『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「……くっ!」
父親らしき人が、しゃがんだ状態から私へ突きを出してくる。
ただそれを、刃の側面を指で掴むようにして受け止めた。
…………弱い。
霊兵と同じか、それ以下なぐらいに。
目の前にあったのは錯乱した目と、上がった息。
男の薬指についてる指輪、後ろで斃れる女性にもきっと…………。
奇しくも、私もこの男の人に近い経験がある。
事件の終わり際、錯乱していた私を助けようとしてくれた警官へ剣を向けた記憶が。
それがあるからこそ「私が助けたのに」とか「なぜ私を敵だと思うの」とか、そんな独りよがりな考えは湧いた瞬間に消えてゆく。
ただただ同情と無力感、そしてエドワードへの怒りだけが胸元に滞り続けた。
「……落ち着いてください。娘さんは生きています。私に
これが、刃物を向けられている人間が言うことなのか。
自分でも驚くぐらい冷静に、うめき声を上げた少女を顎で指しながらそう言った。
瞬間、崩れたようにひざまずく男。
けれど後ろで気を失っている娘さんの出血も軽くはない、普通に走って間に合うか。
あるいは私が直接担いで……でも私は源泉を破壊しなきゃいけなくて。
その迷いを突き崩すように、
今度は更に西側、横にある家の屋根を二つか三つ乗り越えた先の庭。
「…………クソっ!」
異能の側は、判断をする時間すら与えてはくれない。
私はただ「ごめんなさい」とだけ言い残して、その家族のもとをあとにした。
******
私は、奪われることが嫌いだった。
異能とリヴァに、今までの六年の学校生活と平穏を奪われた私。
異能者に足を蹴り壊されて、スポーツや不自由のない生活を奪われた香蓮。
異能者に殺されて、私の成長を見守り、老後を生きる生活を奪われたお父さん。
私が知らないだけで、ルイや須藤も今までにいろんなものを奪われたのかもしれない。
それはニュースの向こうで数字として発表されてしまう人たちにも同じことが言えて。
その人にはその人の生活があって、未来があって。
なのに、奪われた。
ただ目の前にいる霊兵を斬り壊しながら、ただひたすらにそんな事を考えていた。
斬る、壊す、
そして、また
今、この萩では数え切れない、数えることもおこがましい人たちの未来が奪われている。
私自身がどれだけ救ったのかも、そして途中からどれだけ救えなかったのかもを数えるのをやめてしまった。
くだらない義憤だと思うかもしれない。承認されたい偽善だと思うかもしれない。
けれど、私は今。
「エドワード……ッ! エドワードッ!」
今までの人生で考えられないぐらい義憤に駆られていることに、自分でも驚いていた。
でも今まで、無闇矢鱈に斬り壊し続けてたわけじゃない。
ルイが言ってくれたように
問題は広すぎること、到底一人で探しきれる領域じゃない。
どこにあるの? 森の中、廃墟、それとも空き家や下水道の中?
あの四人の中だと私が一番捜す適正があるのは分かる、でもそれだと足りない。
もしかしたら、リヴァの言う「三つ目の力」があれば少しでもこの状況ら楽になるんじゃないか——そんな考えが次々と頭に浮かんでいた時。
「…………っ!」
この向こうにあるファミレスか何かに逃げ込もうとしている十数人の避難民を、三つの霊兵の部隊が取り囲もうとしていた。
「くそっ!」
本当に何体湧いてくるの!?
もう壊した数は二百や三百じゃ効かない、急がないとまた犠牲者が——。
そう焦りを募らせたとき。
今まさに向かっている避難民の先頭に、特徴的な歩き方をしている女の子がいた。
その人は、自分も歩くのが得意じゃないのに警官の肩を貸していて。
その人は、カールしたブロンドの髪を持っていて。
その人は、さっき居た避難所の人を何十人か引き連れていて。
「————ッ!」
瞬間、頭の血管がかつて無いほどに押し広げられる。
————頭に血が上る。
そんな表現すら生ぬるい、脳髄の煮えたぎる感覚が