陽は、また昇る   作:ツカッチ

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旅人のみなさん、こんにちは。

この物語を書こうと決めた後に死の執政が「魔神が人を愛するのは呪いだ」とか言っててビビりました。


第一幕 雷電陽

 昼下がり。

 ひと通りの稽古を終えた陽は、身なりを整えて天守の門をくぐった。

 

「お疲れ様です、陽様」

 

 門の前に立つ兵士の一人が声をかける。

 

「今日も異常はないか?」

 

「はい。平和そのものです」

 

「それが一番だな」

 

 陽は笑いながら頷くと、そのまま城下へと歩いていった。

 

 彼の姿を見送る兵士たちは、誰一人として不思議には思わない。

 

 雷神の弟が城下町へ降りる。

 

 それは、この稲妻では珍しい光景ではなかった。

 

 むしろ。

 

「陽様だ!」

 

「今日も来てくれたぞ!」

 

 城下へ入るなり、あちこちから声が飛んでくる。

 

 陽は軽く手を挙げ、それに応えた。

 

「今日も来たぞ」

 

 民たちにとって、陽は決して遠い存在ではない。

 

 ほぼ毎日。

 

 特別な用事がない限り、陽は城下へ姿を見せる。

 

 店先で立ち話をすることもあれば、子供たちと遊ぶこともある。

 

 困りごとを相談されれば話を聞き、時には力仕事の手伝いをすることもあった。

 

 だから城下の者たちは、時折こう言うのだ。

 

 ――今日は、まだ陽様は来ていないのか。

 

 ――そろそろ来る頃じゃないか。

 

 まるで、毎日決まった時間にやってくる友人でも待つかのように。

 

「……腹減ったな」

 

 しばらく歩いたところで、陽は自分が昼食を取っていないことに気がついた。

 

 近くにあった店を覗き込む。

 

「ここでいいか」

 

 陽が戸を開けた瞬間。

 

 店内の空気が止まった。

 

「よ、陽様!?」

 

「急にすまない。一名、よろしく頼む。」

 

 店主が慌てて駆け寄ってくる。

 

「い、いえ! とんでもございません! どうぞこちらへ!」

 

 店主は陽を店の奥へ案内しようとする。

 おそらく、身分の高い客のために用意された部屋だろう。

 

 しかし陽は足を止め、店内をゆっくりと見渡した。

 

 楽しそうに食事をする家族。

 

 酒を飲みながら笑い合う者たち。

 

 仕事の話をしている商人。

 

 人間もいれば、妖怪の姿もある。

 

 陽はその様子を眺めると、ふっと笑った。

 

「いや、こっちでいい」

 

「ですが……」

 

 陽は近くの空いていた席へ歩いていき、そのまま腰を下ろす。

 

「ここが一番、店の中を見られるからな」

 

「……?」

 

「こんなにたくさんの民がいるんだ。ならば、みんなの会話が聞こえる場所にいたい」

 

 陽はそう言って、楽しそうに店内を見渡した。

 

 店主は一瞬、呆気に取られていたが。

 

 やがて、小さく笑った。

 

「……かしこまりました。すぐにお持ちします」

 

「ああ。腹が減ってるから、多めに頼む」

 

「承知いたしました」

 

 しばらくして、料理が運ばれてくる。

 

 陽は箸を手に取ると、一口。

 

「……うまい」

 

 思わず声が漏れた。

 

 店主が嬉しそうに笑う。

 

「お口に合いましたか?」

 

「毎日食べに来たいくらいだ」

 

「光栄です」

 

 陽は料理を口に運びながら、再び店内を見渡した。

 

 誰かの笑い声が聞こえる。

 

 子連れの家族が楽しそうに話している。

 

 商人たちが新しい商売について議論している。

 

 酒に酔った者たちが、どうでもいいことで笑っている。

 

 陽は、こういう時間が好きだった。

 

 民の声を聞くことが好きだった。

 

 楽しそうな声が聞こえれば、それだけで分かる。

 

 ――今日も、みんなが笑っている。

 

 それだけで、陽は嬉しかった。

 

 しかし。

 

 

「だから、お前ら天狗は臆病なんだ!」

 

