『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「ありがとう……ゲクランさんっ!!」
「ははっ。吾輩が立てるまでの辛抱だ、その後は吾輩が奴を引き受け————」
「けど私…………行かなきゃ」
止まったゲクランさんの血。
もう、私がここにいる必要はない。
ゲクランの手を一度固く握ったあと、その場から立ち上がった。
前までの私なら……ここで膝を折って立ち上がれなかったかもしれない。
でも今は違う。
立って、立ち上がって、守りたいと思えるものがたくさんあって。
そのために私は、立ち向かわないといけない。
いや、義務なんかじゃない。
私の魂がそれを欲してる。
立ち向かいたいって……!
なんとかなる気はしていないし、状況は何も変わってない。
けれどやけに晴れた胸元から溢れる力、息の一つ一つが深くなる感覚。
これは少し前……ジャンとの戦いの合間、ルイと香蓮に償いの深淵から立ち上がらせてもらった時にも感じたものに似ていた。
この人も含めて、守りたい。立ち向かいたい。信じたい。
心の底から、そう思えたがゆえの錯覚なのかな。
だとしても、そんなのは関係無い。
彼らのもとへ駆けつけようと、
「————えっ」
いつもとまるで違う、
いつもよりも眩い光を放つ異能の粒子が、ゆっくりと柄、鍔、刀身を形作る。
そして最後に形作られた刀身の先端が、バターナイフのように丸く磨かれていた。
先端には刃が付いていなくて————鋒の無い剣。
まさに無鋒剣と言うにふさわしい外見。
リヴァには屈していない。
なのに、私の異能に何かが起こった。
けれど……だからってこれからやることは変わりない。
困ったような顔をしながら、溜息をするゲクラン。
私はそんな彼を置いて、須藤たちのもとへ脚を進めた。
エドワードと須藤の打ち合いは、相変わらずの打っては打たれての攻防戦。
手堅く守りへ回る須藤に、エドワードの目を潰したり身体を焼こうとするルイ。
「いつまで立っているのだ、銀狐……!」
「お互い様だ」
怪我から立ち直ったばかりの須藤が打ち合えている——その理由はエドワードのおぼつかない足元にあって。
疲れが溜まっているのはこっちだけじゃない、向こうも同じ。
「こっちを見ろ、エドワード……!」
重い一撃を叩き込んで、須藤たちと態勢を立て直す!
思い切り腕を振り下ろして、重い、重い一撃を……!
「…………!?」
川中にあった岩に足を掛けその場で大きく飛び上がったそのとき……またもや眩い光で輝き出す
不意に目を瞑るとともに握る柄が太くなり、重量感が大きく増す。
いったい何が起こって——瞑った目を開いたとき、目の前にあったのは一本の
金の柄に銀の刀身、
ブレる重心、思ってたような太刀筋にならない。
それを勢いのまま、左腕を差し出していたエドワードへ向けて叩きつけた。
けれど、最初に感じるのはコンクリートの塊をパイプで叩いたような強い振動。
肝心の血塊は僅かに欠けるだけで全く効いてる様子がない。
「ハッ、子供だましか」
血塊の兜の下で、笑い声をあげるエドワード。
なんで、なんで急に変形して————でも、考えている暇はない。
着地して固まった足のまま、エドワードの振り下ろしを二度、三度受け止めるも、感じるのはさっきまでじゃ考えられ得なかった安定感。
変質した
いや……これは違う。
受け止めるエドワードの打撃が、さっきと比べて軽く感じる。
剣と血塊のぶつかる音は激しさを増しているのに、私の踏み込みに、体幹にブレがない。
例えるなら、私の身体がやりたいことに追いついた感覚。
こんな急激な変化をさっきも——それこそ、急に踏み込みの強くなったエドワードで見た。
これが、威信の増える感覚。
でも今は考えるすら惜しい。
須藤が血塊を剥がして露出させた右腕へ、私が長剣を振るうと、被弾を嫌ったのか後ろへ飛ぶエドワード。
隙に前へと出てくる二人。
須藤と私が横並びになって、ルイがその数歩後ろに立つ配置。
「ゲクランさんは!?」
「生きてる。洒落をこぼすぐらいには元気」
強張った声でルイへそう言うと、彼は小さく笑みをこぼしながら安堵を浮かべた。
須藤の方も、僅かに息があがるのみで怪我らしい怪我もない。
「それはなんだ、大和」
「私も分からない……けど急に
こんな間合いも分からない剣じゃ須藤と一緒に戦えない、振り回して須藤を傷つけてしまう。
頭に過る不安、すると長剣はそれを読み取ったみたいに萎み、
それを黙って見つめる須藤。
……分からないことだらけ。
だとしても、今は前を向くしかない。
「ねえ須藤、勝ち筋はある?」
「表層だけに湿り気を纏い、
「どうやってやるの?」
「岩場から牡蠣を剥がすように。あとは分かるな」
「無茶言ってくれるわね」
けれどそうするしかないのなら、それ以外に道はない。
私たちを前にして攻めあぐねるエドワードへ、須藤が一気に前に出る。
今度は守りじゃなくて苛烈な攻め、さっき須藤が自分で外殻を剥がした右の二の腕へと攻めを続けている。
疲弊しても機敏なエドワードの身のこなし、外殻の剥がれた弱点に攻撃が当たっていない。
叶わぬ願望を口にした時、またもや光り輝きだしながら輪郭を失っていく
「今度はなに……!?」
棒のように伸びる光の粒子、そしてそのあとに顕現したものに思わず目を見開く。
金色の持ち手に、銀色の矛先。
「サリッサ!? なんでだ!?」
ルイが声をあげながら聞いてくるけど、答えられるわけがない。
でも……これでいけ、ってことなのよね。
重たい槍の重心を腕力で無理やりとりつつ、その槍をエドワードの方へと向ける。
「須藤ッ! 気をつけて!」
お願い通りに退く須藤。
岸壁にフックを掛けたような確かな手応え。
左肩へと矛先が突き刺さった。
「そのまま押せ、大和!」
言われた通りに強く押し込むと、エドワードの身体の軸が大きくブレる。
ともに無防備になる右腕、須藤はそこへ太刀筋を浴びせた。
「ッ……! 小細工しか出来んのか、邪教徒めが……!」
血の溢れ出る右腕で須藤を追い払うエドワード。
槍も弾かれ、その矛先が抜ける。
突っ込んでくる様子はない、だとしてもこのままだと身を守れない。
そう思案すると、長槍がまたたく間に
私の横へと戻ってきた須藤が、まるで耳打ちするみたいに私へ疑問を投げかけてくる。