『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「そっちのベンチには居た?」
「いや、居なかった。大和の方は……居なかったんだな。聞かなくても分かる」
さっきの砂浜から一転、萩の東側にある小さな中心駅の前。
ルイ曰く、その人は四十歳ぐらいの男らしい。
さらに『最高にかっこいい人』っていう、こと捜索においては何の役にも立たない情報も付け加えてくれた。
木漏れ日の下、ベンチ、時期的にかき氷の旗を提げるようになった茶屋に観光案内所。
探せど探せど見当たらないにもほどがある、もしかしてどっかですれ違ったんじゃ……。
「僕、さっきの喫茶店の方を見てくるよ。大和は駅の方をもう一回頼む」
「ええ!」
なんでまた須藤のせいで私が苦労を。
不平不満を感じつつも、駅の周りを水片手に走り回って捜す。
駅の周りはマンション、旅館や飲食店……果てには入り組んだ市街地。
なんてことない町並みが「捜すのが面倒な障害物」に早変わり。
「クッソ、どこにいるのよ……」
過酷さを極めてきた暑さの前に息を切らしながらあたりを見回すも、それらしい人影は見当たらなくって——そう思いかけたところで、ある一つの場所に視線が釘付けになる。
足の自由が利かないから「私が荷物持ってるね」と言って荷物を預かってくれていた香蓮が、待ち合わせ場所の案内看板の前で見知らぬ一人の男と話していた。
腕毛が生えっぱなしになっている野太い腕に、まだ時期的には若干早い気がするアロハシャツを着た短パン男。
地図の方を指さしながら、香蓮と何かを話している。
けれど、一番目を引くのはそこじゃない。
あまりにも身体の情報とはちぐはぐな、バケツを引っくり返したような板金造りの西洋兜を頭に被っていた。
奇抜な格好に、いやに堂々とした立ち振る舞い——異能者だ。
「そうですね、それで大丈夫だと思います」
「なるほど、そうであるか! ではこのバスに乗って西回りに行って——」
何かを話している二人の間へ、男へ触れずとも勢いで突き放すように割り込む。
「あんた誰よ、私たちになんか用?」
「ああ、お嬢さんのお友だちか。ちょっと道の方を聞いていてな」
私よりも高い背に、そして縮尺でもバグったみたいに長い腕。
何か見せたくないものでもあるのか、そう聞いても兜を外そうともしない。
この暑さのせいか、周囲には若干の汗臭さが漂っている。
「だがもうこの街の旧市街地の方への行き方は分かった、失礼する——」
「誰って聞いてるのよ」
何かに理由を付けて去ろうとする男へ、再び名乗るよう求める。
ここで何も無くとも、この街に得体のしれない奴が紛れてるだけで安心できない。
「むう……あまり名乗るなとは我が新しき主に言われてはいるんだがな。だが、名乗れと言われては仕方がない、吾輩の名は——」
その中年男が長々と名乗りの前振りを詠唱した直後。
後ろから、あの元気かつ幼げのある声が響いてきた。
「ああっ、ゲクランさん!」
——ゲクラン。
ルイが代わりに名乗ったみたいになってしまった、男の名。
当たり前だけど覚えはないし、覚えがあったところでこんな奇天烈な格好をしてたら「こんな人知りません」なんて知らないふりをしたくなるはずで。
でもそんな常識に囚われず、ルイは満面の笑みでゲクランへと小走りで寄っていく。
「おおっ! ルイじゃないか、大きくなったな!」
ゲクランの方もキャリーケースをその場に残したままルイの方へ近寄ると、恥ずかしげもなくルイのことを抱き上げようとした。
「ちょ、ちょっと! 僕はもう小さい子じゃないんだぞ!」
腕を振りほどきながら紅くなるルイ。
なのにその表情だけはまんざらでもなさそうで、怒ってるのは口先だけに見える。