『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
——虐殺を行う霊兵の召喚を止めるための「源泉」破壊。
破壊とは簡単に言うけど、この広大な萩の街……実際にはそれほどじゃないけど「干し草の中の針」の例えを使いたくなる。
見下ろしたところ、萩は一本の川とその支流によって四つのエリアに分かれている。
それぞれ東部、中心部、南部、西部と仮に呼ぶとして、さっきまで私たちが居たのは南部。
このうちどこに源泉があるのかは分からない、まずは中心部の方へと移動していると。
私の進む橋の上に、青白い姿をした人形の影が視界に入った。
数は数体、それぞれが背丈ぐらいはある長弓や剣を持っていて、ずんぐりとした重装備のやつもいる。
そしてそのどれもが赤十字とは違う、白地の端まで伸びる赤の十字文様を衣服に刻んでいた。
少し格好は違うけど、ルイと行った広場でも見た「霊兵」。
私の足音に気がついたのか、霊兵たちは身体をこちらへ向けるとそれぞれ弓や剣を構えた。
……来る。
全力で引き絞った長弓兵が私へ矢を放つ。
けれど私にとっては遅い。
それに合わせるように三、四体の霊兵が前に出てきて、私へその剣を振るう。
広い道でこの数相手に鍔迫り合いは愚策。
弾くつもりで霊兵の剣へ
瞬間、霊兵の剣が束ねた藁のように軽々と切れた。
「…………もしかして」
退くのは止めだ、構え直して霊兵へと斬撃を浴びせる。
刃越しに伝わってくる、布地や鎧を斬る感覚に混じった軽い砂や綿のような抵抗。
異能者と違って回復することもない、光の粒子になって消えてゆく。
これはもう「もしかして」じゃない。
疑念が確信に変わる、前衛の霊兵が消えるのを見届けることなく後衛の弓兵へ詰め寄る。
霊兵は弱い、異能者の相手にならないほどに。
それこそジャン相手に苦戦してたルイでも軽々処理出来そうな強さ。
戦ったことは無かったけれど、これなら直接相手にすることに躊躇しなくていい。
小さな達成感とともに、最後の弓兵が光の粒子となって消えゆく。
「どんどん前に出て倒してった方が良さそうね」
てっきり弱めの異能者ぐらいのがあの数出てくるものだと思ってたけれど、これなら須藤がわざわざ民兵を組織させたのも分かってしまった。
臆せず前に進んで、この調子で源泉を——。
そうやって、また萩の中心部の方に足を向けたとき。
上空で私の周りを回っていた
橋を渡ってすぐの左手側、古い平屋の並ぶ細長い一本道。
けれど目を引かれるのは、青白く光る影の前にあった人間の姿で。
「——ッ!」
異能を行使し、脚の熱くなる感覚とともにただひたすらに駆ける。
先に遣わした
遅れて到着すると、そこにはまだ剣を持った霊兵が私へ背を向けながら残っていた。
息を漏らす音さえ抑えながら、その二体の霊兵を背後から刺し光の粒子へと還す。
霊兵がその場から退き、やっとそこにいた人たちを視界に入れる。
「もう大丈夫です、向こうの病院が避難所になってるのでそこへ————」
道中見た避難所へ案内しようと、襲われていた人たちにそう言うも。
目の前にあった光景に思わず喉を塞いでしまった。
そこにいたのは、なんてことない三世代の一家で。
目の前には兄らしき子供に抱えられた腕から血を流した女児。
老夫に抱えられた、光の無い瞳をした中年の女性。
そして血溜まりの中に立って、私へ包丁を向けた男の姿があって。
いちばん目を吸い寄せられたのは…………光のない、女性の眼。
私が六年前に殺した二人の異能者が斃れたあとと同じ目をしていて。
まさか私が、それを見間違えるはずがなくって。
導き出される答えが、更に強く喉を塞いだ。