『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「ガアアアッッッ!!」
香蓮たちのもとへ駆ける最中の会敵した。
弓、剣、装甲、敵の構成がなんだろうと関係ない。
今はただ最短距離で突っ込む。
矢を弾き、駆け、ただ斬る。
数百体の霊兵を薙ぐ中で学んだ一つの技能をも存分に使う。
一閃のあとの蹴り、殴打、肘打ち。
霊兵は一瞬にして形を失い、湯けむりのように光の粒子となって消えてゆく。
これを見つけてから、霊兵の集団を処理する速度は格段に上がった。
たった一瞬、されど一瞬。
その一瞬で一つでも多くの命を救えるなら、その一瞬の積み重ねに価値はある。
最初の会敵が嘘のように、一呼吸の間に霊兵を
あのファミレスの方から、拳銃らしき発砲音が鳴り響いたのを耳にした。
「…………香蓮っ!」
最後の霊兵が消えるのすら待たない、現場へ全速力で駆ける。
ファミレスの割れた入口のガラス、周囲に舞う光の粒子。
「いったいあそこで何が起こってるの……!?」
——考える暇があったら脚を動かせ。
脅迫紛いの焦りが、私を突き動かす。
脱げる靴、熱を持つ脚。
現場に着き、ガラスで片足の裏がズタズタになっても気にしない。
斬る、蹴り壊す、斬る、肘で打つ。
そうやって霊兵を処理しきり、闇の中へ目を向けると。
割れたファミレスの入口の向こうに、彼女がいた。
私のことを震えた目で見つめる香蓮。
けれど少し前までの私が思っていたような、ただ守られるだけの脚が悪くてか弱い少女じゃなかった。
香蓮が両腕で抱きかかえるのはだらんと垂れた警官の腕、そして警官の手には拳銃が握られている。
警官の方も額に汗を垂らしていて、脚と右腕には血が滲んでいた。
「めぐ……ちゃん?」
「香蓮ッ……!」
良かった、本当に良かった。
その素顔を目にして、この惨劇続きの中で初めて芽生える小さな安堵。
少なくとも今この場では、命を脅かされているらしき人は見当たらない。
「でも……なんでこんなところに」
「ハア……避難所が包囲、されて……三手に分かれて脱出したんです」
枯らしたような声を響かせながら、息も絶え絶えに答える警官。
だからこんなところに居たのか。
でもこんな惨状で避難所を脱出って……他の避難民たちも危な、助けなきゃ。
でも私の役目は源泉の破壊で、でも見捨てるわけにはいかなくて。
そんなことを考えているうち、ファミレスを霊兵たちに緩く囲まれる。
……この数を処理することは造作もない、問題はそれにかかる時間で。
ひとまず目の前の敵を蹴散らすために、
遠く向こうから、何かが強く羽ばたく音が聞こえてきた。
鳥や虫の羽音じゃなく、金属が空気を裂くような轟音。
その音源が、眩い光であたりを照らしながらこちらへと羽ばたいてくる。
かと思えば拳銃とは比にならないほどの轟音とともに霊兵を光の粒子へ変え、上空へ留まるとともに一本のロープを垂らしてきた。
「玉江橋東側、民間人の確保——」
「ともに大和めぐみと合流、オーバー——」
「速やかに近隣の病院へ民間人をまとめ、そこを臨時の陣地に——」
私たちの目の前で葉やガラス片を撒き散らしながら留まったのは、一機の軍のヘリ。
しかもこれだけじゃなくて、上空にいる
「っ…………!」
足りない人手に増える被害。
薄々感じていた、けれど音を上げるのは許されなかった「限界」っていう現実。
それがこの轟音とともに打ち破られて、熱いものが込み上げてくる。
なのに、サプライズは終わっていなかった。
ヘリから降りてきた暗視ゴーグルを着けた女性が、私の方へ歩み寄ってくる。
「黒い鳥が飛んでたからまさかとは思ったけど——怪我はない?」
そう言う声には、薄い唇には覚えがあって。
兵士がゴーグルを外した下にあった素顔を見て、期待が確信へと変わった。
「ま、町田さんっ……!」
なんでこんなところに。
溢れんばかりの安堵と困惑。
押し殺していた不安が溢れて、目尻がどっと熱くなる。
町田さんは私の足元へ目を向けながら問いを一つ投げかけてきた。
「めぐみちゃん、靴はどうしたの」
「靴……って、さっき向こうで脱げてしまって」
「そう……渡辺二等兵、取ってきてあげて」
じ、自分で取りに行くのに。
淡白に「はい」と返事をする二等兵の背を追おうとすると、それを町田さんが止めてきた。
「いいのよ、これも役割分担。それよりも今の状況は?」
「…………! て、敵はエドワード黒太子。私やルイ、須藤、あと護衛で派遣されたゲクランって異能者だと手に余る相手だったので、今は散らばって被害軽減のために動いています。私は源泉を探しながら、人を襲ってる霊兵を倒して回っていました」
「なるほど……それにしても黒太子、ね」
「有名なんですか?」
「ええ、有名よ。重装備の乏しい
……対処しきれない、か。
相変わらず黒太子への勝ち筋が見えないまま。
けれど、全てを私一人で見なきゃいけないなんて時間は終わった。
靴を履き直しながら「街の西側に霊兵が集中してる」ということを伝えると。
それについて兵藤曹長らしき兵士と話したあと、町田さんは私へ一つ助言を挟んできた。
「橋本川を西へ超えた向こう、玉江川って小川があるんだけど、その奥まった土地から最初通報が殺到していたそうよ。もしかしたら、源泉はそこにあるかもしれないわ」
「…………!」
萩の市街からは外れた、山間の土地。
言ってはなんだけど、完全に盲点だった。
「私たちの方も避難状況が安定したら増援とともに事態解決へ動くわ。行ってちょうだい!」
「ありがとうございますっ! 助かります!」
聞き慣れた高い声が一つ、私のことを呼び止める。
「待って、めぐちゃん! これ!」
香蓮はそう言うと、ボトルに入った一本の水を投げ渡してきた。
避難所かなにかに備蓄されていたらしき、封の開けられていない水のボトル。
「めぐちゃん! 頑張って!」
……渇きを潤すことすら許されないと思ってた。
けどこのあと、何時間動くかも分からない。
この状況で差し込まれる、香蓮の小さな気遣い……ほんっと、こういうとこだよね。
ボトルの封を開け、その中身を浴びるように飲む。
一気に潤う血肉、空になったボトルを香蓮へと投げかえし、僅かに目を潤ませている香蓮へこう言った。
「ありがとう、行ってくるよ!」