マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
――ちちち
閉め切った喫茶店の中で、コンロをつける音がした。
ガスの匂いが、鼻を掠める。
火が点いて、フライパンに熱を運んでくる。
「うわ、なんかこれこのまま焼いていいん?」
「びびりすぎじゃないか?」
「うっさいな、こういうのしたことないの。悪い?」
チッ、と舌打ちをしながらアオイが、不慣れそうにフライパンを触る。見てて怖いな。
「うわー、いい匂いしますねー」
「そもそも、なんでナギいんの」
「いたらダメ?」
「うざいから」
今日は、喫茶店を閉めきってそこでアオイに料理を教えることになってる。
前々から、アオイに言われてたしな。ナギも拗ねそうだったので、一応連れてきたような形だ。
喫茶店はどうせ、そんな人が来ないから閉めても問題ないだろ。コヨミとかが来たらすまんな。
とはいっても、ナギの友人とかもたまに来るんだけど。ゆーちゃんとみっちゃん、だったか。
「うわ、なんかこれ以上焼くと焦げそうなんだけど!?」
「ああ、もう少しだな。もうちょっとたってから……もういいぞ」
「わ、わかった。よいしょっ!」
いいのか、その掛け声で。なんかすごい強引に皿に盛り付けてるけど意外とやれてるな。
筋がいいんじゃないか?
アオイの作った料理を、口に運ぶ。
「ど、どう?」
体の前で手をこねながら、不安そうにアオイがこちらを見上げてきた。
「悪くないんじゃないか?」
「そ、そっか。ならいいや」
ホッと、安心してアオイが一息吐いたときに――
「私も、もーらいっ」
と、ナギが乱入してくる。ぱくり、と口に含む。口元が少しだけ緩んでる。
「あれ、意外と美味しい」
「意外とってなに?ってか、ナギはあたしの食わないんじゃなかった?」
「別にいいでしょ」
少しだけ、ナギの機嫌が悪い気がするけど。何かあったか?
「っていうか、マスター。私はマスターの手料理が食べたいんですけど」
「ならなんであたしの食べたんだよ」
「私からも、しーくんに美味しかったよって言っておこうかなって」
「しーくん言うな」
「嫉妬かわいー」
「うざ」
何やら、二人がじゃれてるがまあいいか。
どうやら、アオイが手料理を振る舞いたい相手は"しーくん"と言うらしい。そもそも、どういう流れでそんなことをするようになったのかは気になるけど。
まあいいか、ナギになんか作ってやろう。
「ってか、ここ貸し切りみたいになってていいん?」
作り終わった料理を確かめるように、アオイは少しばかりそれを眺めた後、食べ始めた。
ぴくり、とアオイの眉が上がる。そのまま、パクパクと食べる速度が上がる。意外と美味しかったらしい。
「普段、お前以外数人ぐらいしか来ないしな」
「そうやって、お前とか言ってるの直した方がいいでしょ」
はんっ、と鼻を鳴らして最後の一口を食べ終えた。
「でも、マスターはこんな感じだからマスターですし」
「なにそれ」
これは褒められてるんだろうか。まあ、俺の態度のせいでリピーターがいない可能性はあるな。
逆に、今の俺の方がナギは気に入ってるみたいなんだが、それもよくわからないな。
「にしても、閉めきっても大丈夫なお店っていうのもちょっと問題かもですね?」
料理を作ってる様子を、じっとナギが見つめてくる。集中しにくいな。
「問題って言ってもな。客が来ないし」
「あんまり直す気ないじゃないですか。マスター、このままだと――」
このノリで来るのかよ。待って、今料理中だっての。
まあ、内容次第か。
「――ゲーミング因習村が潰れちゃいますよ~」
「なんて?」
さすがに、料理の手を止めそうになった。妨害されてないか?
「ゲーミング因習村ぁ?何言ってんの?」
よかった、アオイもこっちサイドか。
「あおちゃん知らない?呪いとか積み込みすぎて、ぐちゃぐちゃーってなった結果、1680万ぐらいの掟が出たやつ」
「あー、あれか」
ダメだわ、全然こっちサイドじゃない。なんでそっち側になってんだよ。
何、掟が1680万って。盛りすぎだろ。
「一応そのゲーミング因習村が何か聞いてもいいか?」
「え?だから、呪いとかがぐちゃぐちゃーってなって、ありえないほどの量の掟を強要されている因習村ですよ」
「……そうか」
料理の手を止めてるわけにもいかないしな。とりあえず、流しながら聞くか。
「元々、一つの掟があるぐらいの因習村だったんですけどね?年々、強くなっていく周囲の因習村に対抗するため、近場の怪異をひたすら取り込んでいった結果そうなったらしいです」
「なんで周囲に他の因習村があるんだよ」
「因習特区ですからね」
嫌すぎるな、それ。外れの区域じゃん。
そもそも競うなよそんなことで。
「ちなみにこの付近はTS関連のものが多くて、TS特区とか言われてるらしいです」
なんの知識?
