『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「ん……? なんの音だ?」
空高く不意に聞こえてくる、風を切るような物音。
振り向くと、ちょうど私たちの真上を重装じゃない細身のヘリ……多分マスコミのヘリが通過いっていた。
ヘリはここからでも見えるところで曲がると、餌場を周る鳥のようにあたりを旋回し始める。
「なんだろう……何かあったのかなあ」
不安そうな声でそう漏らす香蓮……私も同じようなことを思うけれど、その裏には爺やから言われた「騒がしくなる」って言葉があって。
どこかから降ってくるように思い出したその言葉に腹の底で不安を覚えながら、対向車線から通り過ぎるように眺めるつもりで敷地の中を覗いた。
ヘリが回っていたのは変電所らしき施設の周りで、周囲にはパトカーに加え消防車みたいな救急車両の数々。
よく見ると送電塔らしき塔が所内で倒れていた。
けれど、何よりも目を引いたのは場違いな二人の人影。
「あれっ、ゲクランさんじゃん」
その声と共に足を止めるルイ。
声を掛けた先にいた、頭だけ甲冑の兜を被ったままのゲクランがこちらへ振り返る。
その更に奥には須藤も居たけれど……声は届きそうにないし、別に掛けたくもない。
「おお、ルイじゃないか。どうした、こんなところで」
ゲクランは話していた警察へ軽く会釈すると、陽気な足取りでこちらへ歩みを進める。
特に理由を説明できるわけじゃないけど……その姿に腕を引き、不意に身構えた。
「どうしたって、陶芸教室の帰りだけど。何かあったんですか?」
「んあ? あー要請があって来たのだが、どうやら点検ミスの事故のようでな、機械音痴の吾輩もよく分からん。だが大したことではないのは確かだ! ほら帰った帰った!」
手で払うように、私たちを追い返そうとするゲクラン。
まあ……事故なら私たちには関係ないか。
ルイも僅かに眉を寄せながら、一応その言葉通りに足の向きを彼の別荘の方へと向けた。
けれど。その拍子に変電所の方から吹いてきた風に嫌な臭いに顔を歪める。
それは錆びた鉄の臭いでも、高圧電源から生じるオゾン臭でもなくて。
今まで何度も何度も嗅いできた、できれば二度と嗅ぎたくないあの臭い。
「……血の、匂いだ」
私の一言に振り返るルイ。
肩を跳ねさせ、腕をピクつかせる兜の男。
「……血?」
「あー…………それは、だな。唐突な事故で作業員が巻き込まれたという話でな」
言葉を詰まらせ、わざとらしく腕を大きく動かしながら弁明するゲクラン。
……さっきは「吾輩もよく分かっておらん」なんて宣ってたのに、やけに例えが具体的で。
挙句の果てに「ほら、あの送電塔が見えるか。あれがいきなり倒れてきたんだ、異能者でもひとたまりが——」なんて、急に具体的な説明をし始めるゲクラン。
……作業中の事故。
でも。
最初は、嘘をついていた。何かを隠そうとしていた。
その事実に、身体の重心が僅かに後ろに傾く。汗ばんだ手を握り込む音が骨から伝わってくる。
「とにかく! 子どもが居るべき場所じゃないのは本当だ! ほら、帰った帰った!」
またもや払うように追い返そうとするゲクラン。
けれど、そこにはさっきの説得力のようなものは微塵も感じられない。
「……分かりました。けど、何かあったら僕らにも言ってくださいね。助けになりますから」
ルイは返事をしながら僅かに肩を竦ませると。
いつもより静かな声色でそう返事をした。
そのあと、ゲクランが兜の下で困るように息を一つついたのが、いやに記憶へこびりついた。