伝説のギャルゲー主人公に転生。ヒロインを攻略せず『戦友』として過酷な「裏設定」に二人で立ち向かったら、彼女たちの好感度が限界突破した 作:Student
Episode.01 ▶︎闘う先輩
四月の穏やかな陽光が、屋上のコンクリートを暖かく照らしている。
落下防止柵のフェンス越しに吹き抜ける潮風が、僕の頬を撫でて空へと消えていく。
僕は一人、高校の本校舎屋上の隅にある給水タンクの影に腰を下ろしていた。
膝の上には、早朝に母親が作ってくれていた、手作りのお弁当。
そしてその横には、子供だった頃にプレイしていた伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』のヒロインに関する情報を、簡潔にメモった手帳。
この世界は、僕が愛したギャルゲー世界。
だが、今の僕にとって、ここは美少女を攻略するための「箱庭」ではない。
ゲームの裏設定という「苦難」を抱えるヒロインたちが、必死に毎日を「生きている」現実の世界。
直近の優先順位は、間違いなく『
「明日にでも、声をかけてみた方が良さそうか……」
僕はお弁当の卵焼きを箸で二つに割り、口に放り込んで咀嚼する。
空いたもう片方の手で手帳を捲ろうとした。
――その時。
背後で、コツン、と硬い靴音が響いた。
屋上の鉄扉の開く音はしなかったはずだ。
恐る恐る振り返ると、そこには洗練された顔立ちをした、眩いほどの完璧な美少女が立っていた。
「あら、キミはたしか、相澤くんよね? こんなところで、一体何をしているの?」
彼女の甘いけれど、凛としている声が響く。
僕は反射的に手帳を閉じて、制服の上着の内ポケットに捩じ込んだ。
上半身だけで振り返り、春の光を一身に惹きつけるような、美少女を視界に入れる。
すると、今朝のように詳しい情報が記された半透明のウインドウが、僕の視界に映り込む。
【 CHARACTER PROFILE 】
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⚫︎名前:蓮見 遥
⚫︎学年:3年 誕生日:1月12日
⚫︎血液型:O型 身長:171cm
⚫︎精神:❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎ 100%
⚫︎好感度:20 / 99
⚫︎純愛度:■□□□□□□□□□ 10%
⚫︎狂愛度:■□□□□□□□□□ 10%
⚫︎関係:知り合い
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文武両道な完璧超人で、高嶺の花。
そして、伝説のギャルゲー『Sweet Kiss』のゲームパッケージのセンターを飾るヒロインだ。
艶やかな長い黒髪が潮風に舞い、完璧な美貌と完璧な才能に加えて文武両道な様は、まさに「理想のお姉さん」そのもの。
いつも余裕に満ちた微笑みを浮かべているのが特徴的だ。
「お疲れ様です、蓮見先輩。お昼休みにこんな場所まで来られるなんて、何かあったんですか?」
僕は立ち上がることはせず、座ったままの状態で先輩に尋ねた。
普通、彼女のようなアイドル的な存在に話しかけられれば、男子生徒だけではなく女子生徒まで例外なく、赤面しながら慌てて背筋を伸ばす。
先輩は僕の淡々とした態度に怯むどころか、さらに一歩、距離を詰めてきた。
ふわりと、高級な石鹸のような香りが鼻腔をくすぐった。
「こんな場所、ね。……ふふっ、確かにそうかもしれないわね。でも私がここにきた理由は他でもない、キミに会いに来たからなんだけどなぁー……?」
彼女は僕のすぐ隣に、違和感を全く感じさせない流れるような自然な所作で腰を下ろした。
スカートが一瞬だけふわりと広がり、彼女の白く細い指先が、僕の制服の裾に僅かだけ触れる。
「今朝、あんなに可愛げのない素っ気ない挨拶をされたのは、人生で初めてだったわ。……私、キミに興味湧いちゃったかも」
先輩は僕の顔を覗き込むようにして、小悪魔的に微笑んだ。
「私、キミのこと、もっと知りたいな。……ねぇ、相澤くん。こっち向いて?」
至近距離。
彼女のぱっちりとした大きな瞳が、僕を真っ直ぐに捉えている。
視界の真ん中に、別の新たなウインドウが割り込んできた。
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①「僕も、先輩に興味があります」と言う
②「誰にでも言ってるんでしょ」と照れる
③「う、嬉しいです!」と先輩の手を握る
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だが、僕はこの選択肢を無視する。
普通の生徒なら、ここで心拍数が限界突破して、彼女に心を許すのかもしれない。
でも、それでは「原作主人公」の二の舞になってしまうのだ。
彼女の「思い通りになる」のは、何としても避けなければいけない。
それこそが、彼女の「苦難」へと共に立ち向かう上で、重要な選択となってくるはずだ。
僕は心苦しさを感じながらも、出来る限り冷たく、先輩に言い放つ。
「勘弁してください。……先輩ってそういうこと、誰にでも言ってるんでしょ?」
僕は食べかけのお弁当に蓋をして、ズボンの砂を払いながら、立ち上がる。
「今度はもっと愛想良く挨拶をするので許してください、先輩」
他の先輩に対してもそうするように、分け隔てのない態度で彼女に接する。
「それじゃあ、お先に失礼します」
僕は、まさかの返答に呆然と座り込む先輩を置いて、屋上の出口の扉へと歩き出す。
「ちょ、ちょっと待って相澤くん! 私、キミに興味があるって言ったのよ? 社交辞令じゃないわ!」
背後で、先輩が慌てて立ち上がる音がする。
僕は扉のノブを掴んだまま、半身で振り返った。
「先輩って、いつも『
一瞬、先輩は鳩が豆鉄砲でも食ったように、予期せぬ僕の言葉に、呆気に取られた。
「……何、それ。……そ、そんなのキミの勝手な決めつけじゃない!」
明らかに、先輩は動揺している。僕はそれ以上何も言わずに、屋上を後にした。
僕は高鳴る心音をそっと落ち着けながら、わざと先輩のことを視界の隅に追いやる。
五限は日本史。転生しているから二度目の授業だけど、どうしても高校の授業は好きになれないな、なんて別のことに意識を移す。
彼女の「裏設定」はある意味、ヒロインたちの中で一番、厄介だと言える。
完璧であるが故の苦難。
ゲーム制作者という神から与えられた超常的な「才能」が関連しているのだ。
惑わされてはいけない。先輩に惹き込まれてはいけない。
それが僕と先輩の『戦友』としての、第一歩となるのだから。▽