目を開けた瞬間、
真っ白い空間に私はいた。
何もない空間だ。
すぐに夢だとわかった。
さっきまで何してたんだっけ?
それにしてもやけに体が変な感じが…
「………え?」
私はふと自分の身体を見下ろし、驚愕で目を見開いた。
それは前世の体であった。
真っ平らな胸。痩せ細った体。腕に残る傷痕。
それと同時に、記憶が蘇ってくる。
疲労。妬み。憎しみ。憤怒。
嫌な記憶だ。
そして終わりという言葉が頭の中に浮かんできた。
だってそうじゃないか。さっきまで少し膨らんだ胸。子供ながらに鍛えられた美しい腕。10年間歩んだレテシアとしての肉体ではなくなっているのだ。
そもそもなんでいきなり。
こんな、中途半端で。
そうか。
終わりか……。
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ふと気づくと、変なやつがいた。
のっぺりとした白い顔で、にこやかに笑っている。
特徴は無い、というか、分からなくなってくる。
なんというか、特徴を把握しようとするとすぐさま記憶から抜けていった。
覚えることが出来ないのだ。
そのせいか、まるで彼全体にモザイクが掛かっているような印象を請ける。ただ、穏やかそうな人物だと思った。なんかキモいけど。
「やあ、初めましてかな。こんにちわ。レテシアちゃん」
中性的な声だ。でもなんだかねっとりしていて気持ち悪い。男か女か分からない。
「聞こえているよね?」
ういうぃ、こんにちわっす。
「うんうん、挨拶ができるのはいいことだね」
声は出なかったが、相手には通じたらしい。
テレパシーを使ってるような気分だ。
「いいね君、適応力あるよ」
大したことありませんよ。
「んふふ。大したことあるよ」
で、あなたはどこのどなた様?お貴族様?フリーザ様?
「見ての通りだよ」
見ての通り?
モザイクでよく見えないんだけど。犯人?映す価値なし的な人?
「僕は神様だよ。人神だ」
ヒトガミ。…はぁ、そうっすか。
「気のない返事だね」
いや、なんというか。
ぶっちゃけそう言われても返しにくいというか。
自らを神とか名乗るようなヤツって頭おかしいとしか思えんし。
「なかなか手厳しいなぁ」
まあとりあえず何?要件は?
「君のこと、見てたよ。なかなか幸せそうな人生を送っているじゃないか!」
へー、確かに。今のこの身体の時とは比べ物にならないほど幸せでしたけど。
「だよね。だから、見守ってやることにしたんだよ」
見守って、やる。
なんとも見下されてる感じが気に入りませんね。
「つれないねえ。君が困っているだろうと思って声を掛けたのに」
声かけるならもっと早く言ってよ。そしたら、あんな変なところに飛ばされなくて済んだのに。
ちょっち信じられんっすわ。
「僕は君の味方だよ」
……チッ!嫌だなぁ、簡単に味方とか言うヤツ。
「そこまで嫌われると傷つくなぁ……。じゃあ、とりあえず助言をさせてくれよ」
助言……か。
「従うも従わないも、君の自由ってことさ」
くそっ!何が今更助言だよ!この身体で何ができると言うのさ!?
あっちには私の居場所なんてないんだよ!!
夢見させやがって、何が異世界だ!
転生とかいっていい気分にさせておいて、こんな中途半端で終わりだなんて!
「いやいや、勘違いしないでくれよ。前世のことじゃなくて、今の話をしているんだから」
……じゃあこの姿は?
「君の精神体だよ。肉体は別。もちろん、肉体は無事だ」
なら、これはただの夢?
目が覚めても、この貧弱な身体に戻るわけじゃ……ないってコト?
「そう。これは夢だよ。目が覚めれば、君の身体は元通りだ。安心したかい?」
安心した。
そうか、夢か……
「おっと、ただの夢じゃないよ。僕が君の精神に直接語りかけているんだ。驚いたね、精神と肉体がここまで違うとは……」
直接ね。
そりゃあ神様にしか出来んわな。
異物は邪魔だから元の世界に戻そうっていうの?
