『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「本題はこっからだ。一つが名声……これがまさしくさっき大和が言ってた名声とか武威にあたるものだね」
「それじゃあ、名声とか武威のために私を狙ってるってのは合ってたんじゃないの?」
「ところがどっこい、ただ倒すだけじゃダメなんだ。手強い相手、有名な相手を倒し、それを周りに知らせる。そこまでやって初めて威信としてエネルギー源になるわけだ」
「なるほどね。私は七人しか居なかった現代の代表で、現代人な上に女だから舐められやすくて、しかも軍からの支援も得てないローリスクな異能者だったから襲われてたってことね」
「まあ概ねそうだね。あとちょいちょい言ってるけど、大和って実は『愛知にやたらと強い現代の異能者がいる』って有名だし」
「うげっ」
そういえばそんな話もあったな、まさしく迷惑な噂ここに極まれりって感じ。
「けれど、必ずしも自分だけが喧伝する必要は無いんだ。例えば大和の場合だったら人知れず戦ってるところを見られていたり、異能者を収容する軍の人が書面を見て『その異能者を大和が捕らえた』ってことを認知したり、誰かが噂したり——」
説明しながら机の上に手を突いたルイが、教壇代わりの机を揺らしその上に乗っていた筆箱を落とす。
何気なく拾い上げると、ルイが「もっと言えば、誰かの落とし物を拾って感謝されたり」と得意げな表情で言ってくる。
「異能者本人に向けられた感謝、尊敬、恐怖に恋慕。何かの形で『特別だ』って認めるいろんな評価や感情が、積もり積もって威信となって返ってくるわけだね」
あっ、そんなのでもいいんだ。
特段強くなるために何かした覚えはなかったのに、今まで戦いについてこられたのはこういうカラクリがあったのね。
「これが威信を増やす一番セオリーな方法。僕らのエネルギーが
知らしめる……そう考えるとさっきの「やたらと強い現代の異能者が愛知にいる」って私が有名になっているのもあながちデメリットではないのかもしれな——。
いや、やっぱダメだ。
その代償が日常の破壊なのはあまりにも
「それじゃ、最後の『所領』ってのはなんなの?」
他は自分の中身とか、あとは人と人の関係を想起させるのにこれだけ浮いてるって言うか。
領の字が付いてるってことは何かしら土地が絡むんだろうけど。
「うーん、今日は説明しない予定だったけど……やっちゃうか。じゃあ大和、手出して」
そう言われてそれとなく右手を前に掲げると「それじゃ、このレンタルルームの受付で見た事務室のおじさんとか、廊下を掃除していたおばさんが仕事をしている姿を思い浮かべて」なんて、意味のよく分からないことを言ってくる。
「まあ……分かったよ」
けれどものは試しだ。
正直顔はよく覚えてないけれど、ここで働いてる人が働いたりランチをとったりしている場面を想像してみると——。
手元に背丈と同じぐらいの柄をした棒切——いや、青白く透明な幕を持った旗が現れた。
「な、なにこれ!?」
「それが大和の旗だね。それをこの建物とか企業のビル、町内会の施設、更には市庁舎に県庁舎……噛み砕いて言うならその共同体を纏める建物に突き刺すことで、そこで暮らしたり働いたりする人々の数に応じた威信が得られる仕組みになってる」
「へえー」
って説明されても実感ないな、まださっきまでの方が分かりやすかった。
自慢のつもりなのか何も気にしてないのか「僕も組織から中国地方の小さな街一つ任されてて」と一人語りするルイ。
けどこの旗、なかなかに重いな。
ずっと持ってるのも辛いし、試しに刺してみるか——そう思って大きく振りかぶると。
「ってわけでそこの人々から威信を得ることが——ってな、何やってんだ!? 僕は刺せなんて一言も言ってないぞ!?」
血眼になったルイが、顔面蒼白になりながら教壇を土足で乗り越えて旗を突き刺そうとする私の腕を鷲掴みにしてくる。
「あっ、確かに。床に穴空いちゃったら大変か」
私が手を離すとともに、旗は光の粒子となって消える。
ルイの青くなった顔面もそれとともに血の色を取り戻していく。
「あ、危なかった……今日本全土が見えないパイ生地状態なんだぞ!? この名古屋の緑区も誰かの所領だって分かってるのか!?」
「えっ……普通に知らなかったけど」
「この建物に旗を突き立てた途端そいつが飛んでくる——いや、しかも名古屋だから確実に
息を切らし、ブレザーの胸元を押さえながら「し、死ぬところだった……」と零すルイ。
「威信はもう分かったけど……列強ってなに」
「ん? ああ、列強ってのは有志の中立異能者たちの陣営が発表してる、最も有力な八人の異能者のことだよ。列強って聞いたら『超強い奴ら』って思い出せればそれでいい」
「へえー」
なるほど、私たちには関係のない世界の話か。
そうやって記憶の中から葬り去ろうとした瞬間、一人の男の名前がおぼろげに頭の中に浮かんでくる。
「……もしかしなくてもだけどさ、その中にロムルスって名前の異能者が居たりする?」
「あー…………うん。いるな。しかも上から三番目」
「…………」
どうやら、私たちには関係ない世界ってのは夢物語みたいで。
聞かないほうが良かったかもしれないというほんの少しの後悔とともに、私がどれだけヤバい男に目を付けられてしまったのかをより一層理解した。