マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
とんとん、と机を指でテンポを刻んで叩く音がする。カウンター席に座ってるナギが、暇そうに頬杖をついていた。
夏も過ぎ去って、肌寒くなってきたのでナギにホットコーヒーを出してやる。
コーヒーを飲んで、「あちっ」と舌を空気に晒している。
「犬のおまわりさんの歌あるじゃないですか。あれで、迷子の子猫ちゃんがあの後見かけなくなったとしたら、なんでだと思いますか?」
「急だな」
なんでいきなり、なぞなぞ出されてるんだよ。
迷子の子猫ちゃんがいなくなった理由、か。
「親に見つかった後そのまま引っ越した、とかか?」
「ぶぶー!正解は、困って"仕舞った"からです」
「……それは、片付けたからって意味か?」
「そうですよ?」
「サイコパスなぞなぞ?」
カップに、さらさらと砂糖が入っていく。一回飲んで、冷まそうとした後にいれるものじゃなくないか。
「マスター、文化祭どうでした?」
「まあまあ面白かったな。特にゲーミング祠に詰め込んだ50種類の怪異のせいで残留した穢れを絞り取って、お供え物を作るくだりとか」
「覚えすぎじゃないですか?」
変なものでも見るように、少しだけナギが眉を下げた。
「気になったんだからいいだろ」
「私の話よりもですか?」
「何と張り合ってんだよ」
「あだっ」
よくわからないことで不機嫌そうになっていたので、ナギの額を弾いてやる。
「何するんですかっ」
「変なことでむくれてるからだろ」
「むう」
頬を膨らませた後、ぐるぐるとスプーンでコーヒーを混ぜていく。
そして、そのままゆっくりとカップに口をつけていく。
口を離して、ふーっと軽く息を吐いたときに――からんからん、と扉が開く音がした。
「よっす」
軽く手を挙げて、姫野ミズキがニッと笑って入ってきた。
「みっちゃん」
「ナギ、おひさ……でもないか。どっちかというと、私の方がここ来るの久しぶりだしさーっ」
うーん、と軽く伸びをしてからミズキはカウンター席に座る。
そういえば、こいつのやっていた羅生門喫茶には行かなかったな。……まあ、気になったんだが、ナギに振り回されてその時間もなかったんだよな。
座り込んだ後、ミズキがずいっと顔を近づけてきた。
「カウンターでマスターがいんの見るとさ、久しぶりに来たって感じする」
そのまま、なぜかじっと見てくる。集中しにくいな。
「見てないで、注文選んでくれないか?」
「そうですよ、みっちゃん近すぎ!」
「うるさいなーっ、マスターは別に近づいてもあんま問題ないからなんか楽なんだよ」
不満そうに顔を引っ込めて、メニューを見るために視線を下ろしている。
近づいてもあんま問題ないってなんだ。そういう呪いでも振り撒いてるみたいな話か?
いや、オカルト的に考えすぎか。そんなことばっかりなはずもないしな。
「まー、みっちゃんの言いたいこともわかりますけどね」
ずずず、とカップに口をつけては、ナギは少しだけ顔をしかめた。少し苦かったらしい。砂糖いれてなかったか?
