『孤高のリヴァイアサン』 ~~人生をやり直したい偉人たちと、自分の人生を取り戻したい女子高生の異能戦争~~ 作:大和ユキ
本田家の車と待ち合わせ場所。
萩の駅ロータリー前、そこで普段着のゆったりとした袴を履く須藤と合流した。
そこにある自販機のすぐ横で、缶コーヒーの取手に手を付ける。
「ガタンガタンッ」
「そっちのブロンド髪……名前は鈴原香蓮だったか」
「は、はいっ! 鈴原ちゃんです! お茶、ありがとうございます!」
テンパりすぎて紅潮した挙句、自分のことを名前で「ちゃん」呼びする香蓮。
私の方を振り返って「やばい私なに言ってるの!?」なんて取り乱す彼女は、見ていてなんだか新鮮。
私が手にしているコーヒーも須藤の奢り。
何か飲み物を奢ってもらうのは訓練の時からよくあったことで、これ自体は特段警戒することじゃなかった。
「……お前は何も要らんのか」
けれど、問題は私たち二人が飲み物を奢ってもらったあと。
ルイへ向けて、深い息を吐きながら特に含みのないニュアンスでそう訊く須藤。
「えっ……僕?」
「お前のほかに居ないだろう。要らんのなら釣り銭を——」
「そ、それじゃあ……メロンソーダで」
「はっ、お子様か」
サラッと毒を吐く須藤、けれどその言葉には刺々しい以上のニュアンスはない。
ルイの方も眉間に皺を寄せていて、何がなんだか分かってい無さそうで。
彼は飲み口を服で擦ったあと、キャップを回して「パキキ」という未開封の音が鳴ったのを確認すると、心底安堵するような表情を浮かべた。
そこから数歩離れたところ、柵に背中を預けながら各々が飲み物を口にする。
一番騒がしいのはそわそわしている香蓮で、逆に言えば私含めた他の三人は不自然なほどの無言。
「…………」
須藤が大きく息を吸い、顔を上へ向ける。
……まさか、話を切り出す気か。
この話は香蓮に聞かせちゃだめだ。
ルイが以前、過去の異能者だってことを明かしたくないと言っていたのを思い出す。
だからそれとなく香蓮へ退席を促すと、彼女はほくそ笑みながら首を縦に振った。
「いいよ。けど、後で連絡先交換する時間だけちょうだい?」
なんて、小さな声で私に約束を持ちかけて来た。
……そういえば香蓮、連絡先聞こうとして私に止められてたんだっけか。
まぁ須藤のクズっぷりぐらい普通に人付き合い進めてけば分かるだろうし、好きにさせるか。
諦念も感じながら香蓮へいいよと伝えると、彼女はルンルンになりながら萩の観光地図の方へと歩いていった。
そして機を見た須藤が、わざとらしく大きく息を吸った上でルイへ一つ問いを投げかける。
「本田ルイ……なぜ、俺を助けた」
ああ……須藤が黒太子からの攻撃を受けて、ルイが助けに回ったときの話か。
あの時はゲクランさんの指示もあったし、須藤も戦力として必要不可欠だった。
それに相手が須藤とは言え、ルイは人を簡単に見捨てるような人間じゃない。
理由を聞くまでもないんじゃないか……ルイが答えあぐねていたところで、須藤がありえないような独り言を言う。
「……もしも、俺とお前の役割が逆だったとしても。お前が不可欠だったとしても。俺は、お前を助けなかっただろう」
……………………別に、特段驚くことじゃない。
いつも見ていた須藤の通り。
なのに、次に須藤が言ったことは、全く須藤らしくなかった。
「今は、どうなるか分からんがな」
つまり、今は助けるかもしれないってこと?
須藤が言いきらないことにもどかしさを感じつつも、彼の言葉に耳を傾け続けると。
須藤は柵から背を離し、袴の裾を直すと僅かに頭を下げながら、確かに「今までのことはすまなかった」と口にした。
「すまなかった……って」
その言葉に一番驚きつつも、赦しも否定も出来ていないルイ。
いつもなら「いいよ」とか「大丈夫」って朗らかに返事をしていた彼が、今はただ口を噤む。
「……それは、なんで」
「俺にも分からん。だだ……考え直す必要があると思っただけだ」
赦しを求めに来たわけじゃなくて、ほんとにこの謝罪をしに来ただけなのか。
須藤はそうとだけ言うと、用が済んだのかその場から去ろうとする。
ルイもルイで、素直に赦しの言葉を言えないのか。
少し不器用な言い方で「それなら……愛知へ、うちの車に乗って帰らないか」と、声を震わせながら言った。
「言っただろう、考え直すと。お前と馴れ合う気はない」
さすがに不器用すぎやしないか、須藤さん。
ルイへ向ける澄んだ瞳に敵意こそ無かれど、その言葉は相変わらず刺々しい。
「だが……人として扱わないのは違う、そう思っただけだ」
けれど須藤のいつもの調子が戻ってきたからか。
僅かに口角を上げると、ルイはやりやすそうにしながら須藤へこう約束を口にした。
「じゃあ、馴れ合う気になったらいつでも言ってくれ。現場との送迎車ぐらいは出すよ」
「……そこらの距離なら車は要らん、バイクでいいだろう?」
……よりによってそこ読み違えちゃうか。
ルイも呆れ顔を浮かべ、そんな私たちへ一瞥をして須藤は去っていく。
でも……あの須藤が。
馴れ合う気になったら、ってとこは否定しなかった。
この世界で変わっていくのは、私だけじゃないんだな。
バイクへ跨がろうとする須藤をきちんと捕まえ、連絡先を交換している香蓮を眺めながら。
そんな当たり前のことを、今になって知れた気がした。