「まあともかく。その村は怪異とかを取り込みすぎて、周囲の因習村を圧倒し、すべてを併合した結果、最強の因習村が完成したってわけですね」
「でも、守るものを村の人たちが覚えきれないからそのまま潰れるんでしょ」
「そうそう、あおちゃんよくわかるね」
「いや、誰でもわかるんじゃない?ってか、アホすぎない?」
おお、アオイもその変なワード知ってるサイドなのに。意外と普通の感性を持ってる。
「なんか一度、怪異とか呪いとかが集まってくると、すごい重力が発生してるみたいになって、めっちゃ取り込んじゃうらしいから、途中から回避できなかったらしいよ?」
「ふーん、そうなん」
いらない知識すぎる。そもそも、本当にそんなことになるのか?
呪い界のブラックホールってか。アオイもすごい返事適当だし。
「それで、数多の呪いと怪異を避けるための掟がだいたい1680万ぐらいになって、ゲーミングカラーみたいじゃん、ということでついた名前がゲーミング因習村です」
「強引すぎるだろ」
「あと、祠もそれぐらい輝いてるみたいですよ?」
「ゲーミング因習村祠??」
いけない、ついついツッコミをいれてしまうな。
「ちなみに、そこに来た怪異たちも他の怪異と潰し合いになり、まるで蠱毒のようになって強力な怪異が複数出現したみたいですね」
「いいのか悪いのかわからんな」
「こうして、サテライト口裂け女とかが生まれて世に解き放たれているわけです」
「迷惑すぎるだろ」
というか、そこに繋がるのか。もしかして、今までの怪異はそれ関連だったりするのか?拳がメリィさんとか。
「ここから車で一時間ぐらいでいけるみたいですけどね」
「近いな」
「メス堕ちキャンセラーの副次的な効果で、ここら辺に貼られている結界があるので、この付近は大丈夫みたいですけど」
「もうそっちをメインにしろよ」
かちゃかちゃ、と俺の料理を作ってる横で。アオイが食器を洗い始めた。いつの間にか、こいつはこの話題から抜け出して一人安全圏にいるし。まあいいけどさ。
そろそろできるな。皿に盛り付けて、ナギの前に出す。
「っていうか、そこは呪いとかが多すぎて自滅したってことでいいのか?」
「いや、村人の方々はなんだかんだ全部回避できてたんですけど」
「すごいな」
「ゲーミング祠に必要な双子がどこの家からも生まれなくなったから、それでもう無理になったみたいですね」
ああ、なるほど。祠壊したときとかに不吉なこと言う双子の役か。いや、何もなるほどじゃないけど。
「あそこ潰れたらめっちゃ怪異飛び出してきそうですけどね」
「怖すぎるな」
「だから、潰れちゃいますよ。怖いですね?話です」
思ったよりも深刻なのか?
「セミアポカリプスもなんか、なんとかなったみたいですし。今回も大丈夫じゃないですか?」
まあ、深いこと考えても仕方ないしな。気になったら見に行くか、記念に。
「むっ、やっぱりマスターの料理美味しいですね」
口に含んだ瞬間に頬が緩むもんだから、本当にわかりやすい。
「それはよかった」
「毎朝作ってくれません?」
「図々しいな」
てへ、と舌を出して誤魔化すように笑った。
「ちなみに、そのゲーミング因習村についてまとめたものがなんと、今度の文化祭で発表されます」
「何を発表してんだよ」
「マスターも来ません?」
「気が向いたらな」
「むう」
いい返事をしなかったからなのか、少しだけ不満げにナギは頬を膨らませる。まあ、すぐにパクパク美味そうに食べてその機嫌も直るんだけど。
「でも、文化祭もここ閉めきってたら、お客さん来ないですもんね」
「来ないというか、来れないって感じだな」
「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
いつもの言葉を聞きながら、自分で淹れたコーヒーを飲む。
まあ、機会があれば朝飯ぐらい作ってやってもいいが、毎朝はさすがにな。
「あれ、逆プロポーズでもしてんのか?」
呆れたように、アオイが何かを言った気がしたがうまく聞こえなかったが、まあいいか。
そういえば、この話ってメス堕ちキャンセラーを見に来てるのか、それともマスターとJKの関係なのか、胡乱ワードなのかって気になったけどどれなんでしょうね。
全部か……