『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「……ッ! 今だッ!」
——あいつが燃え盛っても戦い続ける狂戦士じゃなくて助かった。
ゲクランのその合図で前に出る須藤、幾らか離れたところにいた須藤もそれに続く。
悠長にしているとまた外殻を再硬化される、それまでに叩き込めるだけのダメージを通す!
さっきみたいな戦力の逐次投入でもなく、私が一歩遅れているだけでほぼ同時の投入。
消火し立ち上がったエドワードも初めて両手に埋め込まれた剣で能動的に守りに周り、須藤とゲクランの剣を受け止めた。
正面から駆け、がら空きになったエドワードの胸元へ一閃を浴びせる。
濡れた段ボールをカッターで斬るような、手堅く、けれど攻撃は通る手の抵抗感。
胸元から血が滲み、血塊の下から苦悶の声を漏らしながら私へその白い眼光を向けてきた。
通ったっ、けど浅い!
攻めの手を緩めることなく、続いて浅い連撃を三人で浴びせる。
時間とともに強くなる外殻の抵抗感、だんだんとあの硬い血塊へと戻っていく。
そこへ続いて差し込まれるルイの光線。
しかもルイの光球にはまだまだ余裕がある、残光が途切れる心配もない。
燃やす、軟化させる、斬る、燃やす、軟化させる——。
防御を剥いだエドワードの異能は、血を作れてしぶといだけの鈍い戦士。
しかも須藤が鬼のように剣戟を浴びせ、ついにその外殻の一部を剥ぎ落とした。
いける。やれる。勝てる。
また帰れる、解決できる、リヴァにも頼らずに済む。
見えてきた勝ち筋に高揚と安堵を感じた時。
異変は、一番前に立ってエドワードと打ち合っていた須藤に現れた。
さっきまではあんなに鋭かった剣裁きが乱れ、作る傷もひどく浅い。
どうして、この間にいったい何が。
あんなにも長い間、最初にエドワードと戦ったときから前に立ち続けていたのに。
————いや、違う。
ずっと前に立ち続けてきたからこそなのか。
「須藤殿ッ! 下がれッ!」
異変に気がついたのは私だけじゃない。
斬りかかろうとする須藤をゲクランが制止するも、須藤は刀を振るう手を止めない。
そして…………僅かに打点の早かった黒太子の一撃を、その胴へと直接食らった。
水で軟化した直後、肉をえぐり取るほどの威力はない。
それでもあの重量感、須藤はルイの居る側の土手へと打ち上げられた。
「須藤っ!!」
「クソッ! ルイ、須藤殿を頼む!」
彼の安否を確認したい、振り向きたい。
けれど、よろめきつつも立っている目の前の化物がそうはさせてくれない。
そうしている間にも再び硬化していくエドワードの外殻。
横並びにたつ私とゲクランへ、容赦のない斬撃を浴びせるエドワード。
須藤がいったいどれだけ前線を担ってくれていたのか、疲弊しているのは向こうも同じなのにさっきよりも重く、そして手数も多い。
けれど、どこか遠くから聞こえてくる誰かの悲鳴がそれをも否定する。
そうやってエドワードの攻撃をいなしながらも、自分の息が上がり始めたときだった。
いきなり攻撃をやめたエドワードが、兜の下の瞳をギロリと土手の方へ向ける。
そこにあったのは、剣を杖にしながらも立ち上がろうとしている須藤の姿。
——また厄介なのが前に出てくる前に潰してしまおう。
その眼光と踏み込みから、そんな意図を感じ取った。
瞬間、異能を行使する熱が脚に籠る。
僅かに骨の軋む感覚をも感じながら、ルイたちへ踏み込むエドワードの前へ出て——命からがらに、その突進を
させない。いかせない。
後先考えない一撃でエドワードの身体を一瞬退かせる。
けれど……須藤ともゲクランとも大きく距離が離れる。
私が、私自身を孤立させた。
「……しまった」
出てきたのは、命の危機を前にしているとは思えないほど不自然なほど淡白な感想。
……いや、もしかしたら私が今の状況を測りかねているだけなのかもしれない。
私の一撃から立ち直り、今度はその眼光を私へ向けるエドワード。
彼が腕を動かす度に、両腕から細かい血塊が塵のように落ちてゆく。
「……女よ。私の前に一人で立つとは良い度胸だな」
それとともに、ざぶん、ざぶんと水面を蹴るようにしながら私へ近付いて来るエドワード。
攻撃はどっちから来るの? 右が来たら次は左? それとも同時?
一回目を受け止められたとしても、逆から来るもう一撃を受け止められるの?
一瞬で動きを予測してみるも、その先にあるのは私の死か須藤の死、はたまたその両方。
——もしかしたらこの街に来た時点で詰んでいたんじゃないか。
そんな後悔には目もくれず、エドワードが間合いの一歩手前まで近寄ってきて——。
その瞬間、エドワードの後ろで空気を裂くような音とともに立ち上がった水しぶきが、銀色に曇った甲冑をエドワードへ向けて打ち上げた。
「なっ、黒狼ッ……!」
「男との抱擁は苦手かな、黒太子よ……!」
体当たりで私からエドワードを引き剥がすゲクラン。
けれどエドワードへぶつかっただけで、周囲には血のしぶきが舞っている。
「ゲクランさんっ!?」
川の中へ倒れるエドワードの胸の上に馬乗りになり、その首元へ通ることのない剣を突き刺すゲクラン。
さっきぶつかった衝撃からか、左腕はだらんと垂れ下がっていて右腕のみが必死に剣を振るっている。
違う、だめだ、そんなことをしたら。
その距離、その位置関係、エドワードの状態。
頭に浮かぶのは、最悪の可能性。
また考えよりも先に脚が動くも————遅かった。
鉄板の歪むような音とともに、ゲクランの身体が宙を舞う。
周囲に散る赤い華、空を舞うゲクランの周りには血が散っていて。
その身体は、須藤とルイがいたのとは反対側の土手へと打ち付けられた。