『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
深夜にも関わらずぽつぽつと街灯の灯る萩の城下町の外れ、新市街との間にある町内会かなにかの施設。
和風の城下町とは異なり無骨なコンクリート造りをしたその建物へ、周辺の住民や宿泊者が不安や不満を口にしながら避難してきていた。
私はその中に紛れるようにして、香蓮とともにルイを今か今かと待っていた。
あのあと、ルイに言われてここへ来たはいいものの、当のルイ本人は「近所の人が心配だから見回ってくる、そこで待っていてくれ」と言いながら飛び出してしまった。
爺やも同じようなことをやりに行ったせいで待ちぼうけを食らっている。
焦りからか、自分の瞬きの回数が自然に増えているのが自分でも分かる。
そればかりか、さっきから貧乏揺すりが止まらない。
変に強張ってリズムの崩れた靴底の擦れる音が、そしてけたたましく鳴り響く避難勧告のアラートが、焦りを更に助長する。
「ねえ、めぐちゃん」
ルイの邸宅の方を眺めながら、なんでここまで大事になってるのかっていう不安で頭が一杯になっていたところに、私の傍でそわそわと身を震わせていた香蓮が、私の名前を口にしながら話を切り出してきた。
「めぐちゃんは……私があの人呼んだの、不満だった?」
そう口にする香蓮の言葉は、どこか辿々しい。
香蓮も不安で一杯一杯。
それを感じ取るには、その一言で十分だった。
「不満っていうか、どっちかと言えば不安っていうか……」
「でも私ね、あの人は悪い人じゃないと思うの」
……さすがにそれは私も分かる、けど。
初対面の挙動不審、変電所での嘘、それに須藤の推測。
それじゃあいったい昨日見聞きしたゲクランはなんだったんだ、って思えてきて。
「それにめぐちゃん、あの人のことちゃんと見てなかったんじゃないの? さっき襲われたとき、喋り方も声も違ってて——」
答えを出し渋る私へ香蓮が続けざまに詰め寄ろうとしたところで、周辺の見回りを終えたルイが軽く息を切らしながらこちらへ地面を蹴って来ていた。
香蓮へ「ルイ来たから、その話またあとでいいかな」と、一応の申し訳なさを浮かべながら口にすると、彼女は口をつぐんで眉を寄せた。
……なんだか、悪いことしちゃったな。
胸の奥に後ろめたさが影を落としたところで、ルイがわたしたちの元へとたどり着く。
「待ってる間、何か事態が動くようなことはあったか?」
「ううん。少なくとも、ここではなんにも」
「そうか……良かった。こっちも今のところは特に被害者は出てなかったみたいで……」
言葉に安堵を交えながらそう口にするルイ。
ルイの無事そうな姿に、思わず胸を撫で下ろした。
でも、ここからどうするのか。
ルイや香蓮と一緒に外へ出たはいいものの。
香蓮やルイを守る以上の目的が分からず、それをするために何をしたら良いのかも不透明。
何をするにしてもあいつが戻ってこないことには——
「すまん、戻った。……と、どうやら揃っているようだな」
振り返ると、刀を携えた須藤が今まさに戻ってきていた。
刀を覆っていた白布を解き、いつもの灰色の
……でもルイは、こうやって須藤とまた向き合って大丈夫なのか。
一瞬ルイの方へ目線を向けたけれど……須藤の存在に慣れたのか、予想に反してルイの顔色にこれといった変化はない。
「地元警察による避難への協力、県警への即時の応援要請、それから俺たちが警察の指揮下に入らないこと。この三つは取り付けた。取り付けるという名の、軍の名を借りた強制だがな」
地元の警察のお偉いさんと話していた須藤が、現状を報告してくる。
でも異能者一人にそこまでするのか。
そんな疑問も、ルイが辿々しく口を開くのを見て引っ込む。
「……軍への応援要請は?」
ルイの質問の矛先が流れからして須藤へ向いているのは確か。
彼の目線も須藤の方へ向けられている。
……そうやって須藤へ質問してもまともに取り合って貰えないんじゃ。
今までの二人の間柄、そう考えるのが自然——そのはずだった。
「舐めるな、準備要請はすでに四時間前にしている。あと二時間もあればヘリが来るだろう」
それを聞いて「そうか、助かる」と口にするルイ。
——軍が介入してくる。
その一大事を「そんなこと」で済ませるわけにはいかないかもしれない。
でも、私の中ではその一大事が「そんなこと」に見えるぐらいに、今目の前で起こったやりとりに耳を疑った。