『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
いつもなら「あーはいはい」で済ませるところ。
けれど初めて会った時の不穏な目線に反応、夕方の事件現場での嘘。私もゲクランに思うところがある。
息を落ち着けながら、再び須藤の声へと耳を傾ける。
「夕刻、変電所の事件現場に少しの時間いただろう。その時、あの男から何を聞かされた?」
「……私たちが居たこと、気付いてたのね。老朽化か何かで倒れたとかなんとかって言ってたけど」
「はっ、真っ赤な嘘だな。あれは異能事案だ」
「ッ……!」
異能事案——その言葉に、バスタオルを握る手が固くなる。
「まさかだけどっ……! 今この街にその犯人が居るってこと!?」
「半分は合っているが違うな。従業員の証言から擦り合わせるに、犯人は霊兵だ」
「霊兵? でも停電は一時間も経たずに終わったし、なんでそんなこと?」
「意味ならある、全ては威信のためだ。変電所だけじゃない、畑や牧場が荒らされた、ボヤ騒ぎ、そして船を転覆させるなど。必ずしも異能者とは紐付かないようなことばかりで名声……主に恐怖を威信へ替えているヤツが、この街にいる」
「……つまり、警察とか軍の目を掻い潜って威信を稼いでる奴がいるってことね」
「ああ、いかにもそうだ。しかも今日の変電所での一件は全国ニュースになっている、おそらく最後の仕上げといったところだな」
すると須藤は、最後に「近い内に動いてくるだろう」と締めくくった。
最後の仕上げ……だから今日ここに護衛っていう名目で来た、となれば納得はいく。
「……でも、なんでゲクランなの。あいつは今日ここに来たばっかだったっぽいけど」
「理由は簡単だ。あいつは要件を満たしている」
「要件?」
「一定量以上の威信。霊兵の運用が可能になる水準を満たしているということだ。霊兵の運用さえ可能になれば、ここへ来ずとも小さな恐怖を積み重ねることなど造作でもない」
「…………私は、どうすればいいの」
長い沈黙のあと、須藤に指示を乞う。
ぶっちゃけたことを言うと、須藤もゲクランもどっちも信用ならない。
けれどこの一ヶ月で私たちの命は取らない、形式上は味方だってことが分かった須藤の方がどちらかと言えば信頼できるのは確かで。
っていうか、信頼する以外の選択肢がない。
「交代だ。俺は同じ施設で寝泊まりするゲクランを壁越しに監視する。深夜、連絡があったら今度はそっちの館でお前と警戒を交代だ」
一日中活動したあと、ずっと夜通し警戒は無理があるのはそう。
……でも、須藤の案の二交替だと今度はお互い明日の行動が怪しくなる。
楽しく旅行へ専念できないとかじゃくって、それこそ明日の昼に動いてくる可能性もあるわけで。
「ルイを加えて三交代じゃダメなの? そうすれば一人ひとりの負担が——」
「ダメだ」
即答し拒否する須藤。
「分かった。理由は言わなくても分かってる」
須藤の返答を待たずに、きっぱりとそう答えた。
ルイもゲクランも、須藤の中では同じ水準にある。それは今に始まった話じゃない。
「理解が早いようで助かる。もちろんこの情報は他言するな。では、今晩の深夜二時までは俺が番を務める。連絡があったら起きるように」
……また、隠し事か。
須藤は警告を短く口にすると、私の返事を待つこと無く通話を切った。
「……結局、こうなるのね」
異能は、こうやってまた私の日常へとずけずけ入ってくる。
けどいいわ、真正面から来てくれるだけ。私が真正面から斬れば済む話だから。
私は小さく息を吐き出すとともに、髪をドライヤーで乾かすだけして脱衣所をあとにした。
******
「んん……」
温泉のあと、香蓮と映画を観ながらゴロ寝していたところまでは覚えている。
もう初夏に片足突っ込んでいる季節にも関わらずなぜだか肌寒く、はだけた浴衣の隙間から冷えた空気が入り込んでくる。
例えるなら。
冷たく、冬の終わりに出た霧の日のような湿った空気。
「……!」
その比喩が出てきたのと同時に、目をかっぴらく。
真っ白な空間。
たった一ヶ月前にも見た、嫌な思い出が溢れてくるあの空間。
『…………』
そして私の寝そべっていた場所から数歩行ったところに、無言のまま立ち尽くす存在を目にする。
背広の構造でやっと向こうを向いていることが分かる、ちぐはぐで掴みどころのないその存在。
「リヴァ……!」