『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「えっ……けど、ってことは」
まさかだけど、こいつが護衛なの? この奇天烈挙動不審おじさんが?
それはルイの反応を見れば分かるけど、その当人が言ってた「かっこいい」って要素がどこにも見当たらない。
ってか参考にならないとか言いながら結局アテにしてんじゃん、私。
「いやー、けど時間までに見つかって良かった。二人とも付き合わせちゃってごめんね、ゲクランさんスマホ全然見ないからさ」
「ガッハッハ! 見る癖というのがなかなか付かなくてな…………む? となるともしやそちらのお嬢様方が護衛対象……」
「えっ、そうだけど……ゲクランさん、何も聞いてないの?」
「いいや、聞くには聞いたが名前と外見の特徴だけしか聞いていなくてな」
ルイの方からこちらの方へと向き直ると、「では、改めて正式な名乗りをしなくてはな」と口にしながら、何歩か歩みを進めるゲクラン。
彼は大きく胸を張り、両の拳を腰に据え、仁王立ちして見せる。
「吾輩の名はベルトラン・デュ・ゲクラン! 遥か古の時代、西方より参ったフランス
ガラガラとした中年の声。
覇気はある、けれどどこか道化じみた声色とドン・キホーテめいた大仰さがひどく胡散臭い。
そればかりか、短パンアロハシャツに甲冑頭とかいう何の脈絡もない外見のせいで、名前だけの「騎士」という肩書すらも劣化してしまっている。
「よ、よろしくお願いします……」
「うむ、挨拶が出来るのは良いことだ! 確かめぐみ殿だったな、貴殿の活躍は以前から聞いている! 同じ戦士として誇らし————」
だけど護衛は護衛、ひとまず形だけでも礼を守ろうとしたところで。
ゲクランが、「いや待てよ」と前置きしながら、顎に手を当て何かを考え始めた。
な、なに。
急に黙って。
護衛なんだから私のことを知ってるのはいい、ルイもそうだったんだから。
けどいきなり動かなくなったかと思えば急に黙り込んで……怖いと思うなって方が無理がある。
「……聞くが、ルイよ。このお嬢さん方はお前のお友達なんだよな?」
「えっ、そうだけど」
「ふむ、お友達と旅行か……そうか」
なんなの、こいつ。
含みのあることを聞いてきてるのに、兜を被ったまま話し続けるせいでその表情から何も汲めないのが妙に腹立たしい。
「そちらの鈴原殿は一年前からのお友達……そしてめぐみ殿はここ最近……ふむ」
かと思えば、また独り言を口にしては勝手に納得するゲクラン。
吹いてきた風に乗せられた加齢臭と混ざった汗臭さが、またもや鼻を突く。
「……」
「……警戒してるのであるか」
「……」
「まあ。そ、そうだな。若い男女だ。本来、水入らずであるべきだ」
さっきまでは陽気な雰囲気だったのに、急に言葉数が減って、要領を得ない意味わかんないことばっか言って。
しかも私たち二人を目にし直した瞬間に豹変して。
もしかして何か、企みがあるんじゃないか。
そんな予測を立てようにも、何を考えているのかすらさっぱり分からない。
「すまない、邪魔をしたな。私は市内にいる、何かあったらいつでも連絡をしてくれ」
ゲクランは辿々しい口調でそう告げると、ポケットから一枚の紙切れを取り出してこちらへ差し出した。
ゆっくりと手を伸ばし、恐る恐る受け取る。
紙切れに記されているのは電話番号とメアド……一応、持っておくけどさ。
「せっかくの休暇だ、吾輩のことはいないものと思って楽しんでくれ! では、機があればまた会おう!」
「ゲクランさん! 今夜はお酒飲まないでくださいね!」
ゲクランはわざとらしく言葉を震わせながら、不器用に手足をバタつかせるような走り方で、その場から去っていった。
ルイの注意にも、「わ、分かってるぞ!」と隠しきれない動揺を見せながら応じた。
「なんか……騒がしい人だったね」
今目の前で展開された一連のやりとりを、「騒がしい」の一言で纏める香蓮。
でも……私には到底そうとは思えなくて。
「なかなかいい人そうだろ」
そればかりか、ルイもちょっと自慢げに胸を張っている。
でも……もしかしたら私が考えすぎなだけかもしれない。
「…………うん。そうだね」
それにここで言いたいように言ってしまったら、ちょっと場をかき乱すかもしれないし。
だから一旦喉まで出掛かったことも含めて全部を、自分の内へと引っ込めてしまった。