『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「——たあッ!」
工場や店、住宅の並ぶ一本の道で、斬る、壊す、進む。
町田さんの言うとおりに、小川の上流を目指して進むたびに霊兵の密度が上がっていく。
……そして、逃げ遅れたのかその場で斃れている人たちの数も。
語弊を恐れずに言うなら、ここら一帯は既に「終わった」あと。
確かに核心に迫れている高揚感と、それでも目を背けられない吐き気を同時に感じた。
「ブーッ、プーッ!」
川に沿って山間の奥へと入っていっていると、奥の高速道路から入ってきたのか。
正面から一台の大型トラックが突っ込んできた。
霊兵が前に出た拍子にブレーキを掛けるトラック。
それをいいことに、長槍を持った霊兵たちがトラックを取り囲み始める。
「クソっ!」
させるものか、
眉を寄せた運転手が、窓を開けて身を乗り出した。
「弓だの槍だのどうなってんだ!? てかお嬢ちゃんこんな時間になにやってんだ!」
「すみません、細かく説明してる暇はないんです! さっきの奴らは轢き殺すつもりで、街の東側まで逃げてください!」
「じゃあ嬢ちゃんも助手席乗れ! 俺が来た方にさっきみたいなのがウジャウジャいやがる」
さっきみたいなのがウジャウジャ……?
霊兵が一箇所に沢山いるってことは、つまり……!
「ありがとうございます! 助かりました!」
「ああっ! ちょっと!」
運転手が呼び止めるのを振り切り、更に山間の奥へと入る。
更に奥へ行ったところ、霊兵がうじゃうじゃ。
間違いない……!
高揚が確信へと変わった直後、無数の霊兵が屯する無骨な事務所のような建物を目にする。
建築会社か何かか、前の広場には無数の資材が置かれていた。
今までにない密度……あそこだ、あそこに違いない。
もはや門すら無視してフェンスを乗り越えながら敷地へと入ると、その音に気がついた霊兵が一気にこっちへ振り向く。
数が多いけど、こいつらに感けている暇すらもったいない。
偵察すらもう不要、
弓兵を薙ぎ払い、身長の何倍もある角材を掴んで近付いてくる霊兵をまとめて払う。
飛んできた矢を弾き、槍を叩き折り、装甲を身ごと裂く。
そうやって霊兵を瞬く間に半数以上減らしたとき。
建物の中から様子の異なる霊兵が一体出てきた。
他の霊兵と同じ透明な身体を持った両手剣の霊兵、けれどその青さが圧倒的に濃ゆい。
装備も他の霊兵と比べて豪華、今までの霊兵と何かが違う。
「……!」
瞬間、踏み込んでくるその霊兵。
早い、そして
他の霊兵と違って、私との鍔迫り合いが成立するのか。
強力な個体なのは分かるし、他の霊兵と違って雑魚同然とはいかない——けど。
鍔迫り合いが成立するだけだなんて舐めてくれるな、私のことを。
一歩距離をとり、
がら空きになる脇腹、そうなれば相手は下段か中段で来る、須藤ならそうしてきた。
だから——人間の速度を超えた切り込みで、その両手剣を持つ手首を叩き切る。
異能者だから成り立つ業、普通の人には真似の出来ない力任せの剣技。
けれどそれでいい。
醜さで守りたいものを守れるなら、武道として成立していなくたって。
勢いのまま首を刎ねると、光の粒子となって消えてゆく霊兵。
そうなればあとは掃討戦、
そして建物の中、事務室か何からしき場所にそれはあった。
青白く光る、獅子や十字の文様が刻まれた魔法陣のような何か。
冷気が出ているのか、冷房が止まっているのにこの部屋だけが冬場のように凍てついている。
まるでファンタジー世界から出てきたような外見に気圧されつつも——これが、ルイの言っていた「源泉」。
光の粒子が塊になり召喚されてきた霊兵を刺し壊し、源泉の上に立つ。
冷える足先、夜目になっていたこともあってその淡い光がまぶしい。
でも……詳しく観察している暇はない。
源泉へと刃を突き立てて、その表面を掻っ切った。
すると一瞬、眩い閃光を放出し——目を開けたときには、その光は失われていた。
——そこからしばらくしても、霊兵が再び出る様子はなく。
ルイにスマホで確認を取ると「助かった」「よくやってくれた」と連絡を貰った。
「はあ…………!」
これで、これでまずは第一段階。
やりきったという確かな感覚とともに、へたり込むようにしてここ一時間以上走りっぱなしだった脚を床へと着けた。
…………あとは、エドワード黒太子をどうにかするだけで。
「でも……どうすんの、あいつ」
あくまで「第一段階」が終わっただけ。
それを、溜息と一緒に吐き出した自分の言葉によって思い知らされた。