『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~   作:大和ユキ

49 / 49
第12-1話:本懐

「はー……結局来ちゃったな」

 

 名駅から車で十分ほど南、無骨なコンクリートの外見をした軍の事務局の応接間のような一室。

 壊れているのかなんなのか、不揃いのリズムで鼓膜を揺らす振り子時計の音。

 そこでルイと一緒に、さっきの女性の軍人が来るのをソファへ横並びになりながら待っていた。

 

「来ちゃったって、やっぱ嫌だった?」

 

「嫌っていうか、なんていうか」

 

 本音を言うと嫌だけど、さっきあの広場で「行く」って言った手前あんまりゴネるのも格好がつかない。

 っていうか、逆になんでルイは嫌じゃないわけ?

 

 現地にあの恰幅の良い男の軍人……兵藤曹長と須藤を置いて私たちと町田軍曹の三人でジープに乗ってここに来るまでの最中、ルイの口から須藤と何があったか聞いたけど、その理由はなかなかに理不尽で。

 

 ルイがまだ広島に居たころ、異能事件の後処理に訪れていたときに須藤に「過去の異能者」として名前を覚えられ、愛知に来たあと用事で軍基地に出入りするようになった頃に「二度と姿を見せるな」って言われたそうで。

 裏を返せばそれ以外には何にもなくって、少なくとも直接嫌われるようなことをした覚えはルイには無いらしい。

 

 でも…………そんだけ過去の異能者を恨むだけの理由が過去にあったことも、ハンドルを握っていた町田軍曹に仄めかされる形で聞いた。

 具体的に何があったのかは知らないけど、あれだけの恨みからただならぬ何かがあったことには、同情も納得もできるところもある。

 だからって殺しを示唆して良いことにはなんないけどさ。

 

 っていうかあの町田とかいう軍人もいったいなに——なんて、内心での愚痴大会が第二幕に突入しかけた頃になって、ようやく一人の女性が閉じかけになっていた応接間のドアを開けた。

 いくらかの書類の入ったピンク色のファイルを脇に挟み、上に何か乗ったトレーを両手した軍服姿の女性。

 

 町田軍曹は髪を耳に掛けながら「遅れてしまってごめんなさいね」と謝罪の言葉を口にすると、私の真ん前の一人掛けのソファへと越し掛けた。

 軍曹が机の上にそっと置いたトレーの上には、お茶の入ったコップが三つ乗っていた。

 

「この部屋ちょっと湿っぽいわね、暑くはない?」

 

「……まあ、ちょっと暑いです」

 

「そう、良かった。あと飲み物だけど緑茶で良かった? 麦茶とかお水、あとコーヒーマシンなんかもあったから——」

 

「別になんでもいいですって」

 

「あとさっきはごめんね、入口で詰まっちゃって。土壇場で使わせてもらうことになったって言っても貴方たちが子どもだからって事務の人に通せんぼされて——」

 

「………………」

 

 そうやって即答したあとも、ちょっと間を置いてどうでもいい話をマシンガンのように垂れ流し続ける。

 この流れは三人でジープに乗ってここまでやって来た時からずっとそうで。

 

 私の晴れ着とか髪色みたいなちょっとした雑談に始まり、愚痴混じりに須藤のことを再三謝ってきたりとかいろいろ。

 ……ってか、いつまで喋ってんのこの人。

 

 嫌いではないけど得意なタイプじゃないし、なんならちょっと鬱陶しいぐらいで。

 それにルイも知り合いだったのか、話題によってはちょっと楽しそうに話してたのが腹が立った。

 あくまで、理由の一つでしかないけどさ。

 

 

 

 「じゃあそろそろ本題に入らせてもらうわね」と背筋を伸ばす町田軍曹。

 それを目の当たりにして私たちの方も僅かに姿勢を正した。

 

「初めまして、改めて自己紹介させてもらいます。日本陸軍特別異能対策旅団所属の町田聡実と申します。階級は二等軍曹です」

 

「特別……異能? 旅団?」

 

「えっとね……異能者対応とか『ゲーム』の戦略を組み立ててる部隊だと思って貰えればいいわ」

 

 旅団って聞いてもクモマークの殺人盗賊集団しか思い浮かんでこなかったところに補足を入れる町田軍曹。

 横へ目を向けると、そんなこと知っているはずのルイも小さく首を縦に振りながら話に耳を傾けている。

 とりあえずこの場は形だけでも真剣に話を聞こうと、頭の中に湧いてでたファー付きコートを羽織ったオールバック男を記憶の底へとしまい込んだ。

 

 

「そしてこのような正式な場をお借りして、軍曹という階級ではありますが軍を代表して謝罪しなければならないことがあります」

 

 自己紹介をしたときと同じ、至って真面目な声調でそう告げる町田軍曹。

 謝らなきゃいけないことって、また須藤が私たちへ言ったことについてか。

 別にそれは最初にもその道中にも散々聞いたし、別に改善して欲しいわけでもないから今更どうだって——。

 

「先日はあなたのことを——大和めぐみさんのことをお守り出来ずに、申し訳ありませんでした」

 

「……えっ?」

 

 思ってもいなかった内容に思わず疑問の言葉が漏れ出るも、ルイは何か含みのあるため息を一つした。

 それを拾いたいところではあったけれど、今はそれどころじゃない。

 

「なんで、軍の人が謝らなきゃいけないんですか」

 

 多分、町田軍曹が言う「守れなかった」の話は霊兵や須藤のことじゃなくて、ロベールからジャン、そしてロムルスへと連なる一連の騒動。

 あの結果として私の腕にはロムルスの刻印とその契約が課されたわけだけど、だからってこの人がそれについて謝る義理は無いはずじゃ?

 

「国民をお守りすることが我々の責務にも関わらず、事態への対応能力が足りず——」

 

「そんな薄っぺらい理由を聞いているんじゃないんです。本当の理由を言ってください」

 

 だって、こんなの違うじゃん。そんなのは私が知ってる「軍」じゃない。

 もっとあるんじゃないの? 例えば謝罪して懐柔して利用しようとかさ。

 

 学校へずけずけ入ってきて「大和さんの欠課欠席については出席停止扱いにしてほしく」なんてされたくもない特別扱いをしてきて。

 その上学校の生徒にその姿を見られて噂されて。

 異能者との戦闘の後での事後処理でも冷たく事務的に対応してきて。

 私の力欲しさからか、ここ一年ぐらいは頻繁に面会の要求の旨が記された封筒を送ってくる奴らなんじゃないの?

 

 

「いえ、薄っぺらくなどありません。これが私たちの本懐です」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。