「何だと!? 貴様ら鬼こそ、何も考えず力任せではないか!」

 

 

 突然、大きな声が店内に響いた。

 

 陽が箸を止める。

 

 見ると、店の奥では天狗と鬼が向かい合っていた。

 

 どちらも顔を真っ赤にしている。

 

 どうやら、相当酒が入っているらしい。

 

「やるのか!?」

 

「望むところだ!」

 

 今にも掴みかかりそうになった二人に。

 

「二人とも、そこまでにしろ」

 

 静かな声がかけられた。

 

 二人が振り返る。

 

 そこには、陽が立っていた。

 

「何だお前――」

 

 天狗が睨む。

 

 鬼も同じように陽を見た。

 

 しかし。

 

「………」

 

「………」

 

 二人の動きが止まった。

 

 赤かった顔から、みるみる血の気が引いていく。

 

「よ、陽様……?」

 

「……え?」

 

 先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか。

 

 二人は背筋を伸ばし、その場に立ち尽くしていた。

 

 陽は小さく息を吐く。

 

「酒を楽しむことを止めるつもりはない」

 

 二人が恐る恐る顔を上げる。

 

「だが、周りに迷惑をかけるのは頂けないな」

 

「は、はい……」

 

「す、すみませんでした……」

 

 すっかり縮こまってしまった二人。

 

 店内にいた客たちも、何となくその様子を見守っている。

 

 陽はそんな二人を見て。

 

 ふっと笑った。

 

「……俺も混ざっていいか?」

 

「え?」

 

 天狗と鬼が顔を上げる。

 

「酒を飲むつもりはないが」

 

 陽は二人の向かいの席を指差した。

 

「せっかくだ。どんな話をしていたのか聞かせてくれ」

 

「え、いや……その……」

 

「別に、怒っているわけじゃない」

 

 陽は笑う。

 

「ただ、二人が熱くなった理由が気になっただけだよ」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

 そして。

 

「……実はですね、陽様」

 

「こいつが、とんでもないことを言い出したんですよ!」

 

「何だと!? 最初に言ったのはお前だろう!」

 

「落ち着け」

 

 陽が笑う。

 

「席に座って、順番に話してくれ」

 

 それからしばらく。

 

 店の一角では、一人の魔神と、一人の天狗、一人の鬼が。

 

 酒も飲まずに、ただ楽しそうに話をしていた。

 

 その笑い声は。

 

 いつしか、店内にいた他の客たちの笑い声へと溶け込んでいった。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

 

 店の外へ出た陽は、満足そうに腹を撫でた。

 その後ろには、先ほどまで喧嘩をしていた天狗と鬼の姿もある。

 

 二人は先ほどとは打って変わって、妙に姿勢が良かった。

 

「陽様、本当にお支払いを……」

 

「いいって。俺が混ぜてもらったんだからな」

 

「ですが……」

 

「そんな顔するな」

 

 陽は笑う。

 

「ただし」

 

 その直後、少しだけ声の調子を変えた。

 

「酒を飲むなとは言わないが、飲みすぎるなよ」

 

「特に、この時間帯は子供の姿も多い」

 

 陽は辺りに視線を向ける。

 通りの向こうでは、子供たちが走り回っている。

 

 人間だけでなく、小さな角を生やした鬼の子もいた。木の枝に腰掛け、楽しそうに話している小さな天狗の姿もある。

 

「お前たちが酔って騒いでいたら、子供たちはどう思う?」

 

 二人は黙る。

 

「おそらく、お前たちのことを恐れてしまうだろう」

 

 陽は続けた。

 

「……それだけならまだいい」

 

 天狗と鬼が顔を上げる。

 

「一人の行動で天狗や鬼そのものが恐れられるようになったら、その責任を取れるか?」

 

 二人は深く頭を下げた。

 

「申し訳ありません!」

 

「以後、気をつけます!」

 

 先ほどまでの酔っ払いとは思えないほど、見事に声が揃った。

 

 陽は思わず笑う。

 

「俺はもう行く。次は、喧嘩にならない程度にな」

 

「「はっ!」」

 

 再び綺麗に声が揃った。

 

