HERO使いの初恋のかっこいいお姉ちゃんが挫折して心折れてたので貰ってきます。 作:陰キャ姉フェチシスコン侍
遊城遊覧が想い人を家から連れ出して、バイクを走らせて三時間。お姉ちゃんと会ったのは、家を追い出される前にしたデュエルの時が最後だ。あれから五年。十代の子供が成長するには充分過ぎる時間が経過した。遊覧はそれを背中で全力で噛み締めている。
「…………」
(密着した腕、胸、腹。密着したどこもかしこもが柔らけえ。ジャージの上からの感触でこれとか、脱いだらどうなるってんだ?
フッ、たまんねえぜ……)
「…………」
(座りっぱなしでお尻痛いなぁ……)
引き篭り生活ですっかりぷにぷにになった自分のカラダが、まさか弟分の性的興奮を誘発しているなどと思いもしない美月。自分の尻の位置を調整する中で無意識に胸の膨らみを遊覧に擦り付けていると、バイクから酒ヤケした重低音の声が響いた。
《遊覧、聞こえるか!? 聞こえてるよなぁ!!》
「--え!? な、何この声……?」
「…………何だよオッサン。今日は恋人とデートだって、散々言っといただろ?」
「え、こ、恋人!?」
《文句なら、テメエも乗ってるその『デュエルが出来るバイク』とやらを作ってバカ共に配りやがったクソ組織にでも言うんだな。時速300㎞を気軽に出しやがるからパトカーじゃ捕まえられやしねえ。
オウ、ちょうどオメエが走ってるラインを後追いして走ってるとこだ。サラッと絞めといてくれ。生きてるんなら轢き殺しても構わねえからよ。頼んだぞ、
プツッ。一方的に言いたいことを言って通信が切れる。
「轢き殺して生きてるわけねえだろ。小学校から国語やり直せ……」
「い、今のは何ゆうくん?」
「あーまあ……収入源から仕事の依頼。ウーバーセキュリティーだな。
ほら、十歳であの家追い出されたじゃん俺? 中卒どころか実質小学校中退。そんな人間が金稼ごうとしても、普通のトコじゃ就職なんて出来ないから非正規で仕事受けて金貰ってんの」
「え…………」
美月の顔が見る見る曇る。
「心配すんなって。これでも結構金は溜め込んでる。愛する女一人養うぐれえ造作もねえからよ。例えそんな、ダラシねえ腹しててもな。ハハハ」
「あ、あの、ゆう君わたし--!!」
「--おっと、話してたら来たぜ飯のタネが。
美月、もっとしっかり掴まれ。特にその胸と腹を隙間なく俺の背中に密着させとけよ!」
「え!? あ、ちょ、ゆうくん…………っ、ぎゅう~~~ッ!!」
何かを言いかけた美月の声は、遊覧の言葉で遮られる。胸と腹は素直に押し付けられた。
「さーてと、ヒーロー見参だ。……ハッ」
自分の言葉を鼻で笑っていると、宣言通りに背後から排気音と共にバイクに乗った人影が猛スピードで迫ってきた。パトカーと道交法を置き去りにして走る犯人の眼は、散眼して焦点が合っていない。口からは涎を垂らすーーと、呆れるほどに
「ヒャハハハハーーー!! オレァが一番速いんだァ! 誰も着いて来れやしねえ、このスピードァになーー!!!」
「はーい、そこのヤク中止まれー。さもないと、この情け容赦ない【HERO】デッキが、正義も司法も無視して火を噴くぜ?」
「何だテメェ! このスピードキング、宙眷友春サマァの邪魔ァをしようってかぁ!? ほんじゃあバイクに代わってァお仕置きだーー!!」
「あらま、まぁた宙眷の脱落者の犯行か……ま、行くところも生き場もねえのは分かるけども……な」
何か違えば逆だったかもしれねえ立ち位置に一秒だけしんみりした遊覧は、すぐに思考をデュエルに切り替えた。
「「--
両者ともアクセルを全開にして、今時速300kmの世界のデュエルが始まる!
「着いて来れるか? この加速した世界に……」
「…………ゑ!?
