『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「——破滅の戦略だ」
街中のどこかに居るはずのゲクランを探し、ルイと共に駆けていた最中。
彼はエドワードがやろうとしている一連の計画をそう呼んだ。
霊兵、威信、異能。そして人々の恐怖、情報の伝達。
全てが奇跡的なほどに噛み合わさって成立する戦略。
エドワードが霊兵を召喚し、市民を虐殺させる。
市民が虐殺を恐れ、スマホのカメラに収めてそれをネットへアップロードし、それを見た人が恐れる。
萩で、日本で生じた恐怖がエドワードの異能の根源……威信となる。
そしてまた威信を用いて霊兵を召喚し、次の虐殺へ臨む。
無限の繰り返しで、エドワードは次々と威信を手にし、ゲームの勝利へ邁進していく……そんな吐き気を催すような戦略。
でもこの戦略で「破滅」するのは街だけじゃない。
国、軍、盟約などの異能者組織、そして果てには列強まで。
あまりにも危険な速度で増加する威信を前に、多くの組織がエドワードの無力化を図る。
だからこそ逆にエドワードは可能な限り素早く、かつ見境無く市民を襲い始めるはず。
事態が複雑になっていくなか、大変分かりやすいことにエドワードを無力化すればこの一件は収束すると須藤が言っていた。
エドワードが身柄を求めていたルイを連れて行くべきじゃないかもしれないけれど、今は猫の手でも借りたい状況。
須藤は民兵の組織や軍との調整のため遅れる、今は二人で現場へ急行するしかない。
その最中にも、私の頭の中では避難所に置いてきた香蓮の「大丈夫だよめぐちゃん、ここは警察の人が守ってくれるみたいだから」という言葉が頭に浮かぶ。
薄暗い避難所へ背を向けながらはにかんでいた香蓮。
でもその表情には、私を励まそうという健気さだけでは隠しきれないほどの不安や恐怖が見え隠れしていた。
本当なら、香蓮やルイを守るためだけに動きたい。
特に戦えない香蓮の身の安全を考えると、不安で心臓が押しつぶされそうになる。
でも——それと同じくらいに、私にはやらなくちゃならないことがある。
何があっても、異能で人生が狂わされる人がこれ以上出ちゃいけない。
事件を早くに解決すれば霊兵が湧いて出ることもなく、香蓮の身に危険は及ばない。
そうやって無理やり納得した……納得して、進むしかなかった。
「…………! ルイ、次の信号行った右に何かが!」
空高く街を見下ろす
今は二人で現場へ急行するしかない。。
崩れる住宅、舞う砂煙。
一拍遅れて、その方向から家屋が破砕されるような轟音が響き渡る。
砂煙のせいで、具体的に何が起こってるかは分からない。
けれど激しい戦闘が起こるのは——疑念が確信に変わり、現場へ駆ける脚が熱を持つ。
「大和ッ!?」
「ごめんルイ、先行く!」
ルイなら後から言わなくても付いてきてくれる、だから大丈夫。
早く、早く、早くしないと。
また悪事に、異能に人生を壊される人が。
眠りにつく前まではあった諦念が焦燥に、億劫さが動悸へと変わってゆく。
足の指先に力を込めて靴紐が緩んでいるのを誤魔化しながら、ただひたすらに現場へと駆けた。
「ガハッ……!」
現場は山際にある一車線の道路。
向かいに建つ一軒家のドアを突き破るようにして、甲冑男が電柱へと叩きつけられた。
エドワード……じゃない。
甲冑のところどころにあしらわれた青色の生地に、金色をした花の刺繍。
同じ甲冑でわかりにくいけど、こっちはゲクランの方。
「来るな、めぐみ殿ッ!」
咄嗟に駆け寄ろうとするも、ゲクランは左手を向けて制止してくる。
さっきので傷を負ったのか、剣を杖にしながら、やっとの様子で立ち上がるゲクラン。
兜の下から響く吐息からも、その満身創痍さが見てとれる。
さっきから今に至るまでの時間でいったい何が——。
けれどそれ以上に目を引かれたのはその向かい。
崩壊した家屋からもう一人の甲冑男が姿を現すも、その外見に思わず度肝を抜かれる。
象の足ほどに肥大化した右腕、その外側を覆う赤黒い外殻。
獅子の頭のような造形をした右腕の先端からは、まるで万年筆のペン先のように申し訳程度に剣が突き出ている。
しまいにはエドワードが通り際に右腕で擦った石塀が、えぐり取られるみたいに崩れる。
「ッ……!」
スニーカーの底を擦った瞬間、甲冑の下にある瞳がこちらを睨みつける。
兜の下の瞳が見えたわけじゃない、けれど僅かに鳴った甲冑の音。
その突き刺すような気迫が私の本能のようなものを駆り立ててくるような気がして。
なのにその化け物は、エドワードは兜を傾けてその視線を僅かに横へずらす。
まるで端から私のことなんて眼中にないみたいに。
戦いの最中なのに、いったいどこに目を向けて————。
瞬間、私の後ろからも足音とともに荒い息遣いがした。
聞き覚えのある高い吐息、そして私の後ろを追いかけてきていた男。
『貴殿らの仲間である、本田ルイの身柄を引き渡せ』
エドワードが口にしていたあの言葉を思い出す。
甲冑が一瞬大きく踏み込んだのを私の耳が確かに捉えたときには、身体が横へと出ていた。