『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「めぐみ殿ッ!」
ゲクランの制止を振り切り、須藤の元へ駆け寄る。
まだ須藤とエドワードとの距離もあるから大丈夫だ。
そう言い聞かせながら左手で彼の襟首を掴み、身体を軸にして回すようにルイの元へ須藤を投げ飛ばした。
「……さて」
私の方は左腕の痛み以外は万全の状態……って言ってもこの実力差。
ここからどうするべきなのか。
問いの答えを待つことなく詰め寄る「壁」。
それに合わせて後ずさるけれど……負傷した須藤があの傷をどれぐらいで治せるか。
以前のジャンとの戦いみたいに命を投げ出すつもりは一ミリもない。
けれど須藤の攻撃でも破れない殻、時間が経てば霊兵による虐殺が始まる。
低い軌道を飛ぶ
私よりも深い、須藤の傷……彼らもすぐ前線に出られそうにない。
出来るかは別だけど、回避と打ち合いに専念して時間を稼ぐか。
そう考えて、エドワードへ剣を向けたときだった。
「…………!」
何かに気がついたように、エドワードがその足をピタッと止める。
本人ですら止まるつもりがなかったのか、その衝撃で外殻の欠片がパラパラと地面に落ちる。
だらんと垂れるエドワードの腕。
いったい何を考えて——。
「……女よ。二つ問う」
思考が止まりかけたところで、エドワードは唐突に口にする淡白な問い。
「一つ。その剣はどこで手に入れた」
剣……
見つけたも何も、これは私の異能の一つで。
「何って、私が異能で呼び出せる武器がこれってだけだけど。みんな同じじゃないの?」
どう答えようにも、その旨を短く答えることしかできない。
嘘は一つもついていないし、この話にこれ以上尾ひれをつけることもできなかった。
「なぜ貴様が……私が手にすることが叶わなかった……その剣を……」
息を荒げながら、押し殺すように独り言を口にするエドワード。
続けざまに、もう一つの問いを私に投げかける。
「二つ。その印を刻まれたのは望んでか、望まずか。場合によっては……貴様を真っ先に殺さねばならぬ」
彼が右腕の剣で指し示す先は、私の右前腕にある——ロムルスの刻印。
エドワードが最後に口にした警告に、正直に答えようとした喉が締まる。
……って言っても、どっちにしろ答えは二分の一だ。
意図も分からないのに、どっちが正しいかなんて考えようがない。
「望まずに刻まれた。無理やり契約させられただけ」
……一か八か。
何の尾ひれもつけず、ただ正直にそう告白した。
第一、さっきから何の問いなのか分かんないし、どうせこのあと戦いが再開されるのも変わりない。
むしろ須藤の回復の時間を稼げて都合がいい……なんて考えていたのに。
「そうか…………最後の問いだ。少女よ、名をなんという」
「……!? や、大和めぐみ……?」
さっき二つ問うと言っておいて三つ目の問いが出てきた。
問いの回数をわざわざ指摘するのは野暮、だとしても急に呼び方が変わった……?
そこまでの質問は、その次に発した言葉に比べれば全部序の口で。
エドワードがその直後に口にしたことに、私は思わず耳を疑った。
後ろにいるルイたちすら、それに合わせるように大きく息を吸う。
「大和めぐみよ。私と組まないか」
「……は?」
エドワードと……組む?
その一瞬だけ、まるで脳みそが真っ白になる。
「な、なんで私とあんたなんかが組まなきゃいけないのよ」
藪から棒に、意図も意味も全く分からなくて。
面白半分って感じじゃなく、至って真面目なニュアンスでそんな提案をしてくるんだから、冗談としても処理できない。
「ロムルスではないが、私も他の列強には鬱憤が溜まっていてな。そして究極を言えば……ゲームに勝つには列強を超える必要があるから以外にあるのか?」
「ゲームに、勝つ……?」
「そうだ。私はそして過去へと戻り、私が数百年前に獲得するに至らなかった宝具と冠を今度こそ手にするのだ。貴様にもあるだろう、望むゲームの終局が」
「……私は、過去になんて戻らない」
「であれば、ゲームの終局にこの時代の維持を望めばいい。だがどちらにしろ、ゲームの勝利にはロムルスを、ヴィクトリアを、アレクサンドロスを超える量の威信が必要となる!」
両腕を広げ、仰々しく演説を始めるエドワード。
その演説の内容は整った声から放たれるとは思えないほど悪行めいていて。
「この街の異教徒どももこれからその踏み台となるのだ!」
自らの主張を、惨たらしい結論と上ずった声とともに終えた。
……なるほどね。
とりあえず、私が組むメリットがびた一文もないのは分かった。
「貴殿が現代を望むとしても、ロムルス王が死んだ後に私を斬れば良い。簡単だろう?」
「……私は、あんたみたいな奴とは組まない」
理性では言葉を選んだ方が良いってことは分かってた。
結局、罵倒に近いような語彙を使って、エドワードの提案をきっぱりと拒む。
なのに、その分厚い外殻の下で「ハッ」と笑うエドワード。
何を思ったのか——両の腕でその頭を掴み、まるでフルフェイスのヘルメットを外すかのように頭を覆っていた外殻を外した。