『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「は? なんのこと?」
「数日前、警戒色の縞模様をした封筒が届いたはずだ。そこに記された今日昼の面会へも行かずにここで何をやってる?」
はいでました、面会の要求。
どうせ私のことを利用するだとかなんだとかに決まってる、そろそろ私にその気が無いことぐらい分かってほしいんだけど。
っていうか今サラッと言ったけど、もしかしてこいつ軍の異能者?
「行くわけないでしょ、こっちはお楽しみしてたとこなんだから」
「はっ、よくそんなことを言えるな。お前のために時間を割いている軍人がいるとも知らずに」
そう言われて一人暮らしを始めた頃から軍から送られてきた封筒を、何度も何度も捨て続けてきた日々を思い出す。
もしかしてあの封筒の裏に毎回時間を作ってた人がいるってこと?
…………だとしても知るわけないでしょ、そんなの。
今の独白に開き直ったようなニュアンスがあることを自覚しつつも、須藤へと言葉の槍を向けていく。
「そんなこと言われてもね、あんたには分かんないの? 学校で『軍人さんが出てきた部屋から、遅れて大和が出てきた』って噂される気持ちが」
「知らん。俺は生憎齢一桁から柄を握ってきたからな、とうの昔に慣れた」
はあ……やっぱ軍からの干渉なんてまっぴら御免。
向こうは私の気持ちを何も汲んじゃくれないし、わざわざ時間を割いてるとか知ったこっちゃない。
ただ私が倒した異能者を連行して、あとは私の見えないとこで好きにやってて欲しい。
なのに向こうは、答えたくもない問いを投げかけてくる。
「そんなことはどうでもいい。もう一度訊くが、なぜお前が
「……は? あれって何のこと————」
「須藤くん、もうやめてくれ! これは
ルイがそうやって話を畳めようとした途端、カン……カンと金属のぶつかる高い音が鳴り響く。
その音は須藤の腰に差された鞘から鳴っていて……収められた刀の鍔を左手で持ち上げ、落とす。
右手を柄には掛けていないものの、抜刀を示唆する脅し。
ああ……分かった。須藤の言う「あれ」の意味が。
「…………あぁ?」
自分の中から聞いたことのない声が漏れ出た。
息を押し殺すようにして返事を続きにしようとするルイを置いて、一歩前へと出る。
「あんたね。さっきから黙って聞いてれば一体何様のつもり?」
「今お前とは話していな——」
「お前とは話していないって、そりゃ友達のことなんだから前に出るでしょ」
至極真っ当なことを言ったつもりなのに、須藤はため息を漏らしながら真っ当に取り合おうとしない。
さっきは私に言いたい放題言って私の質問には一切答えないって、不遜なのはいったいどっちなのやら。
自然と腕を組むような姿勢になって、誰もいないこの広場にヒールの奏でる貧乏揺すりのリズム、その静けさに終止線を引くように須藤の溜息が耳へと届いた。
「逆に聞かせてもらうが……なぜお前は
……なるほどね。「あれ」呼ばわりはやめないのね。
ルイには申し訳ないけれど、下手に私の見えないところでイビられるぐらいなら、そういう態度で来られる方が随分とやりやすい。
「ええ、知った上で友達やってるけどなんか文句ある? っていうか、あなたも初対面なのに私の神経を逆撫でするのが随分とお上手ね」
「…………そうか。過去の異能者を激しく恨んでいると聞いていたが。そうか」
吐息の混じったその言葉に混じる、隠す気もない失望のそれ。
別に良いわよ、過去の異能者で括るってんなら。
私もあんたのことを「いけ好かない異能者」のリストにぶち込んでやるから。
ふてぶてしいにも程があるのは分かってるけど、逆にこいつがそれだけ地雷を踏み抜き続けてるってことでもあって。
互いが武器を抜いてないだけの、一触即発のピリついた雰囲気。
怒りに任せて前に出たはいいけれど、どうやって場を落ち着けようかってのが抜けていた。
ずっとここで向き合ってんのも馬鹿らしいし、どっか隙を見てルイと一緒にこの場を離れて——。
そう思い、この場の畳み方を模索し始めたときだった。
公道の方から響くブレーキと排気音……広場の敷地内へと入ってくる一台のミリタリーグリーンのジープに目が釘付けになる。
しまった、軍の車両だ。しかも運転席と助手席に見えるのは軍の制服。
別にこいつが一人で行動してるって決まってたわけじゃないのに、思わぬ増援に細くなった喉から音が漏れ出る。
広場のタクシーロータリーへと停まるジープ、中から恰幅の良い男と若い女性がキビキビとした動作で降りてくる。
まずいな早いとこ切り上げたいのにこれだと更にややこしいことになる、これ以上の面倒に巻き込まれるのは御免だ。
けれど——その予想は思わぬ人物によって安々と裏切られる。
「須藤ッ! お前何してくれとんじゃ!」
須藤の上司か何かなのか、ジープから降りてきた私よりも拳二つ分は大きいだろう男が怒号を響かせながら大股でこちらに歩いてくる。
「勝手に飛び出して無線切り忘れた挙句、民間人になんだその口の聞き方は!?」
「……言っていることは間違っていなかったはずだ」
開き直るようなことをこぼす須藤、けれど男はそれに構わずに「黙れッ! 何も合っとらん!」と吐き捨てながら須藤の顔面へ裏拳をかました。
そのまま倒れ、受け身をとる須藤。
って言っても須藤は異能者、痛がってる様子も物理的に効いてる様子はない。
「来いッ! 叩き直してやる!」
須藤を引き連れ、またもや大股でジープの方へと戻っていく軍人の男。
でもあろうことか、須藤は最後に私のことを一瞬キリッと睨みつけてきた。
……いいわよ別に。私もこれからずっとそういう目でみるから。
でもこれで終わりかな、別にあいつからの謝罪もいらないし適当にあしらって今日の予定の続きを——。
そう思ってルイの方へと翻ろうとしたところで、今度はその後ろで待機していた女性が決心をつけたような表情を浮かべ私の前に出張ってくる。
「……なんですか、次は」
見た感じ三十にも届いていないぐらいの若い女性。
茶髪の上に軍帽を被り、陸軍の制服を着込んでいて背丈は私のそれよりもずっと低かった。
最初の印象はそれだけで、本来なら特に記憶に残らないような何の変哲もない女性。
「先ほどは、うちの須藤が申し訳ありませんでしたっ!」
「っ!?」
かと思えば出会い頭に深々と頭を下げ、謝罪を口にしてくる女性。
そのあとも「
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
お堅い分からず屋のイメージのあった軍人が私に対して頭を下げているのを目の当たりにして、思わずその肩を掴み頭を上げさせてしまった。
軍人ってこともあってか肩を持った感じは香蓮なんかとは違ってて、どちらかと言えば私に近い体つきをしているように思えた。
「そ、そうでしたね。自己紹介が遅れました」
女性はそう口にすると、その右胸についているワッペンを摘みながら自分の所属を明らかにした。
「日本陸軍所属の二等軍曹、町田聡実と申します。以後よろしくお願いします」
今まで私のもとに訪れていた、冷淡な態度の軍人とは違う。
その女性——町田軍曹の浮かべる事務的な謝罪の表情の裏には、何か朗らかなものが見え隠れしていた。