とんでもスキルが超とんでもスキルになった件 作:リーグロード
ある日、勇者召喚に巻き込まれた普通のサラリーマン、ムコーダは、ハズレだと思われたネットスーパーのスキルを駆使し、伝説の魔獣フェンリルや特別なスライム、珍しいピクシードラゴンを従えて旅を続けていた。
更には、ネットスーパーの商品をお供えすることで神々の加護も与えられ、行く先々でとんでもな騒ぎを起こしながら、気ままな異世界ライフを堪能していた。
そんなムコーダのネットスーパーにとある変化が起きることになる。
「ん?なんだこれ?」
旅の途中で見つけたダンジョンに、フェルの提案で挑むことになった。もちろん、小市民のムコーダは反対したが、スイちゃんとドラちゃんまで乗り気だったため、そのまま強引にダンジョンへ連れて行かれてしまう。
ダンジョン内には強力な魔物がひしめいていたが、ムコーダ一行のチート級の従魔たちの前では、無双ゲームの雑魚敵同然に蹴散らされていった。
その途中、フェルに無理やりレベル上げのため魔物と戦わされ、ビクビクしながらも加護のおかげであっさり魔物を倒してレベルアップしたムコーダのネットスーパーに異変が起こった。
「グルメスーパー?」
鑑定で自分のステータスを確認していたムコーダは、いつも便利に使っていたネットスーパーのスキル名が変更されていたのに気がつく。
「どうしたのだ?」
「ああ、いや……。俺のスキルのネットスーパーがおかしくなっちゃってさ?」
「ええ!?もしかして、異世界の食い物とか、もう召喚出来なくなっちまったのか!!?」
新しいスキルに戸惑っている俺を見たフェルが、何かあったのかと声をかけてきた。そこで、自分のスキルであるネットスーパーに異変が起きたことを話すと、近くでそれを聞いていたドラちゃんが慌てて俺の肩をつかんできた。
「いや、スキル名が変わっただけだと思うし、多分召喚はできると思うけど……。なあ、フェル?今までにスキル名が変わることってあったか?」
「う~む、我もそんな話は聞いたことがないが、とりあえずそのスキルが使えるかどうか試してみてはどうだ?」
確かに、今ここであれこれ考えてもしょうがないし、俺はいつも通りネットスーパーを使う感覚でグルメスーパーというのを使用してみる。
すると、いつも通り、ネットスーパーみたく目の前に明るい画面が目の前に表示──!!?
「ん?どうしたのだ、まさか本当に使えんなどということは!?」
「いや、そうじゃなくて──」
俺の目の前に表示されたのはネットスーパーのサイトとほぼそっくりだった。違いがあるとすれば……。
「チェリンゴ?ソーダスイカ?生干し柿?ダジャレみたいな食材ばっかが表示されてるけど、これってもしかして……」
子供がふざけてつけたような名前の食材がずらりと並んでいるのを見た瞬間、俺の背筋にピンと緊張が走った。
(これって、ひょっとしてあの漫画に出てきた食材じゃないか?)
