『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「任務と言われて来てみれば……俺はお守りじゃないぞ」
腰に刀を提げ、久しぶりに見た袴とナポレオンジャケットを合わせたような格好の銀髪男。
足音の主は、私たちにとって憎たらしくて仕方のないあの須藤武蔵だった。
腕を組み塀に体重を預けながらこちらへ鋭い視線を向けている。
っていうかモノ自体は同じなのに、その色だけ黒から薄いグレーに変わってる。
謎にお洒落してんじゃないわよ、まったく。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
だけど、謎のカラバリに構っている暇はない。
ここに居る理由なんて分かりきっているのに、反射的にそんなことを口走ってしまった。
「言わなくても分かるだろ。俺も来たくて来てるわけじゃない、いちいち説明させるな」
須藤はこの場においても刺々しい物言いを変える様子はない。
ってか私の休みと須藤の任務が被ったのって、こういうことだったのか……。
ルイも護衛が須藤だってのは知らなかったみたいで、僅かに身構える姿は驚きを全く隠せていない。
あの時ほどではないけど、険悪な雰囲気が場に漂う。
私はもう須藤とは最低限話せるようになったけど、ルイに言ったことはまだ許してないし、それにこの場にはその本人がいる。
なのに、その中で香蓮だけが口元に手を添えながら目を輝かせ……。
って香蓮!? なにその表情!?
須藤を目の前にしても、異様な反応を見せる香蓮の方へ自然と目が向く。
耳を凝らすと「ふわあぁ~!」と浮ついた声が彼女の口から漏れ出ていた。
いつものおっとりとした感じじゃない、頬も目の端も緩んだ「女の子」の表情。
それにしてもこの顔、どこかで見たことがある気が——。
「……っ!」
そうだ、香蓮に引っ張られて男性アイドルのグッズコーナーに連行された時に見た表情だ!
ってなるともしかして、嫌な予感を覚えながらも須藤の顔を睨みつけるみたいに注視する。
今までの憎さを全て捨て去って、なるべく無の心境で。
多分地毛の銀髪、キリッとした細い目、シャープにまとまった顎のライン——全部の要素をひっくるめると、いわゆる塩顔になるのか。
あっダメだ、多分これ香蓮の好みドンピシャだ。
しかも相手はよりによって須藤武蔵。
香蓮が前々から面食いなのは知ってたけど、まさかそれがこんな形で現れるなんて。
「か、香蓮! こいつが誰だか分かって——」
そう言いかけたところで、ルイとの約束が頭の中に思い浮かぶ。
なんてこった……まさか香蓮に事情を話せないことがこんなところで響いてくるなんて。
「ご、ごほん。もう一人の護衛は僕らの組織……『盟約』から派遣される手筈なんだけど、その人はどこにいるんだ」
自分の胸に手を当てながら、息も絶え絶えといった様子で須藤へと問うルイ。
そ、そうだ。
香蓮の反応は一旦傍に置くとして、護衛はもう一人いるって話だったはず。
須藤がルイへと反発しないか心配になりながらも、彼の言葉へと耳を傾け——。
「知らん、置いてきた」
そしてその杞憂は全く別の、そしてより悪い形になって返ってきた。
「置いてきただって、嘘だろ!?」
もしもし町田さん、兵藤曹長を寄越してくれませんか。
鉄拳制裁を頼みたいんですけど。
なんて呼びつけたい気持ちを抑える横で、ルイもルイで深い溜息と一緒に頭を抱える。
さすがの彼も鬱憤を抑えられなかったのか、顔を上げると舌打ち一つ打つとともにさっき来た駅の方へと駆け始めた。
この旅行は一泊二日、行動出来るのも午後からだから時間が割と詰め詰め。
本来こんなところで道草食わずに荷物を宿に置かなきゃいけないのにこの仕打ち……ほんっとにこいつ余計なことしかしない。
香蓮へついて来るよう促し、ルイのあとを追おうとしたけれど。
「あの……連絡先、聞いても」
「…………はあ」
能動的なのはいい。
私も今までそれにたくさん助けられてきた。
でも今回ばっかは油断も隙もあったもんじゃない。
「香蓮、ダメ。おいで」
足を止め、スマホ片手に須藤へ話しかけようとする香蓮の手を掴みながら再び東萩の駅へと向かう。
僅かに上空から私たちを見下ろす