『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「ちょっと待ってよ。なんであんたがここにいんのよ」
月曜の座学が終わり、幸運なことに町田さんが担当になった火曜の
町田さんから体操着に着替えてから来るよう言われた、古びた剣道場らしき建物。
汗と古い漆喰の匂いのするこの道場の真ん中で、目の前に立っていた男へ心の底からそんな言葉を吐き捨てた。
「……そうか、やはり俺では不満か」
今日は飾り気のないシンプルな紺色の袴を穿いた、銀髪に鋭い目をした男、須藤武蔵。
私だけでなくルイのことまで侮辱した屑がここに居るってことはもしかして。
「ということで……剣術の担当は須藤くん、そして補佐が私になりました。よろしくね」
その予想は須藤の隣で申し訳なさそうにしていた町田さんによって現実へと変わった。
うっそでしょ……座学に筋トレと、教えてくれる人が当たり続きだったからこの調子でなんて思ってたけど……ここで外しちゃうか、私。
しかもタチの悪いことに、私はこの男の戦いを目と鼻の先で見てる。
だから嫌だろうと初対面だろうと教えを乞うべきなのに、昨日町田さんにはすんなり言えた「お願いします」の言葉が出てこない。
「……では準備へ入るとしよう」
須藤が身を翻した先にあるのは古びた竹刀の山。
あいつが竹刀を手に取り選び始めると、町田さんが私の元まで駆け寄って蚊ほどの声で耳打ちをしてきた。
「ごめんなさいね、大和ちゃん。本当は別の人を探そうとしたんだけど、旅団のリーダーが剣術の教練は絶対須藤にしろって聞かなくて」
「なんでその人は私と須藤にこだわるんですか……ってなになに? 愛知にいる異能者は私と須藤だけだから話せるようにはしておきたい……って? 嘘でしょ?」
いやまあ私だって最低限話す努力はするよ、あんなヤツじゃなかったらさ。
けど相手が相手だから今回ばっかりはそうは問屋が卸さないよ、旅団のリーダーさん。
「てか町田さんが謝らないでくださいよ、嫌なのは嫌ですけど訓練は受けますから」
「いえ、私も根負けしちゃったところがあるのは確かだから……無線の録音はそのリーダーにも聞いてもらったんだけど、それとこれは別って言って聞かなくて」
なんて町田さんはこの采配を申し訳なさそうに詫びているけれど、詫びが欲しいのは町田さんじゃなくて須藤の方。
ここで顔を合わせてから今に至るまで謝罪どころか悪びれの一つもないって、どういうことなの。
「というか須藤ってこんなとこで油売ってる暇あるんですか? あんなに強いのに」
「うーんとね……先週の独断専行と大和ちゃんたちへの言動が原因で謹慎処分受けちゃってるから。良くも悪くも暇なのよね、あの子」
へえ、謝罪はないけど処罰は受けた……いい気味ね。
まあこの場はとりあえず、町田さんの土産話一つで怒りを呑み込んでやろう。
命拾いしたな、須藤武蔵——なんて勝手に勝ち誇っていると、視界の端から一本の棒が飛んでくる。
「ッ……!?」
咄嗟に掴むと、そこにあったのは若干黒くカビた一本の竹刀。
どこの中学かも、誰の名前かも分からない文字が彫ってあるけれど、その見た目からしてかなり使い込まれた代物。
「お互い言いたいことはあるだろうが、訓練は訓練だ。まずはお前の実力が知りたい、三十本ほど手合わせ願おう」
「……!」
ふっ、早速このムカムカを解消するチャンスがやってきたってわけね。
あんだけの強さだ、さすがに私が勝ち越すなんてことはないだろうけど、三十本もあれば十本入れることぐらいは叶うはず。
「……それじゃあ私が審判をやります、二人とも私がやめと言ったら剣を降ろすように」
町田さんが若干憂いを含ませたニュアンスでそう口にすると共に、私と須藤は十歩ほどの距離で相対する。
私に謝んなかったこと、後悔させてやるんだから。
「いったた……」
最悪の再会から、二時間も経たないぐらいあと。
私はひりつく肩やこめかみの痛みに耐えながら、町田さんが五本目あたりからタブレットで録画してくれていた打ち合いを地べたに座りながら見返していた。
全三十本だったところを、私が「もう一回だけ」を四回繰り返し全三十四本、なのに取れたのはそのうちたった六本。
私が普段武器として使っている
でも言い訳するんじゃ強くなるものもなれないし、何より格好がつかない。
それに武器の違いだけじゃ説明できない実力差があるのもひしひしと感じる、一ミリだけでも咀嚼しようと録画を貪るように再生していた。
「うわ……ほんとに動いてないじゃん、キモ」
思わず出た侮辱の言葉、けれどこれはどっちかと言えば褒め言葉で。
こうやって打ち合いを見返してて分かる、須藤の戦い方の異常さ。
剣の間合いに入ってからの須藤はほとんど足を地面から離していない。
そういうスタイルなのか、それとも動く必要がないほど実力差があるのかは分からないけれど、まるでその場に根を張った柳のように動かないのだ。
そして大抵、そこから二度も竹刀がぶつかることなく私が一本取られる。
あまりにも大きすぎる実力差に打ちひしがれていると、須藤が袴の腰紐を結び直しながら私のもとへと歩み寄ってきた。