「私たちってどうしても、男としての感覚があるままなので。自然と、距離感とかがおかしくなってしまうんですよ」
そのまま、ことりとカップを置いては憂いを帯びた表情で遠くを眺めている。
「まー、そうなんだよな。だから、こういう話し方とかもちょっとしづらくてさ。女の子っぽくしようとは、すんだけどね」
へへへ、と誤魔化すように笑って、スッとメニューを指差す。
アイスカフェオレか、これ頼むやつ多いな。ミルクとコーヒーを混ぜて、ミズキの前に出していく。
「……距離感間違えると、居場所なくなるとかだりーよな」
ぽつり、と溢してゆっくりとカフェオレをぐいっと飲んだ。
なんか、こいつらも色々あるんだな。まあそうか、TSしてるわけだし。
「みっちゃん、それで一回やらかしてたんだっけ?」
「うん、ガチで考えてなかったからすげー、勘違いされて、知らん女子からバカみたいに詰められた。……私たちってだいたいそうなりそうなもんなのに、アオイとかうまくやってんよな。ナギってどうしたん?」
「あ、催眠アプリ使って自己暗示かけました」
「は??」
ぴたり、とミズキの体が固まる。からん、とカフェオレ内の氷がぶつかった。
よかった、ミズキは普通側か。
「いや、だから催眠アプリだってば」
「……そんなんあんの?」
「あるよ、この上の階にある会社の」
「えっ、そこ!?」
なんか、これこのまま催眠アプリ使いそうだな。いいのか、それは。
いやまあ、悪いことじゃないんだけどさ。
「みっちゃんも使う?」
こてん、と首を傾げてナギが尋ねるとミズキは少し逡巡した末に、首を横に降った。
「今からさ、それで書き換えてもたぶん違和感あるから。うまく行かなさそうだし」
「ふーん、そっか」
「ナギみたいに、女の子やれる自信ないからさー」
「でも、みっちゃんも、ある人に女の子として見てほしいのに?」
「うるさっ」
ああそういや、こいつも好きなやつがいるかもしれないんだっけな。青春してていいな、という気持ちとシンプルに大変そうだなという気持ちに二分されてる。
「でも、残念ですね。催眠アプリはなんと、今月末にセールがあったのに」
有料なんだ。
っていうか、今月末か。
今は10月だからそこら辺の日ってことは。
「へー、ハロウィン辺りなんだ」
「そうだよ。マスター、ここもハロウィンになんかやったりします?」
「別にいいだろ、そこまで客来ないし」
「もー、少しでも来たお客さんをもてなすつもりとかないんですか?マスター、このままだと――」
ああ、いつもの流れか。確かに、お客さんを適当に扱いすぎてるところはあるな。
お店を潰れない風にした方がいいのか、迷うところだけど。
「――キングダムハロウィンが来ちゃいますよ~」
「えっ、何言ってんだ?」
うんうん、ミズキはこっち側だよな。普通に安心する。
「キングダムハロウィンですけど」
「うん、うん?わかんねーって」
「カボチャの王と共に、愉快なオカルト集団がでてくるってわけです。強化版ハロウィン!」
ハロウィンってそんな百鬼夜行みたいなイベントだったか?
「ワイルドハントみたいですよね」
「その例えが出てくることもあんまりなくないか?」
そもそもなんだ、カボチャの王って。地味だろ、普通に。
そんな俺の考えを読み取ったみたいに、ナギが話し始めた。
「カボチャの王、ジャック・王・ランタンが、あの顔のカボチャを頭につけた状態でやってくるんです」
「……そうか」
もう、一度理解を放棄してみた方がいいな。
「ジャック・王・ランタンと一緒に、トリック・オア・トリート・アンド・キングダムするんですよ」
「長くね?毎回それ唱えんの?」
「そうですよ?トリック・オア・トリート・アンド・キングダムしてください」
「長いって」
大変だな、キングダムハロウィン。
というか。
「そもそもなんだけど、普通のハロウィンじゃなくてなんでキングダムハロウィンが来んの?」
「それはね、ジャック・王・ランタンがそういう気分だから」
だいぶ雑な理由だった。一年に一回しかないイベントに乗るかどうかを気分で決めてるってことか?
「……なんか、それぐらいの気まぐれさで生きるのも楽しそうだな」
ぐいっ、とミズキは残ったカフェオレを飲み干した。意外と、窮屈な世界で生きているんだな、ナギは大丈夫だろうか。
「まー、そうですよね。私も結構自由にやってますし」
「そうか」
窮屈じゃないなら、それでいいか。
そう思い、なんとなくナギの方を見ると、不意に視線が合う。
びっくりしたように、ナギが少しだけ目を見開いた後、照れたように頬を赤く染めて視線を逸らした。
……なんかこれ、顔見られてたか?
まあいいか、別に。
「にしても、ここって相変わらず他に客いねーんだな」
ミズキの言葉で、微妙な雰囲気になった空気が流れていく。
「そうなんだよね。マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
こいつらも、みんな強く生きてほしいな。そう思いながらカップを拭いた。
TSの適合の仕方~
ナギ:催眠アプリの自己暗示
アオイ:ギャル風にして近寄る人間を減らす
ミズキ:不器用なので女の子を普通にやろうとする
ゆーちゃん:??