サラリーマン時代、ひとり寂しく晩酌しながら見ていたグルメ系アニメに、似たような食材が登場していたのを思い出す。
ジャンプで連載されていた、グルメ×バトルというちょっと変わったバトル漫画で、出てくる食材はどれも現実離れしたものばかり。今目にしている食材のように、ダジャレっぽいおかしな名前の食材も多かった。
それになにより、その味もそうだが、主人公たちが食った飯のなかには、現実ではありえない効能を持つ食材が多く存在し、ただでさえ異世界の食材はバフ効果が高いというのに、漫画通りのバフが乗ってしまえば、ウチの食いしん坊たちの戦闘力がどれだけヤバいことになるか想像するに容易い。
「ここは見なかった方向で……」
「おい、貴様。もしや何か美味い飯を隠そうとはしておらぬか?」
「なんだってぇ!?」
くっ!こういう時のフェルの勘の良さ……いや、鼻の良さは誤魔化せないからな。
「いや、隠そうとか、そういうんじゃなくて。俺もよく知らない物だから、ここは慎重にだな……」
「そこまで慎重にならずとも、ひとまず召喚してみせたらどうだ。幸い、今回のダンジョンで狩った獲物を次の街で売れば高値が付くだろうし、そこまでの痛手にはならんはずだが?」
ちっ!普段は飯か戦いぐらいしか興味のないフェルが、珍しくまともなことを言いやがって。
「いや、でもさ……」
「おい、早くしろよ!俺は腹が減ってんだからよ!」
「スイもー」
ドラちゃんとスイちゃんから急かされてしまい、俺は仕方なくグルメスーパーで見つけた手頃な価格で買える食材をいくつか召喚してみることにした。
すると、目の前には今までに見たことのないダンボールに包まれた食材が現れる。
「いつものネットスーパーじゃなくて、グルメスーパーだから、梱包されるダンボールも違うのか?」
「おい!そんなことはどうでもいいから、早くその箱を開けて中の飯を食わせろ!!」
「クンクン!すっげぇ~いい匂いがするぜ。今までの飯も美味そうだったけど、これは今までのより絶対に美味いやつだって!」
「スイも、スイも!はやくたべたい!!」
フェル、ドラちゃん、スイちゃんの食いしん坊三銃士が、ダンボールに群がって「早く飯を出せ!」と騒ぎ立てる。俺は3匹に急かされるまま、せっせとダンボールを開けていった。
すると、確かにドラちゃんの言う通り、これまでネットスーパーで惣菜を注文したことは何度もあったが、そのどれよりも食欲をそそる香りが鼻孔を直撃した。
「じゅるり──」
誰の涎の音だったのか──あるいは、全員の涎の音だったのかすら分からないほど、俺たちは目の前の飯に夢中になっていた。
今回俺が注文した食材は、ベーコンの葉、バナナきゅうり、マシュマロカボチャ、そしてブロッコツリーだ。野菜ばかりなのは、サイトの上部に「一部の食材は、解体済みではなく生きたまま召喚される」という注意書きがあったので、今回は見送ったからだ。
まあ、うちの食いしん坊三銃士なら、多少捕獲レベルが高い猛獣でも倒せそうだけど、漫画の世界に出てくるような猛獣を倒しても、ギルドで解体依頼を出すときに「どこで倒したのか?」って聞かれるのが面倒なんだよな。
「う~ん、ベーコンの葉は加熱調理する必要がありそうだけれど、それ以外はそのまま生でも食えそうだし、これを焼いてる間にみんなで食べてていいよ」
「「「うおおおおぉぉぉ!!!」」」
俺が食べていいの許可を出すと、野菜嫌いのフェルも、俺が召喚した食材を我先にとばかりに食いだす。
「「「…………」」」
「あれ、どうした?お~い!」
いつもならば、飯を食えば食レポをしてくるみんなが、食べた瞬間に動きを止めて微動だにしない。
俺はガスコンロを用意する手を止めて心配になり、3匹の顔を覗き込むと……。
「「「うっ……」」」
「う?」
「「「うっまぁ~いぃぃ!!!」」」
「おわっ!?」
突然、みんなが一斉に顔を上げ、まるで叫ぶように感想を口にした。
あまりの勢いに、俺は思わずのけぞってしまった。
「なんなのだこれは!?本当に野菜なのか?」
「歯ごたえがあって、旨味がすげえぜ!!」
「このお野菜、すんごく美味しくて甘味がすごいんだよ、あるじ~♡」
どうやら、食材があまりにも美味しすぎて、ただ固まっていただけらしい。
それにしても、これまで数々の美味いものを食べてきたこいつらが固まるほどの美味さとは……。俺も味は気になるが、それ以上に、今回召喚したのは漫画でメインを張らない脇役のような食材ばかりだ。
もしも、メイン食材とかを召喚した暁には、今後はもうそれしか食わないみたいな展開にならないだろうか?