 そして二人は、陽が見えなくなるまでその場で深々と頭を下げていた。

 

 陽はそれを横目に見ながら、再び城下を歩き始める。

 

 そして思い返すように立ち止まりーー

 

「……やっぱり、酒代くらいは自分で払わせればよかったかな」

 

 そう、小さく呟いた。

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 城下を歩いていると、賑やかな声が聞こえてきた。

 

 陽は足を止め、その声のする方へ視線を向ける。

 

 城下の端にある、広い原っぱ。そこでは今日も、多くの子供たちが遊んでいた。

 

「待てー!」

 

「捕まえられるもんなら捕まえてみろー!」

 

 駆け回っているのは、なにも人間の子供だけではない。

 

 小さな角を生やした鬼の子。

 大きな目を持つ一つ目小僧。

 そして、猫の耳と尻尾を揺らしながら走る化猫。

 

 誰が人間で、誰が妖怪か。

 

 そんなことを気にする者は、一人もいない。

 

 ただ、そこには幼い子供たちがいた。

 

「あっ」

 

 その中の一人が、陽に気がついた。

 

「陽様だ!」

 

 その一言で。

 

「えっ!?」

 

「どこどこ!?」

 

「本当だ!」

 

 子供たちが一斉に振り返った。

 

 そして。

 

「「「「陽様ー!!」」」」

 

 一斉に駆け出してくる。

 

「元気だな……」

 

 陽は思わず笑った。

 次々と子供たちが陽の周りに集まってくる。

 

「今日も来てくれたの!?」

 

「来たぞ」

 

「遊んでくれるの!?」

 

「今日は何するの!?」

 

 陽が周囲を見渡す。

 

 子供たちは皆、期待した目でこちらを見ていた。

 

 陽は少し考える。

 

「何か、やりたいことはあるか?」

 

「おいかけっこ!」

 

 一人の少年が勢いよく手を挙げた。

 

「またか?」

 

「今日は絶対捕まえるから!」

 

「昨日も同じことを言ってなかったか?」

 

「今日は人数が多いもん!」

 

 その言葉に、周囲の子供たちが頷く。

 

「みんなで囲めば、絶捕まえられるよ!」

 

 陽は子供たちを見渡した。

 

 一人、二人、三人……

 

 十人以上はいる。

 

「……なるほど」

 

 陽は腕を組んだ。

 

「確かに、昨日より多いな」

 

「そう!」

 

「隠れても無駄だからね!」

 

 陽はしばらく考えた後。

 

「よし、やるか

 

 子供たちの顔が輝く。

 

「本当に!?」

 

「ああ」

 

 陽は原っぱの中央へ歩いていく。

 

 そして子供たちへ振り返った。

 

「ただし」

 

 一瞬。

 

 空気が変わった。

 

「手加減はしない」

 

「「「えぇー!?」」」

 

 陽が笑う。

 

「結果は昨日と同じだぞ」

 

「今日は違うもん!」

 

「そうだよ!」

 

「絶対捕まえる!」

 

 陽は満足そうに頷いた。

 

「いい返事だ」

 

 そして。

 

 子供たちから少し離れる。

 

「俺が十数えたら開始だ」

 

「えっ、陽様が数えるの?」

 

「その間に逃げるんじゃなくて?」

 

「これくらいの手加減は、してやらないとな」

 

 陽は軽く体を伸ばしながら言う。

 

「あっ、また僕たちを馬鹿にしてるー!」

 

「絶対捕まえてやる!」

 

 そんな声を聞きながら、陽は静かに目を閉じた。

 

「じゃあ、いくぞ」

 

「「「「うん!」」」」

 

 陽は少しゆっくりと数え始める。子供たちの気配を追うなんて真似はしない。

 

 やがて、数え終えた陽は目を開ける。

 

「……さて」

 

 周囲を見渡す。

 

 誰もいない。

 

 静かな原っぱ。

 

「どこから来る……?」

 

 その瞬間。

 

「やーっ!」

 

 後ろから子供たちが飛び出した。

 

「……なるほど」

 

 最初から追いかけるのではなく、陽が目を閉じている間に全員で囲んでいたらしい。

 

