マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:あまぐりムリーパー

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マスター、このままだとセミアポカリプスが起こっちゃいますよ~

 微かに涼しい風が、開けた窓から店内に通っていく。

 

 夏も過ぎていって、少しだけ涼しくなってきた。

 

 じじじじ、とうるさかった蝉も、すっかり聞かなくなったな。

 

 この喫茶店に来るまでのところで設置されているメス堕ちキャンセラーは、ずっとじじじじ言っているので、あれでもセミを思い出すが。

 

「ゴッドモーニングですよっ」

 

 軽快な声が、鼓膜を震わす。喫茶店のユニフォームをすでに着用したナギが、カウンター席で楽しそうに鼻唄を歌っている。

 

 普段、休みの日のバイトは昼から来ることが多いからこうやって、朝からナギを見るのも珍しい。

 

 にしても、ゴッドモーニングは普通に挨拶としてずっと使うのか。なんなんだ、それは。

 

 この店だと、飲み物を出すことが多いから食べ物を出すのも久々だな。

 

 というか、朝に客が来ることも少ないから、モーニングを出すこともあんまりないな。

 

 そう思いながら、トーストと茹で卵。それから、ハムを皿に添えてコーヒーと一緒にナギの前に出した。

 

「わーい、マスターの手料理だ」

「他の喫茶店でも同じになるぞ、それ」

「え、他の喫茶店のモーニング食べたら、その人の手料理ってことに?じゃあ、マスターに普通に手料理作ってほしいです」

「図々しいぞ」

「てへへ」

 

 ちろっと、舌を出す。こいつ。

 

 ぱくり、とトーストを口を運ぶと頬を綻ばせる。ずずず、とコーヒーを飲んだ後に、眉を少し下げて、べっと舌を出した。

 

 にしても、美味しそうに食べるな。コーヒーは熱かったみたいだが。

 

 ゴッドモーニングだかなんだか知らないが、ナギが満足してそうならいいか。

 

 ――からんからん、と不意に扉が開く音がする。

 

「よっ、マスター」

 

 片手を挙げて、にやりと笑う。

 

「あおちゃん?」

「ん?珍し、ナギもいんじゃん」

 

 今日はアオイも来たか。たまに朝に来るんだよな、こいつ。とはいっても、大概休日だけだが。

 

「ふーん、あおちゃん来たってことはそういうこと?」

 

 と、何か言いたげにナギがアオイに視線を向ける。それに対して、別にアオイは何も言うことなく。ふん、と鼻を鳴らして席に座った。そのまま、足を組んでメニューに視線を落とす。

 

 何、その含みのあるやり取り。ナギはなんか知ってるのかもしれないな。

 

「あっ、そうだ。あおちゃん。ゴッドモ~」

「ゴッドモニ~」

 

 略称まであるのかよ。ってか、ナギが勝手に言ってる挨拶とかではなかったんだな。いや、おまじないだっけ?まあ、いいか。

 

 なぜかモーニングを食べてるせいで注文を受けないバイトの代わりに、アオイの注文を受けて。そのまま、ナギと同じモーニングを差し出した。

 

「モーニング、うまっ」

 

 ぱくぱく、と元気にモーニングを平らげて、ぽつりと溢した。

 

「ねえ、マスター。これ、マスターが作ってんだよね?」

「そりゃそうだろ」

「ははは、他に人いないもんね」

「っていうか、そんな難しいもの作ってないぞ」

 

 トーストとハム焼いて、卵茹でてるだけだし。

 

「んでも、他のメニューもあんでしょ?そういうのも作ってんだよね?この前食った、パスタとか色々美味かったけど」

「まあ、そうだな」

 

 そういえば、アオイは比較的割と食べてたよな。実はこの喫茶店で、何かを一番食べてるのはこいつなんじゃないのか?

 

「じゃあさ、その。料理とかってできるってことなんだよね?」

 

 何か言いにくそうに、アオイは目を伏せた。何を恥ずかしがってんだか。

 

「そうだな」

「じゃ、じゃあさ。その、まあいいや……」

 

 瞳を左右に泳がせて、意を決して何か言おうとしてから、そのまま別に言うこともなく。残りのコーヒーを飲んでいく。

 苦かったのか、砂糖を追加で足してる。

 

 頼み事でもあるんだろうか。何か言いたそうだし、後で聞いとこう。

 

「えっ、あおちゃんそんな食べてたんですか?」

「そうだけど、それが何?」

「……私、あんま食べてないのに」

「ナギは店員だからそんなもんでしょ。ってか、今食べてるじゃん」

「そうですけど……」

 

 何か不満そうに頬を膨らませてから、勢いよくモーニングの残りを口に頬張っていく。

 

「そんながっつかなくても、別にモーニングは逃げないぞ」

「でも昼になったらもうモーニングじゃないですしっ!」

 

 確かに、じゃあモーニングは逃げるか。逃げてるのか??

