『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
あの須藤が。
あの須藤が、悪態を突きつつもルイとまともに会話を交わした?
いやいや、たまたまきちんとした会話をしたように見えただけ……?
「霊兵の存在は確認されたか」
「いや、今のところ僕は見てない。でも萩の立地を考えると時間の問題だと思う」
まるで今までの噛み合わなさが嘘みたいに方針を調整する二人。
どういうこと? なんで今になって?
さっきから理解の範疇を超えたことばっかりが目の前で起こって、脳みそがぐちゃぐちゃに掻き回される。
そんな目の前で起こったことの理解に苦しんでいると、後ろから一人の警官が困惑の表情を浮かべながらこちらへと歩み寄ってきた。
「須藤……さんでしたか。先程の最後の要請ですが、やはり承認しかねると署長から——」
そう言って要件を述べようとする警官。
にも関わらず、須藤は隠す気すら無いほどの大きな舌打ちをしながら警官へ振り返りざまにこう言いつけた。
「呑気なことを言うな! 事態は刻一刻と迫っているんだぞ! 責任は特異旅団長・熊沢愉及び、国防大臣が負う! これはもう山口県警だけの問題じゃないと何度言ったら分かるんだ!」
いつになく怒りを孕ませた声で怒鳴りつける須藤。
警官も負けじと「ですが……」と反論しようとするものの、須藤はその隙を与えない。
「よもや警察に拒否権は無い。この避難所でも予備役を中心に民兵を組織しろと言っているんだ! いずれ警察庁からも直々に命令が————」
……民兵? ちょっと待って、なんて言った?
ちょっと前に見直したイラクの米兵スナイパーの映画で、米軍にゲリラ戦を仕掛ける民間人の様子が思い浮かぶ。
あれを「民兵」と言っていたのが間違いじゃなければ、今目の前で須藤……いや、軍は同じことをしようとしている。
理解しかねているところで、須藤の怒号に怯えきった警官は携帯電話を手に再び後ろへと下がっていく。
「ま、待って? 民兵? なんでそんなに切羽詰まったようなことを——」
「……霊兵だ。霊兵が来る」
おもむろにその単語を口にする須藤。
私も捲し立てるのをやめ、彼の言葉へと耳を傾けた。
「奴が
「な、なんで!? そんなことして何のメリットが——」
そう言いかけたところで、自分の中で点と点が線で繋がる。
須藤は昨夜「霊兵を用い、恐怖の積み重ねで威信を稼いでる奴がいる」と言っていた。
それがもしも、虐殺やその伝播でも同じく広まるとしたら? 変電所での全国ニュースで仕上げをしたみたいに、ネットや口伝てで恐怖が広まってあいつの威信の源になるとしたら?
全ての点と点が、嫌な音を立てながら繋がっていく。
「あいつはこの街を自分の威信のために壊そうとしてるってこと!?」
「ああ、そうだ。だから——」
香蓮の驚いた声を傍らに聞く横で、自分の耳だけがどんどんと遠くなっていく。
リヴァの言っていた「君だけじゃなくて多くの人が死ぬことになる」という言葉。
ゲクランが去り際に残した「この街が惨禍に呑まれる」という警告。
須藤やルイはそのために見回ったり必死に準備していたのに。
その中で私だけが普段の面倒事の延長線上のように事態へ臨んでいた。
私だけが異能者との間だけで起こっている戦いのように思っていた。
兎にも角にも……もう、止まってる時間はない。
いつの間にやら俯いていた顔を上げながら、うわべだけ落ち着いた声色で須藤たちへ問いを掛ける。
「——私は、何をすればいいの」