「捕まえたー!」

 

「まだだ」

 

 陽は軽く身を翻した。

 

 子供たちの手を避け、そのまま駆け出す。

 

「あっ、逃げた!」

 

「追えー!!」

 

「今日こそ捕まえるぞー!」

 

 十数人の子供たちが、一斉に陽を追いかける。

 

 原っぱに、楽しそうな声が響き渡った。

 

「速いー!」

 

「陽様、待ってー!」

 

「待たない」

 

「ずるい!」

 

「追いかけっこで待つ鬼はいない」

 

 陽は笑いながら走る。

 

 もちろん、本気ではない。

 

 少し走れば、子供たちを置き去りにすることなど簡単だった。

 

 けれど。

 

 子供たちが追いつける程度の距離を保ちながら走る。

 

「こっちから行こう!」

 

「岩の裏にまわって!」

 

 いつの間にか、子供たちも作戦を立て始めていた。

 

 化猫の少女が木の上から陽の行く先を見張る。

 

「そっち行ったよ!」

 

「分かった!」

 

 一つ目小僧が陽の前へ飛び出す。

 

「止まれー!」

 

「おっと」

 

 陽は笑いながら方向を変える。

 

 そこへ。

 

「今だ!」

 

 別の子供たちが一斉に飛びかかる。

 

「惜しいな」

 

 陽は軽く跳んだ。

 

 子供たちの頭上を越え、そのまま着地する。

 

「うわー!」

 

「また逃げた!」

 

 しかし。

 

 

「きゃあ!」

 

 

 突然、後ろから声がした。

 

 陽が振り返る。

 

 小さな女の子が、倒れていた。

 

 躓いてしまったのだろう。

 陽はすぐに少女の下へ駆け寄る。

 

「どこか打ったか?」

 

「ここ……」

 

 狐の子が膝を指差す。

 

 陽がしゃがみ込む。

 

「見せてみろ」

 

 狐の子が、涙を拭う。

 

 その瞬間。

 

 一瞬だけ。

 

 口元が。

 

 にやりとーー

 

「な」

 

 陽が顔を上げる。

 

 そして。

 

 

「今だぁぁぁぁ!!」

 

 

 草むら。

 

 木の陰。

 

 岩の後ろ。

 

 隠れていた子供たちが一斉に飛び出してくる。

 

「捕まえろー!」

 

「逃がすなー!」

 

「おい、待て待て!」

 

 陽が立ち上がろうとする。

 

 しかし。

 

「陽様、捕まえた!」

 

 狐の子が陽の腕にしがみつく。

 

「えへへっ!」

 

 さっきまで泣いていた顔が、満面の笑みに変わる。

 

「嘘泣きだったのか」

 

「そうだよ!だって私、狐の妖怪だもん!」

 

 その間にも、子供たちが陽へ飛びついてくる。

 

 陽は完全に動きを封じられる。

 

「勝ったー!」

 

「やった!」

 

「陽様を捕まえたぞー!」

 

 陽はしばらく呆然として。

 

 腕にしがみついている狐の子を見る。

 

「……本当に怪我したのかと思ったぞ」

 

「ごめんなさい」

 

 狐の子が一瞬だけ申し訳なさそうな顔をする。

 

 陽はため息をつく。

 

「……まあいい」

 

 そして笑みを浮かべ、少女の頭をさらりと撫でた。

 

「今回だけだぞ」

 

「うん!」

 

 素直な返事。

 

 ……のはずだった。

 

「でも、また捕まえる時は使うかも!」

 

「おい」

 

 狐の子は、してやったりと笑う。

 

 その表情を見た陽は、呆れたように息を吐いた。

 

「まったく……」

 

「陽様!」

 

 その時、周囲の子供たちが声を上げた。

 

「約束通り、僕たちの勝ちだよね!?」

 

 陽の体にしがみつく子供たち。

 騙されたとはいえ、見事な連携だった。

 

「……ああ」

 

 陽は静かに頷いた。

 

「この勝負は、みんなの勝ちだ」

 

「「「「「やったぁー!!」」」」」

 

 原っぱに、大きな歓声が響く。

 