「おっと、そうだ。おい、みんなちょっと動かないでくれよ」
グルメスーパーの食材を食った際のバフがどんなものか、鑑定して確かめねば。
【 名 前 】 フェル
【 年 齢 】 1014
【 種 族 】 フェンリル
【 レベル 】 906
【 体 力 】 9843(+9118)
【 魔 力 】 9481(+9550)
【 攻撃力 】 9036(+9518)
【 防御力 】 9765(+9394)
【 俊敏性 】 9684(+9551)
【 スキル 】 風魔法 火魔法 水魔法 土魔法 氷魔法 雷魔法
神聖魔法 結界魔法 爪斬撃 身体強化 物理攻撃耐性
魔法攻撃耐性 魔力消費軽減 鑑定
【 加 護 】 風の女神ニンリルの加護
「ぶっふぉおおっっ!!!?」
なんつう上がり方だ!?以前の国産和牛ステーキの倍ぐらいステータスがアップしてやがる。
もしこれでメイン食材を食っちまった日には、世界最強とか簡単になれるんじゃないか?
スイちゃんやドラちゃんのステータスは……。いや、止めとこう。これ以上、俺の胃に負担を掛けたくない。
俺は大人しくガスコンロの火を点火して、ベーコンの葉を焼き始める。
フライパンの表面に油をひいて、ベーコンの葉を炒めていくと、ベーコンの香ばしい香りが辺り一面に充満し、さらに食欲をそそる。
そして、ある程度火が通ったら、火を止めて皿に盛り付ける。最後に塩コショウで味を整えて完成だ。
「さあ、出来──おわっ!?」
人数分のベーコンの葉を焼いて持って行こうとしたら、俺の後ろでみんなが涎を垂らして待ち構えていた。
それに驚きつつも、俺は苦笑してみんなの前に焼いたベーコンの葉を盛りつけた皿を置く。
すると、みんなは一斉にベーコンの葉を貪り食いだした。
「それじゃ、俺もさっそく食うとしますか」
ナイフを入れた瞬間、思っていたよりずっとスッと刃が通り、あっさりと一口大に切り分けられた。
そのときに飛び跳ねた肉汁?が、またなんとも香ばしい香りを漂わせる。
自然と口に溢れた涎を飲み込みながら、切り分けた一口サイズのベーコンの葉を口に入れる。
「──っ!!?」
葉というからには植物であるはずなのに、その食感と味はまさしく肉であると同時に、今まで食べてきたあらゆるベーコンを置き去りにするような旨味。
そのあまりの衝撃に、俺は目を見開き固まったまま動けなくなった。
「こりゃみんなが絶賛するわけだ。……というか、これでこの美味さって、もしジュエルミートとか食ったらどうなるんだ?」
油断していた……というか、あまりの美味しさにちょっと正気を失っていたのかもしれない。
俺の何気ない独り言をフェルの耳が聞き逃すはずもなく、ピクピクと耳を動かしたフェルが物凄い勢いで俺に迫ってきた。
「おい、そのジュエルミートとかいうのはそれほど美味いのか?」
「げっ、聞こえてたのか!?」
「おいおい、これよりももっと美味いものがあるのかよ!!」
「スイ、それ食べた~い!!」
あまりにも迂闊過ぎる独り言で、食いしん坊三銃士の興味を引いてしまった。
俺は慌ててジュエルミートの召喚をやめようと提案するも、俺なんかの説得など聞くはずもなく、3匹に急かされるまま、俺はグルメスーパーでジュエルミートを探すことになった。
「え~っと、ジュエルミート……ジュエルミート……。あった!って、うぇぇぇぇ!!?」
ジュエルミートを見つけたのだったが、その表示される金額が豪邸ぐらい買える程バカ高かった。
いや、買えるといえば買えるのだが、正直これは予想外……いや、あの世界、何気に金額とかもインフレしていたような?