……ば、ばばバイクに乗ったままデュエルするの!? あ、危ないよ、ゆうくん! 降りてやった方が良いよ!!」
「スピード違反を取っ捕まえる為のデュエルだぜ? じゃあバイク乗ったままデュエルするしかねえじゃん?」
「…………ぜ、前提がおかしいよぉ!」
宙眷友春 LP4000
遊城遊覧 LP4000
「さぁーて、『炎』か『水』か……」
「? 炎か水??」
「オレァのターン、ドロー!!
イヒヒャヒャヒャ!? オレは『融合』を発動! 手札のフェザーマンとバーストレディを融合して、『E・HERO フェニックス・ガイ』を融合召喚!」
E・HERO フェニックス・ガイ DEF1200
「『炎』か……相変わらず、宙眷の脱落者の『炎』『水』率の高さは尋常じゃねえな」
「あ……『炎』と『水』って、
フェザーマンとバーストレディなら、本当なら何種類も選択肢がある筈なのに、『炎』って決められちゃったからフェニックス・ガイかノヴァマスターしか喚べない縛り」
「そう。あの因習村ならぬ因習名家名物。或いは【HERO】使いの
「融合HEROの属性格差は明確だもんね。特に『炎』と『水』の2種類は、属性縛りにするの止めたほうが良いって、私も子供の頃は『当主様』に言ってたなぁ」
「へえ。流石は宙眷の神童さまだ。
俺がソレに気付いたのなんて、宙眷の家を出てから随分経ってからだってのに。
しかし、お姉ちゃんが言っても変わらなかったってことは、この属性格差の盲目具合さは尋常じゃ無いってわけだ」
(当主様こと美月の父親は、娘に死ぬ程甘かったのに……)
「何をデュエル中に女とイチャついてんだテメェ!
まだまだ行くぞ、更に手札から『融合派兵』を発動! EXデッキからE・HERO フレイム・ブラストを見せて、デッキからE・HERO レディ・オブ・ファイアを守備表示で特殊召喚」
E・HERO レディ・オブ・ファイア DEF1000
「…………アレは、エンドフェイズに相手にダメージを与えるヒーロー?」
美月は不思議そうな顔をした。
「ああ。レディ・オブ・ファイアは、炎縛りで脱落した宙眷の多くが使用する傾向があるカードだ」
「更に手札から、もう一体のレディ・オブ・ファイアを召喚。
更にカードを一枚伏せ、エンドフェイズ。
レディ・オブ・ファイアの効果発動らァ! E・HEROモンスター一体につき200ポイントのダメージを与える!
オレの場に居るE・HEROは三体。600ポイントのダメージを与える!」
「美月、ダメージエフェクトでバイクが揺れるぞ。必死に捕まってろよ」
「だ……だから降りてやった方が良いのに……うぅ、お姉ちゃん怖いよぉ」
「…………俺は五年分の欲求が満たされてく。
……たまんねえ」
バイクに乗る無理な姿勢で、限界まで遊覧に引っ付くために顔を肩に乗せる美月。遊覧の耳には想い人の怯えながらも脳をとろけそうにさせる甘い声が直接届く。思春期の少年には過ぎた刺激だ。
「焼け、レディ・オブ・ファイアー!!」
遊城遊覧 LP3400
レディ・オブ・ファイアの放つ火球がバイクに直撃し、バイクに内蔵されたリアクションが車体を大きく左右に振った。
「ひぃ!? あっ、あっ、怖い、ヤダぁ……!」
「~~っっ……! やべえ……思ったより脳に来るな、
「何ァ人の攻撃で女堪能してんだァ! もう一発喰らえ、二体目のレディ・オブ・ファイアの効果発動だ!!」
遊城遊覧 LP2800
「ふぅっ……!? うううううう~~……っっっっ!!」
「ッッ!? や、やべ。吐息が耳に掛かる……」
E・HERO レディ・オブ・ファイア ATK1300
E・HERO レディ・オブ・ファイア DEF1000
E・HERO フェニックスガイ DEF1200
伏せ×1
「オレはこれでターンエンドだ!」
(ふぅ~やべえ、ピンチだぜこのデュエル……もっと限界までダメージが欲しくなる。
煩悩が、捗る!!)