 陽はその中心で笑っていた。

 

「一人じゃ無理でも、みんなで考えればできる」

 

 子供たちの歓声が、少しだけ静まる。

 

「力が強い奴もいる」

 

 鬼の子を見る。

 

「足の速い奴もいる」

 

 化猫を見る。

 

「周りをよく見られる奴もいる」

 

 一つ目小僧を見る。

 

 そして最後に。

 

「人を騙すのが上手い奴もいる」

 

 狐の子を見る。

 

「うん!」

 

「褒めてはないけど」

 

「えー!?」

 

 周囲から笑い声が上がる。

 

 陽もつられて笑った。

 

「でも」

 

 陽は子供たちを見渡す。

 

「みんな違うからこそ、一緒にいれば一人ではできないこともできる」

 

 子供たちは、陽の言葉を聞いていた。

 

「これからも、仲良くできるな?」

 

 一瞬。

 

 子供たちはきょとんとした。

 

 まるで、そんなことを改めて聞かれる意味が分からないと言うように。

 

「当たり前じゃん!」

 

「みんな友達だもん!」

 

「うん!」

 

「喧嘩することはあるけど」

 

「でも、仲直りするよ!」

 

「そうそう!」

 

「みんなで遊んだ方が楽しいもん!」

 

 口々に言う子供たちを、陽はしばらく見つめていた。

 

 そして。

 

「……そうか」

 

 小さく笑う。

 

「それなら、よかった」

 

 陽は子供たちの頭を、順番に撫でていく。

 

「その気持ちを、忘れるなよ」

 

「「「「 はーい!」」」」」

 

 子供たちの元気な返事が、原っぱに響いた。

 

 陽は空を見上げる。

 

 穏やかな青空。

 

 その下では。

 

 人間も。

 

 妖怪も。

 

 ただの子供たちとして、一緒になって笑っていた。

 

 陽はその光景を。

 

 いつまでも守りたいと思った。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 夕日が、稲妻の城下を赤く染めていた。

 

「陽様ー!」

 

 背後から声が聞こえる。

 

 陽は振り返った。

 

 先ほどまで一緒に遊んでいた子供たちが、原っぱからこちらへ手を振っている。

 

「また明日ねー!」

 

 陽は笑った。

 

 手を振り返し、再び歩き出す。

 

 城下を歩けば、あちこちから声がかかる。

 

「陽様、本日の来店、誠にありがとうございました!」

 

「料理、うまかったぞ」

 

「また来てくださいね!」

 

 そんな何気ないやり取りを繰り返しながら。

 

 陽は、城への道を歩いていく。

 

 やがて。

 

 天守の門が見えてきた。

 

「陽様」

 

 門を守っていた兵士たちが、姿勢を正える。

 

「お帰りなさいませ」

 

 陽は少しだけ笑った。

 

「ああ、ただいま」

 

 門をくぐる。

 

 背後では、城下の賑やかな声が今も聞こえていた。

 

 笑い声。

 

 話し声。

 

 子供たちの声。

 

 人間も。

 

 妖怪も。

 

 皆が同じ場所で生きている。

 

 陽は一度だけ、振り返った。

 

 夕暮れに染まる城下を眺める。

 

「……今日も平和だな」

 

 誰に言うでもなく。

 

 陽は小さく呟いた。

 

 そして。

 

 満足そうに笑いながら、城の中へ戻っていった。

 

 

 つづく




 稲妻の民について…

 守るべき存在……。そう言ってしまえば、確かにそうなのかもしれない。けど俺は、彼らをそんな風には見ていない。
 みんな、それぞれの人生を生きている。笑う者もいれば、泣く者もいる。誰かを愛する者もいれば、夢を追う者もいる。人間も妖怪も関係ない。みんなが同じように生きて、悩んで、それでも前へ進んでいる。だから俺は、そんな彼らが好きなんだ。
 城の上から眺めているだけじゃ、何も分からない。同じ場所を歩いて、声を聞く。そうして初めて、彼らがどんな毎日を生きているのかを知ることができる。
 ……まあ、偉そうなことを言ったが、みんなと話しているのが楽しいだけだよ。
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