ストマック家長男(in転生者)の胃痛な日々 作:セロ弾きのゴーシュ
息抜きとして、仮面ライダーシリーズの中で最も好きなヴィラン、ストマック家を題材に小説を書きました。
もしよろしければ、感想や評価などしていただけますと幸いです。
この世界には、グラニュートという種族が霊長として君臨している。
人間が住む世界とは異なる世界に生き、弱肉強食を是とする価値観の元で文明を築いた者たち。
人間と同等の知性を持ちながら人間を凌駕する肉体性能を有する上に、腹部に付いたもう一つの口"ガヴ"で"眷属"と呼ばれる生物と共生することで人間以上の器用さを獲得した、ある意味上位種とも言える存在。
その世界の都市部の一角に、今の私が暮らす家であり、経営を行う会社がある。
人間界で言うゴシック様式に近い豪奢な建造物と広い敷地は、それだけで家主の世界における格を示していると言えるだろう。
その実態は、マフィアも裸足で逃げる典型的悪徳会社なのだが。
社名であり家名でもあるその名は、ストマック。
元々は製菓会社から端を発した我が社は、今では裏である新事業を立ち上げるに至っている。
言葉を選ばずに言えば、麻薬に近しいものだ。
祖父ゾンブ・ストマックが発見したという、グラニュート界と人間界を繋ぐ扉。
祖父は多様性豊かな人間界の菓子に目を向けることもなく、人間から抽出される幸福に目を付けた。
そして当時技術部門の開発者だった弟のデンテ・ストマックと共に、"闇菓子"という強力な依存性を有する商品を開発するに至った。
そんなものを開発した悪人が考えることは、大体相場が決まっているもの。
ストマック社は表では健全な製菓会社を継続したまま、裏では闇菓子の流通による社会の掌握を進めるようになった。
惚れ惚れするほどのヴィランムーブ、当事者でなければ一刻も早い滅亡を願っただろう。
そんな自他ともに認める悪の結社たるストマック社、その会議室。
各式めいた長机に配置された椅子に座る私を囲むように、四人の美男美女が顔を揃えている。
ストマック社を共に経営する部下であり、今の私の妹弟たちだ。
「兄さん!この前に見せたバイトたちにやる気を出させるための企画。直してきたからちょっと読んでよ!」
「ジープと一緒に、兄さんのアドバイスを参考に作り直した。今度こそ採用間違いなしだ」
企画書を私の眼前に差し出しながら、フンスフンスという鼻息が聞こえそうなほど自信満々な二人。
互いに服装を交換したような、所謂異性装が妙に似合った彼彼女は、シータ・ストマックとジープ・ストマック。
ストマック社における仕入れ担当、流通の要となる部門を任されている。
…おっかしいな。
君らって、こんなに勤労精神と愛社精神に溢れた子じゃ無かったよね?
一族経営に甘えきって、尻に火がつきだしてようやく働き出した自堕落な奴だったよね?
脳内でハテナマークを乱舞させながら企画書を手に取ろうとすると、間に華奢な手が突っ込まれる。
手の細さと反比例するような力強さにより発生した風を浴びながら、下手人である美女へ目を向けた。
「グロッタ、危ないだろう」
「アタシとの鍛錬の約束、忘れたとは言わせないわよ。前は外回りだとか言って直前ですっぽかしてんですもの、今日は当然守ってくれるのよね?」
兄相手とは思えない威圧感を纏いながら約束を持ち出してきたのは、グロッタ・ストマック。
ストマック社の製造担当、ついでに言えば粛清担当という物騒な役目も遂行する武闘派である。
君はあんまり変わらなくて安心するよ、本当に。
でも暴力姉っぷりが全開なのは、普通に怖い。
その対象が兄である私限定らしい辺り、やっぱり知ってる彼女とは違うのだが。
というか、そんな約束してたっけ…いやしてたわ、ウッカリしてたわ。
やっちゃったものは仕方ない、これは私が悪い。
「すまないな、予定を被せてしまったようだ」
こういう時に誤魔化しをしようとしても、碌な事にはならない。
素直に頭を下げれば、グロッタは怒りを一旦収めてくれたようで。
私のミスに反応したのは、つい先ほど話の腰を折られたシータ。
だが私を糾弾するものではなく、心配げな表情を隠さない。
「兄さんが予定をブッキングさせるなんて珍しいな。疲れてるんじゃないか?」
実際ストマック社の一員として働き始めて、疲労が抜けた日はない。
故に家族からの労りは、精神的にはありがたい。
私が知ってる君はそんな殊勝な奴ではなかった、という疑問による心労を除けばだが。
「いや、至って健康体だ。こちらのケアレスミスだから、気にするな。…三人が揃った理由は分かった。だが、お前はなんの用だ」
最後に私が目を向けたのは、眼鏡の蔓を指で押し上げている怪しい風体の狐顔。
名前はニエルブ・ストマック、ストマック社における当代の開発者であり、恐らく兄妹一アブない男だ。
ニエルブは「酷いこと言うな、兄さん」と大して気にもしてなさげに受け流すと、シータらと同様に書類を差し出してくる。
チラリと間から覗く紙面には、細かい数値やグラフがビッシリと書き込まれていた。
「兄さんが紹介してくれた酸賀さんの研究に、僕も刺激を受けてね。面白い成果が出せそうだから、早速中間報告に来たんだ」
知的好奇心が擬人化したようなワクワクを前面に押し出した様から、この研究が相当楽しいものなのだろうということが察せられる。
社員が楽しんで仕事をできるのならば、それに越したことはない。
ただ君の有能研究者っぷりが、私のストレスを加速させてしまう。
お前が一番誰なんだ案件だよ、本当に。
私が知ってる君は、報連相の概念なんてカケラも知らないマッドサイエンティストだったはずだぞ?