「まさか、六面世界以外の異世界には、僕にだって送り返せないよ。そんな当たり前の事もわからないのかい?」
なんだよ六面世界って。私に分かるわけないじゃない。
「ごもっとも」
つまり、送り返せないってことは、
あんたがこの世界に転生させたわけじゃないってことか。
「まぁね。大体、僕は転生なんてさせられないよ。そういうのは、悪い龍神の得意とする所さ」
悪い龍神。
響きがいいね、龍神って。悪いヤツなら勘弁だけど。
「で、聞くかい? 助言」
……………聞かない。
「えっ! どうしてだい?」
あんたが胡散臭いからに決まってるでしょ?
「胡散臭い、かなあ……?」
とーっても胡散臭い。
薄気味悪い。
「信じてくれよぉ」
神のくせに情けない声を出しやがって。
てゆーか自分で神って名乗るのけっこーきちーw
冷笑対象だわ。冷笑学校。冷笑学校。
自称進。自称神。
「ちょっと何言ってるか分かんない」
サンドウィッチマンか!
「……君自体はあんまり面白くないね」
はいーー!!傷ついたー!絶対言うこと聞きませーんわい!!
「そんな事言わずにさ。最初の1回だけでいいんだ」
なんだよ、その先っぽだけでいいから、みたいなのは。
どうせそういうやつは奥まで挿れるだろーが。
大体、神様なんだったら前世の時から助けてくれよ。あっちのほうが大変だったから。
「いや、君の前世の世界の神様とボクは違うから」
だから、それが信用できないんだっての。
言葉だけじゃダメなんだよ。
信用してほしいなら、奇跡でも起こしてみろよ。
「起こしてるじゃないか。夢を通して語りかけるなんて、僕にしか出来ないよ」
じゃあ、あの光は?飛ばされた原因は?教えてみろ。
「君はね、大規模な魔力災害に巻き込まれて転移したの」
魔力災害。
聞き馴染みのない言葉だ。
転移。
魔法か?
災害ってことは自然に引き起こされたもの?
結構な範囲の人たちが飛ばされたっぽいけど。
家族も。離れていたルディも。
……そこの所、どうなの?
「それを僕に聞いて、信じるのかい?助言は聞かないのに?」
うっっぜ!信用はしないけど情報は欲しいんだよ。
「僕に言えるのは、みんな君の無事を祈ってるってことさ。生きて帰ってきてほしい、ってね」
胡散臭ー。
ちなみに私の今いる場所は?
「ベガリット大陸さ。魔大陸の次に危険とされている場所だ。夜には極寒になるから気をつけてね」
確か、南西のほうだったか。公用語は闘神語。
喋れないじゃあないか。
「まっ、なんとかなるよ。人間語を喋れる人だっているんだし。…僕の助言に従えば、絶対とは言わないけど、高確率で帰ることが出来るよ?」
まて。
なんであんたは私にこだわるの?
「くどいなあ……。君が生きていると面白そうだから。それでいいじゃないか」
「面白いというか、興味深いのかな。異世界人なんて滅多に見ないからね。僕が助言を与えて、いろんな人と触れ合い。それがどんな結果につながっていくのか……」
それを安全圏から傍観するってか?
たいそうな趣味をお持ちのようで。
「最後に質問するね。自信、あるかい?知らない危険な土地で、生きていく自信」
………無いよ。無いっすよ!
「じゃあ、聞いたほうがいいんじゃないかい?もう一度言うけど、従うも、従わないも、君の自由なんだから」
分かりました。分かりましたよ!!さっさと言え!
「……はいはい。レテシアよ。よくお聞きなさい。近くにいる剣士を己の師とし、彼の殺しを止めなさい」
自称神はそれだけ言うと、エコーを残しながら消えていった。