「…………ゆ、ゆうくんっ」
追い打ちどばかりに耳元に切ない声が届く。
「お、おう。どうした?」
「…………こ」
「え、なんて?」
「…………お、おしっこぉ~~!」
「え? 何で急に!?」
「きゅ、急にじゃないぃ……! ず、ずっと我慢してたのっ! な、なのにこんな怖いことになって……も、もう限界ぃぃ……う、ぅえええぇぇ……だじゅけでぇ~~洩れぢゃうよぉ”~」
カラダを密着させたまま上を向いて泣き出す美月。おしっこ洩れそうとメソメソ泣き出すこれが、昔はかっこよかったお姉ちゃんの姿か? そう思うのが普通の感性だろう。
しかし。
「…………ふっ、フフフ。良いねえ、滾るわ。俄然やる気出て来たぜ!! アハハハハ!!!!
飯の種もスピード違反も知ったことか! ブッ千切るぜ!!」
この男は、弾けた。かつて尊敬していたお姉ちゃんの情けないメソ泣きにそそられて。
ただでさえアクセルを全開にしていたところを、更にギアを上げた。今まではカタチだけの理性のかいあって、デュエル用の抑えたレベルのギアだった。
だが、それを天井まで上げた時。このマシーンの最高速度は700㎞を越える。
「俺のターン、ドロー!」
ドローの声は、既に友春には聞こえていない。が、いつまでもそうはならない。
「す、スピードキングのオレをよぉ……? 女と二ケツでブッ千切ってんじゃえゾゴル嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!!」
最初はブッ千切っていたバイクが、すぐに車間を詰められる。デュエル中にオートで作動しているこのバイクの機能の賜物だ。
「さあて、トイレ探すついでにワンショットキルで終わらすぜ!
手札から『予想GUY』を発動! デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する!
来い、『E・HERO フェザーマン』!」
E・HERO フェザーマン ATK1000
「何ァ!? フェザーマンだとォ!? テメエも宙眷だったのか!!」
「残念だったな、俺の名前は
手札から『融合派兵』を発動! EXデッキから『E・HERO エリクシーラー』を見せて、デッキから『E・HERO バーストレディ』を特殊召喚!!」
E・HERO バーストレディ ATK1200
「融合派兵から融合素材のE・HEROを召喚するその戦術、やはり宙眷!!
チャンスが来たぜ! テメェのクビを手土産に、当主様にもう一度宙眷に復帰出来るかもしれねえ!! アハハハハ!!」
「…………戻りたいもんかねえ、あんな因習村。俺は美月さえ奪えば、もう何の興味もねえけどな。
ま、人それぞれってことで。お前は俺の女の『公道でおしっこ漏らしたくないよぉ。ゆう君助けてェ』の声によって、社会的に殺されるのさ!!」
「わた、しの……せいに、しちゃ、ヤダ……っっ」
「さあ、行くぜ。魔法カード『置換融合』を発動!」
「はあ? 『置換融合』だとぉ!?」
「このカードはルール上『融合』として扱うが、手札からの融合召喚は出来ねえ。
扱い辛くて宙眷はもちろん、全国の融合使いから存在を忘れかけられていたカードだが……ま、よろしくやってるんでね。
フィールドの『フェザーマン』、『バーストレディ』を融合!