中間報告なんて会社勤め研究者らしいこと、君ができるなんて知りもしなかったんだが。
なんてことを言っても仕方ないので、とりあえず二つの書類を受け取って目を通す。
バイトへの施策は、人間集めのアイデアを闇菓子を報酬に提出させて、優秀な案は共有して全体の底上げを図る…中々試す価値はあるんじゃないか?
研究の中間報告は…これは"ヒトプレス"の原案っぽいな、この時期にできるのか。
「いいだろう、どちらも我が社にとって有益だと判断した。私から父…社長には説明するから、好きに進めるといい」
私からの解答に、手を合わせて喜色満面といった具合のジープ。
そのままシータへと抱きつき、体全体で喜びを表現をしている。
一方のシータも、弟の手前余裕を崩すまいとはしているが、口角は無意識に上がっていた。
両者ともに仕事で達成感を覚えてくれるのは、実に健全でよろしいことである。
事業自体が不健全極まりない事は、一旦脇に置いておこう。
「っ…やった!一緒にいっぱい考えた甲斐があったわ、姉さん!」
「ふっ、俺たちが力を合わせたんだから、当然だ!」
「言うまでもないが、逐一報告は忘れるなよ?」
そのまま全速力で会議室から退室していく二人へ忠告し、ニエルブへも声をかけようと…いない。
どうやら許可をとった時点で真っ先に自室兼研究室に引っ込んだようだ、相変わらずの研究狂である。
ようやくチェックすべき書類を捌き終わり、待ちぼうけを喰らっていたグロッタへと向き直る。
大分待たされて怒りがぶり返してはいないか戦々恐々としていたが、別にそんなことはなかったようだ。
むしろ、機嫌自体は先程より上向きになっているように見える。
ああ、なるほど。
「シータとジープが分かりやすい成果をあげそうなのが、そんなに嬉しいか?」
「…まぁ、少しはね。ストマック家の一員として、あの子たちもそれなりに育ってきたんじゃない?」
などと言いつつも、その美貌にはどこか誇らしげな色が乗っている。
家族思いな面は私が知る彼女も持っていた要素であるため、別に不思議ではない。
発露の仕方がかなり分かりやすくなっているという差異はあるが、人は未知だらけの場で既知を発見すると安心するものだ。
だが、そんな安心は、グロッタが立ち上らせ始めた凄まじい闘気によって儚くも霧散する。
己の得物である死神が如き大鎌を取り出して臨戦体勢を取った姿からは、とてもではないが鍛錬だけで終わるようには見えなかった。
「____で、もう仕事は片付いたんでしょ。なら、今度はアタシの用に付き合ってもらうわよ?」
…精神的にな疲労に加えて、次は肉体的な疲労が溜まりそうだ。
この慢性的な倦怠感や肩こりが治るのは、一体いつになるのやら。
まだ肉体的には若者に分類されるのだろうが、そう嘆かずにはいられない。
それでも、私は得物である大剣を抜き放ち、余裕を装って迎え撃つ。
ストマック家において、最もグラニュート界の規範に忠実なグロッタの向上心を、よりによって私が無碍にする訳にはいかないだろう。
何せ今の私は、ストマック家長男にして次期社長、ランゴ・ストマック。
弱肉強食を第一義とするグラニュートの世界で長になる者として、弱さは見せられない。
そうでなければ、部下を、何より家族を安心させられないのだから。
「…ああ、そうだな。全力で来い、グロッタ」
たとえ、その家族を、ストマック家という共同体を、将来的に壊滅させるつもりであったとしても。
今だけは、私は彼らの長男として在りたかった。
◯ランゴ・ストマック(in転生者)
ヴィランという破滅確定存在に転生
機能不全家庭ストマック家で色々と頑張った結果、兄と父と母を兼任する訳のわからない存在になった
将来的に、ストマック家を主人公であるショウマ・ストマックの成長素材として潰し切るつもりでいる