 

「にしても、朝にあたしとナギがいるだけで、割と賑やかだねここ」

 

 まあ、普段は朝も静かだからな。ああでも、最近は上の階の催眠アプリ会社の人が来ることもあるんだよな。

 この前聞いたけど、ナギみたいに不意に催眠が揺らぐようなこともたまにはあるらしい。

 

「確かに。でも、二人で賑やかって、普段人がいなさすぎるってことじゃないですか。マスター、このままだと――」

 

 このノリで来るの?

 さて、今日はどんなものが来るかな。

 

 逆に楽しみになってきた気がする。

 

「――セミアポカリプスが起きちゃいますよ~」

「……なんだ?それ」

 

 極めて普通にしようと思ったけど、普通に無理だわ。なにそれ?

 

 なんだよ、セミアポカリプス。セミで滅ぶのか?

 

 ちらり、とアオイの方を見る。まさかの無反応。え、もしかして慣れてる?

 

「セミファイナルってあるじゃないですか。死んだと思っていたセミが急に動き出すやつ」

「ああ、そうだな。あれ、びっくりするよな」

「でも、その上を行くのがセミアポカリプスなんです!」

「通販サイトのノリみたいに言われても」

 

 なんだっけ、脚が開いているかどうかで決まるんだっけ?

 もはや、近づいてすらいないけど。うるさいの、普通にびびるし。

 

「まず、でかいセミがいるじゃないですか」

「でかいセミ?」

「それが倒れてるんですけどね、それが急にセミファイナルするわけですよ。その時に、なんとですね。他のセミと共鳴して増幅させていくんですよね。それがうるさいので、ファイナルどころじゃないよねーってやつです」

 

 そもそも、でかいセミってなんだよ。しかも、共鳴するし。

 

 セミファイナルの共鳴ってなんだ?

 

 少なくとも、めちゃくちゃうるさいんだろうな。

 

「そもそも、なんで起きるんだ?それが」

「でかいセミが出たからですよ」

「だからなんだよ、でかいセミって」

「そりゃ、セミがでかいんですって。そうじゃないと、セミアポカリプスが起きないじゃないですか」

 

 そのままのノリでゴリ押して来るのか??

 

 いやでも、まあ。元からこんな感じか。

 

「セミアポカリプスってなんかで聞いたなーって思ったけど、TS.NETに書いてたやつか」

 

 さらっと、アオイがさらに気になることを言ってる。変なサイトの話でもしてる?

 

 そもそも、ファイナルの上はアポカリプスじゃなくないか。そんな細かいことを気にするものじゃないかもしれないけど。

 

「で、このままだとってのもよくわからないんだが」

「だから、放っておくとセミアポカリプスで大変ですねーって」

「そりゃ、うるさそうだしな」

「下手すると世界が半壊するかもしれませんし」

「そんなレベルなのか??」

「セミって半分みたいな意味あるじゃないですか。だから、セミアポカリプスで世界の半壊的な」

 

 もう、どこまで本気かよくわかんないな。なんとなく、頷いておく。

 

 アオイがコーヒーを飲み終えて、スマホに指を滑らせている。

 

「ん、セミアポカリプスねー。まあ、なんとかするっぽいよ?」

「え、そうなの?じゃあ安心だ」

 

 そんな害虫駆除みたいな。まあ、うるさくなるよりはいいか。

 

「さて、マスター。食べ終わったからちゃんと働きますね?」

「ああ、頼む」

 

 ナギが皿やカップを、自分で持ってきて洗っていく。

 

「セミアポカリプスを口実に近づきたかったのに。何も思い付かなかったなあ……」

 

 ぽつりと、ナギから何かが聞こえてきて。

 

 余計なことを考えてしまいそうなので、無視することにする。

 

「にしても、今日の客はあおちゃんだけですか」

「まだ来るかもしれないだろ」

「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」

「強引だな」

 

 ちなみに、アオイは料理を学びたかったらしく。それを言えそうな知り合いが俺しかいなかったんだとか。

 

 少しぐらいは教えてやってもいいかなと思いつつ、ナギがうるさそうだしな。

 あいつには普通に作ってやるか。




雰囲気からして、ゴッドモーニングはネタとして弱かったかとしょんぼりしている
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