『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
そうやって物思いに耽ろうとしたところで、上空を飛ばしていた
後ろを追う巨体は赤黒い岩……あれは黒太子か。
相変わらず輪郭が人間のそれじゃない、舌打ちしながらそれを伝えると、ゲクランは立ち上がって窓辺の壁へと背をつけた。
事前に作戦の内容だけはメッセージで聞かされている、あとはそれが成功するかどうか。
ルイの誘導は危なげなく進むも、後ろから猛追するエドワード。
足止めをしようとゲクランの霊兵が群がるも、光の粒子となって散るばかりでまともな足止めになっていない。
大丈夫、距離は稼げてる。
それだけを頼りに、飛び出したがっている脚を必死に抑えた。
「……!」
小さな農道橋へルイが脚を掛けた瞬間、橋が大きく揺らぎ姿勢を崩した。
一瞬息が止まるも、姿勢を立て直して橋を渡りきり——ルイのすぐ後ろで金切り音があがるとともに火花が散るとともに、橋がその場へと崩落した。
直前、橋の下できらりと光る須藤の日本刀が垣間見える。
橋の崩壊とともに川の中へ転がり落ちる、黒太子の身体。
ルイも脚を止めて作戦の成功に口角を上げていた。
「よし
その合図に呼応するように、窓枠から大きく身を乗り出す。
蛙の大合唱もその轟音で却って静まり返り、周囲には異様な静けさが広がる。
剣から空気を噴射し、さっきまでいた納屋を吹き飛ばしながら現場へ急行するゲクラン。
私も
急な土手を下った先で、一足先に殺陣を始めるゲクラン。
須藤もそれに続いてエドワードへ刃を立てようとしている。
とはいえ血塊は健在、そのままでは攻撃が通るはずが無かった。
そう、さっきまでは。
さっきまでは弾いていた外殻へ刀が通り、そこから血が吹き出す。
ゲクランの言ったとおり、エドワードの血塊は水に弱い……!
でも油断は禁物、多分あいつは血を自分で作れる。
だからその暇を与えず、細かい傷を与えて失血させていけばあるいは。
「小癪なッ!」
「下がれ、須藤殿ッ!」
「黙れ、言われずともやる」
土手を下り、エドワードのもとへ駆けつける。
エドワードの大振りの攻撃を避ける二人。
生じた隙へ突き刺すような一撃を入れる。
脇腹から吹き出す血。
けれどその傷が浅く、それに刺す感覚が重たい……私じゃ力不足なのか。
通じない悔しさとともに後ろへ飛んで下がるも、続く須藤の攻撃も浅い。
——なんでいきなり攻撃が通らなくなった?
ゲクランや須藤が打ち合う後ろ、隙を伺うように目を凝らすも……。
エドワードの外殻がまるで臓物のように蠢いているのを目にした。
水面が薄赤く染まり、濡れていた外殻も再びくすんだ硬い質感へ戻っていく。
「まさか……水を絞ってる!?」
瞬間、顔を歪ませる須藤。
既にエドワードへ飛びかかっていたゲクランが彼の頭へ一撃を浴びせると、さっきも聞いた「ガキン」というくぐもった金属のような音が鳴り渡
ふやけた外殻が……戻ってしまった。
しかも吹き出した血が下半身に集まり、ついにはエドワードの全身があの外殻で覆われる。
好転したはずの戦況が、まるで運命に見放されたかのようにひっくり返った。
「はあ……はあ……私をそんな小手先の術で制せると思っていたのか、黒狼よ」
「ば、化け物…………!」
通らない攻撃、あまりに悪い相性。
エドワードは息こそ荒げているけど、私にはそれ以上攻撃を通す方法が思い当たらない。
剣戟では須藤に敵わないはずなのに、その重戦士の方がよほど恐ろしく見えてしまって。
ゲクランや須藤みたいな強者がいるのに、勝てるビジョンが全く見えない。
指先の震える感覚とともに、弱音みたいなことを吐露してしまった。
それに追撃をかけるように土手の遠く向こうから女性の高い声がこだまする。
「なんでっ!?」
あれだけゲクランが霊兵を巡回させていたのにまだ敵霊兵の取りこぼしがいたの!?
それともまさか、まさかだけど…………!
「くっ……! エドワードめ、恐怖で得た威信でまた源泉を設置したな!」
そして、その最悪の可能性は見事当たってしまった。
私があれだけ苦労して壊した源泉を、こうもいとも簡単に。
「はっ、私が気が付かぬはずがないだろう。源泉が壊されれば腸の蠢く感覚で分かるのはゲクラン、お前も同じはずだろう?」
「源泉をそう簡単に置けるとは、どれだけ人を恐怖させ威信を集めたと……!」
言の葉の応酬を繰り返す二人、須藤がその隙に斬りかかるもエドワードに弾かれる。
頭じゃなくて全身の外殻から潤いが失せ、既に外殻も乾ききっていた。
通らない攻撃、打開できない状況……けど、今私が出来ることが確かに一つあった。
前線で戦う二人を、少しでもエドワードとの戦いに集中させる……!
また源泉を探して破壊する、それは私にしかできない。
悲鳴が聞こえた側の土手に足を乗せ、そのまま駆け上ろうとする。
「どこへ行く、貴様らの相手は私だぞ?」
「ッ!?」
信じられない、なんでこんな速度が。
ゲクランの横を目にも留まらぬ早さで突っ切るエドワードを、
不安定な姿勢で、咄嗟に
勢いのあまり川へ突き飛ばされるも、辛うじて受け身を取り立ち上がった。
「これが……威信の効果だっていうの……!?」
水の底に手を突き、疲労を無理くり押し込めつつも立ち上がる。
広がり続ける恐怖、助けはない、軍も通用しない。
ここで拮抗してるだけじゃ繰り返しの堂々巡り。
被害を広げないためにも、今この場で討ち倒すしかないのに……!
決意の固さに対して、それを支える方法だけが足りていない。
どうやって、どうやって、どうやって…………!
「……ん?」
三人でエドワードを取り囲みながら思いを凝らしていたとき。
目にゴミでも入ったのか、視界の外から伸びる蜘蛛の糸ほどのか細く白いノイズ。
目を擦ってみるも、そのノイズは全く直らない。
さっきから視界がやかましい、このノイズはいったいどこから——。
その大元にあったのはルイの横に侍っている光球。
「…………なんだ、これは」
エドワードもそれに気がついたのか、右肩を叩くとともにそこから火があがる。
そうか、エドワードのあの外殻は血塊……つまりは可燃物の塊。
しかも乾いているから良く燃えるのか!
誇らしげな表情をするルイ、エドワードの右半身が勢いよく燃え上がる。
狼狽するエドワード、たまらず川へその身を投げた。
——そう、エドワードが自ら身を水へ晒した。