『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
「私をよくここまでコケにしてくれたな、神の怨敵どもめ」
「神の怨敵って、ミサの朗読聞いてなかったのか? 僕ですら聞いてたのに」
「……ルイと言ったか。信仰の友として
「ごめんけど、僕はそこまで信心深い方じゃないんだ」
「はっ……世俗だなんだと。くだらん」
ルイとエドワードの応酬、けれどエドワードは歩みを止めない。
薪のように燃え盛る、血塗られた黒い王太子————武器の顕現を止めて、
ルイの死を前にして、須藤の努力を無に帰すような案が現実となってきていたそのとき。
木霊する爆裂音、舞う土煙。
そして私は見た。
不格好な姿でこちらへ飛翔する、フランス一の騎士を。
剣から放たれる空気砲をエドワードへと浴びせ、時間を稼いだその姿を。
ゲクランが剣から放ったその一撃は、エドワードを数歩分吹き飛ばし確かに時間を稼いだ。
転がりながらルイに受け止められるゲクラン。
自分で立つことも出来ず、荒い息を上げているだけで……なんでそんなにまでなって。
厚い信頼がぐっと肩に伸し掛かるのが、なぜか今は心地良い。
「ゲクラン……! 偽王の犬め! 最後まで! 最後まで私の邪魔をしおって!」
「やめにしよう、エドワードよ。もう吾らの時代では無いのだ」
「黙れ……! 黙れ……! やり直しこそ、やり直しこそ神からの————」
よろめきながらも、その場から立ち上がるエドワード、彼がこちらへ目を向けたそのとき。
全長にして七メートルはあろうか、銀色に光り輝く巨大な一本の筒。
ルイが溢した言葉から、その武器の名を知る。
巨砲・ウルバン。
それが、その武器の名。
けれど、私にとってはそんなことはどうだっていい。
ただこの惨劇を、危機を終わらせ、私を日常へ引き戻してくれるのなら。
「行けッ…………
瞬間、その筒の先端から巨大な岩が放たれる。
目で追えるような速度、けれどその重たい身体に加え水に脚をとられたエドワードには避けきる事ができなくて。
彼の自慢の外殻が、巨石を前にして薄氷のように割れ散ってゆく。
「この……! 邪教徒ど————」
その言葉を最後に、巨岩を辛うじて受け止めながらその川の中を勢いよく転がる
砕け、川に流されてゆく血塊。
異能によって凝固していたのか、淡い光の粒子を解き放ちながら水に溶けていく。
私たちをあれだけ苦しめた、
「————朝だ」
ルイが不意に溢したその言葉が、この惨劇がどれだけ長く続いたかを物語っている。
ウルバンも役割を終えて、再び光の粒子となって消えていった。
……殺してしまっていないか。
仰向けに倒れるエドワードのもとへ行くと。
最後の最後までその鉄壁は健在だったのか、肌着姿で意識も朦朧といった様子で誰かへの恨み節を吐いていた。
「あの男が……いなければ……私は、病にも掛からずに……!」
「…………」
「父よ……! なぜ死ぬのだ……! 早く、私に、その椅子を……!」
「…………」
彼にはそう思える理由があったのかもしれない。
けど少なくとも私は、自分の欲望を叶えるためならお父さんが死んでも良いとは思えない。
そして、その我欲のためにいったいどれだけの恐怖を振り撒いたのか。
あれだけの一撃を受けたのに、みるみると全身の傷や骨折が治っていく。
そればかりか、溢れた血が血塊となって再び全身を覆っていく。
……終わらせよう。
この人みたいな騎士から見れば、風上にも置けない卑怯な行為かもしれない。
けれど、私が守りたいものを守れないのなら騎士になんてなりたくない。
善くあれるのなら、騎士じゃなくていい。
その身が傷つくことなく、けれどエドワードが胸を抑え、もがきながら泡を吹き……。
その場で白目を剥きながら、倒れた。
彼の口からはしばらく吹き続ける泡、息の根までは止まっていないことに胸を撫で下ろす。
こんな人でも、殺したくはない。
未来は奪いたくない。
こんなことをしたんだ、死刑になるかもしれない。
でも、もしかしたらどこかで機会があるんじゃないか。
ひょんなことから赦されて、改心して、また一歩を踏み出せるんじゃないか。
「…………帰ろう、みんな」