『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「ご苦労だった、これでとりあえずお前の現在の実力は把握できた」
須藤は特に息を切らす様子もなく、余裕綽々なご様子。
もう帰る身支度を済ませたのか、彼の背中にはおそらく刀が巻かれているだろう白布が背負われていた。
「ところでお前に一つ聞いておきたいことがある。いったい誰に師事していた」
「……師事っていうようなことはしてないわよ、別に。映画とか観てただけ」
「はっ、映画か。あれはフィクションだ、創作と現実を混同しているといつか命を落とすぞ」
冗談が通じていないのか、私のことを見下しながらそう口にする須藤。
言われなくても映画がフィクションなのは私が一番分かってるっての。
「っていうか『師が居たか』なんて聞かなくても、私がここ数年誰とも関わってこなかったことぐらい知ってんじゃないの? 皮肉のつもり?」
「いや……お前にも師なら居ただろう。勘と経験、そして場数という師がな。特に最後の一本は見事だった。あのまま続けていたら俺が一本取られた可能性すらあった」
最後の一本……腹の虫がおさまらなくなった私が竹刀の手元に巻かれていた布を目潰しに使ったら、町田さんに「ルール違反だ」ってブチギレられてその場でやめになったヤツか。
「見事って……怒んないのね」
「俺は手合わせ願おうと言っただけで、剣道のルールに則れとは一言も言ってないからな」
須藤は背負った刀の肩紐を親指で整えると「自信を持っていい、今は荒削りだが磨けば伸びる」といかにもそれらしいことを口にした。
……なんなの、こいつ。
強いのは周知の事実としても、性根捻じ曲がってるクセに戦いに対しては真っ直ぐすぎる。
私に負けず劣らずなぐらい歪だな……。
なんて思ってると、須藤が小さく息を吸いながらその口を開いた。
「そして……なかなか言い出せずすまないが、先週の土曜のことは本当に申し訳なかった」
「「……!?」」
その言葉に、遠くの町田さんすらも目を見開き驚きの表情を浮かべる。
それは私も同じだけど……!
でもいちばん驚いたのは内容じゃなくて言葉のニュアンス。
その謝罪が『上司に言われたので謝りました』という事務的なものではなく、本心からのものだとひしひしと伝わってくる。
「感情に任せ、ともに戦うかもしれない同胞に対してあらぬことを言い放ってしまった。あれは俺の罪だ。本当に申し訳なかった」
こいつを処罰したっていう上司はどんな教育をしたんだ、って疑いたくなるぐらいありえない光景。
私が須藤を舐め腐ってただけかもしれないけど……そもそも謝れたんだ、須藤って。
なら……許してもいいのかな。
一瞬だけそう思って、赦しの言葉を口にしようとした——けれど、須藤の言葉に僅かな掛け違いがあるのを私は見逃さない。
「ルイのことは謝ってくれないのね」
須藤は今「ともに戦うかもしれない同胞」とわざわざその範囲を絞った。
こないだルイのことを「あれ」呼びしたことを、私が忘れるわけがない。
表情を険しくし、案の定黙り込む須藤。
一つ息を吐きながら身を翻し、柔剣道場の出口へと踵を返す。
……そ。
それについては謝ってはくれないのね。
なら私の方も「それについてはもう大丈夫」と返す義理はないわ。
やっぱりこいつは風上にも置けない男ね、許さなくてよかった……なんて安堵していると。
須藤がその足を止め、背を向けたまま独りごちるように語りかけてきた。
「……俺達異能者は生物兵器だ。本来人が持ってはいけない力を、その内に抱え込んでいる」
私たちが、生物兵器。
受け入れ難いことではあるけれど、それは薄々感じていた事実。
ありえない跳躍、怪力、そして引き起こされる超常現象の数々。
須藤はその事実を、まるで昔話でもするかのように語り始めた。
「でも……それはあんただって一緒でしょ」
けれど、それは何も過去の異能者に限った話じゃない。
異能を理由にルイのことをあれこれ言うんだったら、まずはあんたが刀を置きなさいよって話で。
なのに須藤は、僅かに威かすような声で淡々と「違うな」と口にする。
「……何が違うっての」
「お前はまだ、過去の異能者を何も知らない。俺達のような現代の異能者が持たないものをあいつらは持っている。お前もいつかそれを目の当たりにすることになるだろう」