なんにせよ、これはまた別の意味で気軽にポチッていい代物ではなくなった。
「ちょっとこれは買えそうにないな。予想以上に高すぎる」
「それはどのくらいだ?」
「う〜ん、ざっと国産松坂牛が百枚以上買える値段かな」
「ふむ、そうか。よし、聞いたなお前達」
なんか嫌な予感を感じつつも、フェルの視線の先を見つめると、そこにはやる気満々のスイちゃんとドラちゃんがいた。
多分、美味い物を食いたいってのもそうだろうけれども、さっきのグルメスーパーで召喚した食材を食べて活力が漲っているのだろう。
以前に国産松坂牛を食べたフェルがそうだったからな。
「あ〜、張り切るのはいいが、くれぐれも無茶はしないように……ってのは、みんなには余計なお世話かな」
俺は仕方なしに狩りを許可した。すると、まるでボールを追いかける犬のように、全員がダンジョンの奥へ駆けていった。
いや、許可は出したけど、誰か一人くらいは護衛として残ってくれてもいいだろうに。
「まっ、結界もあるし。なにより、俺もあの飯を食べて元気もりもりだからな。いつにも増してこう力が溢れてくるというか」
まるでメテオガーリックを食べて自信満々になった小松のような気分のまま、俺も一人でダンジョンの奥へと潜っていった。
しばらくすると、大量の魔物の死骸を引きずりながら3匹が戻ってきた。死んでもなお存在感を放つ魔物の死体に、普段なら内心ビビっていたはずだが、活力がいつも以上にみなぎっている俺は、平然とギルドに持っていけば金貨何枚になるかを計算し始めた。
それと同時に、きっと持てるだけ持ってきただけで、まだダンジョンには他の死骸が残っているんだろうなと頭をかきつつ、とりあえずフェルたちが運んできた魔物の死体をアイテムボックスへ収めた。
そのまま進んでいくと、あちこちにみんなが仕留めたであろう魔物の死体が転がっていた。
しかも、お金に還ることを意識してか、いつも以上に綺麗な死体に、俺は内心で死んでいった魔物たちに手を合わせる。
「これで何体目だ?正直、これをギルドに持っていくと面倒な出来事が起こる予感が……」
「だが、これでお主の言っていたジュエルミートなる美味い肉が買えるのであろう?」
「まあ、そうなんだろうけれども……」
厄介事の予感を抱えつつ、俺は黙々とダンジョンの奥へと続く魔物の死体を拾い集めていった。
そうして何十体もの魔物をアイテムボックスに収め終えた頃、気がつけばダンジョン最奥のボスエリアに辿り着いていた。
「さて、こっからボス戦の始まりなワケだけども……」
ボス部屋に入るやいなや、凶悪そうな獅子のようなモンスターがこちらを見つけ、吠えながら襲いかかってきたが、フェルとドラちゃんの魔法、そして最後にスイの一撃であっという間に倒された。あまりにもあっけない結末に、俺はそっと手を合わせて黙祷を捧げた。
やがて倒されたボスモンスターは消え、残されたのは虹色に輝く丸い水晶のようなドロップアイテムだった。
「これ、売ったらいくらの値になるんだ?」
「そんなもの、実際に売って確かめればよいではないか。今の我らを軽んじて足元を見ようとする輩はそうはいまい」
いや、確かにそうなんだけれどもさ。俺が心配しているのは、これを売った場合、また大事になるんじゃないかっていうことなんだが……。
まあ、いつものことなんだろうけどもさ。
「それじゃ、売るだけ売ってみますか。俺もジュエルミートは一度は食ってみたかったし、金は稼げるだけ稼いどかないとな」
「「「おおお──ー!!」」」
未知の美食に期待の声を上げる食いしん坊三銃士を横目に密かに垂れた涎を拭って次の街を目指す。