてきている。
今んとこ、強そうなのと服がかっこいいこと以外に褒めるところが見つからない。
「気軽に名を呼んでくれるな、異能者。二度と俺の前に姿を見せるなと言ったはずだが」
二度と俺の前に姿を? そんな約束をした覚えはない。
須藤の目線に沿うように後ろへ振り返った先で見たものに、思わずぎょっとする。
額に汗をびっしりと纏わせたルイ。今日は暑いって言っても、それだけじゃこの汗の量は誤魔化せないほどの量。
「須藤くん……これはさすがに仕方ないじゃないか。それに大和を置いて去るわけには……」
「黙れ。こうして話をしてるのも大佐との約束ありきだ、分かったら俺の目の前から——」
弁明を図るルイを全く相手にしようとしない須藤。
何あいつ? 初対面なのに脊髄で会話しようとするとか何様?
そういう意固地さもちょっと前まで鏡の向こうでよく見たから余計に腹が立つ。
「さっきからあんた何様? ルイが誰とどこで何やってろうとあんたには関係ないはずなんだけど」
「寝ぼけたことを言うな、大和めぐみ。お前もお前でなぜここにいる」