融合召喚。E・HERO クレイガードマン!」
E・HERO クレイガードマン DEF2800
「クレイガードマン……ちっ、テメエは『地』の属性に選ばれたのかよ!! 才能があってお羨ましいねえ!!」
「才能が羨ましいか…………同感だぜ。
クレイガードマンの効果発動。特殊召喚成功時、デッキから『E・HERO』を特殊召喚する。
『E・HERO ブレイズマン』を特殊召喚」
E・HERO ブレイズマン ATK1200
「さらにその後、相手のカードの枚数×400ポイントのダメージを与える! テメエがせせこましくレディを集めて出した1200よりも上回る、1600のダメージ。
さあさあ、たった一発でお返しだ!」
宙眷友春 LP2400
「ぐおおおお……!!」
「更に、ブレイズマンの効果発動。デッキから『融合』を手札に加える」
「クソが!! だったらテメエも喰らいやがれ!! リバースカードオープン。『火霊術ー「紅」』。
攻撃表示のレディ・オブ・ファイアを生贄に、テメエに1300のダメージだァ!!」
「ひっ……!!」
「大丈夫だ、美月。実のところこのダメージエフェクトな……ドライビングで完全に無力化出来る」
「ふぇ……??」
遊城遊覧 LP1500
バイクのリアクションに備えて両腕と膀胱を締める美月。しかし、備えていた衝撃波まるで来ない。
「フィール・パニッシュ。とか誰かに言われた気がする。気のせいだったのかもなあ……フィールって何だよ。
っと、ブレイズマンの効果を処理。デッキから二枚目の『置換融合』を手札に加える」
「二枚目の融合も『置換融合』だと!? ふざけてんのかテメエ!!」
「生憎真剣なんだコレが。
俺、『融合』のカードを使えねえんだよ。サーチ札増やしても引けねえ。かと思えば、絶対に融合出来ない場面で『融合』を引いたりな。
んで、ついたあだ名が『歴史ある大家の面汚しの面汚し』『先祖に顔向け出来ぬ落ちこぼれの中の更に劣等種』『切り捨てるべき汚点』ってわけだ」
「…………その罵倒……昔、どっかで……」
「そんな俺が紆余曲折あって使えたのがこの『置換融合』ってわけだ。24時間テ●ビのマラソンの如く安いお涙頂戴話。分かりやすいですか?
さあ『置換融合』発動だ! クレイガードマンとブレイズマンを融合。
『
「な、何だそのE・HEROは!? そんなHEROモンスター見たことねえ……ってか、どれだ!? どれが本体だ!?」
「もちろん
「多分って何だよテメェの召喚したモンスターだろ!!」
「知るかよ!! 何か知らねえけど、昔生えてきたから使ってんだよ!! 文句あんのかコラァ!!」
「ゆ、ゆうくん……もう、ほんとにぃ…………」
「--っと、そうだった。さっさと決めるぜ!
魔法カード『ヒーローハート』。
E・HERO1体を攻撃力を半分にして、2回攻撃出来るようにする。
バトルフェイズ。
遊城遊覧 LP1450
「バカが、フェニックスガイは戦闘で破壊されねえ上に守備表示だぜ? 涙を誘ってしょーがねえなぁ!
可哀想だから、オレが次のターンでこのデュエル決めてやるよ!!」
「そいつは素敵な将来の夢だ。不可能っつーとこが涙を誘うぜ。
「なんだとォ!?」
「フェニックスガイの攻撃力は2100。そのままブチ込んでやるよ!」
宙眷友春 LP300
「さーて、せっかくヒーローハートで二回攻撃出来るんだ。
可哀想だから、俺が
「そんなバカな……!!」
「さあ、ゲームオーバーだ!
「
ガッチャ、俺だけ愉しいデュエルだったぜ……同類」
「ぎいやあああああああああああああああああああああああああああああーーー!!!!!」
宙眷友春 LP0
ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーン!!!!!
宙眷友春のライフがゼロとなり、バイクが爆発四散。爆風に吹っ飛ばされて地面に転がり髪型がアフロになった。
「え!? え!? 何これ!? 何が起こったの!?!?!?」
「ああ、言ってなかったか? このバイク、デュエルに負けると大爆発起こして木っ端みじんになって風に攫われて行くんだよ。
エコだな」
「エコって、そういう問題じゃないでしょ!? あの人大丈夫なの!?!?」
「大丈夫だって。ほら、見てみろよ。頭アフロになってるだろ」
「そういう問題なの!?」
「そーゆー問題なの。
さて、アイツは後から来るパトカーに任せて、さっさとどっかコンビニでも見つけようぜ? ま、漏らしたとしても、俺の愛は変わんねえからよ。美月」
こうして、爆発的な勝利を収めた遊覧はバイクの速度を道交法に合わせて減速。爽やかに走り去って行く。
なお、あまりにも怖すぎたのか。また道中でへちょへちょ叩かれるのだった……。
このあと、先十数キロにわたってコンビニが存在しないと判明した数分後。母なる海へブチ込まれた美月は、無事に乙女の尊厳を誤魔化せたことにした。
「うぅ……ふぇぇええええ…………」
「フッ……あんなに情けなく泣いて。たまんねえ……」