マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~ 作:メスキャン界隈
「ふざけたお願いをしてくれたものね」
「ごめんなさい」
喫茶店の中で、二人の少女が話している。いつもは閑散としているので珍しい。
ぷりぷりと怒っているのが――拳がメリィさんで、しゅんとして頭を下げているのがナギ。
メリィさんは、手をひらひらとさせて、不機嫌そうにコーヒーカップにゆっくりと口をつける。少しだけ、表情が和らいだ。前から思ってたんだが、怪異もコーヒーを飲むんだな。
にしても、ナギとあの後仲良くなったのか、仕事が終わった後そのまま一緒に外に行ってたんだよな。あの後、何かあったのか?
「何がメス堕ちキャンセラーよ、あんなもの壊せるわけないでしょう」
ん?
もしかして、メス堕ちキャンセラーを破壊しに行ったのか?
「だから、ごめんなさいってば。忘れてたんですよ、ノリで言ったから」
「あのね、怪異を退ける結界を張っているものを破壊させないでくれるかしら?」
「でもメリィさんはなんともなさそうだし」
「私はいいのよ、無敵だから」
なんか、すごい会話してるな。拳がメリィさんにメス堕ちキャンセラーを破壊しようとしてもらったってことか。なんでだよ。
ゲーミング因習村が近くにある場合、結界が破壊されたらやばいしな。そりゃ困るか。
メリィさんが、コーヒーにミルクをいれてくるりと回している。黒と白が混ざっていく。
……そもそも、なんで怪異が居着いているんだ。だんだん、オカルト比率上がってきていないか?
「マスター、どうしました?」
気づくと、カウンターを挟んでナギが目の前でじっと見ている。
メリィさんは、向こうでゆっくりとコーヒーを飲んでくつろいでる。なんかスマホを取り出してるけど、まさかな。
「なんでもないけど」
「ふーん、そうですか。にしても、常連さん増えましたね」
確かに、ナギの知り合い三人とコヨミに、メリィさんか。まあまあいるな。
「……マスター、この前のことなんですけど」
少し言いにくそうに、少しだけ言い澱んでから、そう話し始めた。
「メリィさんを新しくバイトとして雇うつもりとかありますか?」
その発言の意図がいまいちわからなく、ナギの様子を見る。
真剣にこっちをじっと見据えていて、俺の答えを待っている。
「俺は、ナギ以外をあんまり雇うつもりはないけど」
「……それ、私が変わっても、そう言えます?」
「どういう意味だ?」
ナギが変わる?また、催眠が解けるとかそういう話とかだろうか。
ナギは一度、視線を伏せたと思えばパッとまたこっちを向いた。
「うーん、そうですねえ。ああ、いつもの流れが言った方がいいですかね?」
あはは、と力なく笑う。そしてそのまま、いつもの調子で。
「マスター、このままだと――」
と、言葉を続ける。
……あんまりよくない話な気がする。
「――メス堕ちキャンセラーがヘルモードになっちゃいますよ~」
「……うん?」
すごい真剣な前振りだったせいか、すごい間抜けな声が出てしまった。なんだ、ヘルモードって。
「だから、ヘルモードですってば」
「なんだそれ」
「メス堕ちキャンセラーの強化形態ですけど」
強化があるのか、メス堕ちキャンセラー。まあ、結界でもあるしいいのか?
「メス堕ちキャンセラーはご存知の通りだと、壊れかけていたじゃないですか」
「そうだな」
ご存知の通りなのもなんか嫌だな。
そういえば、今日はまだ何も出していなかったなと思ってココアを注いでいく。
それを、ナギの前に差し出す。にへら、と少しばかり頬を緩めてそれを受け取った。
「それで、壊れたらやばいなーってことで、メス堕ちキャンセラーを強化する流れになったみたいなんです」
「そうか。メス堕ちキャンセラーを強化か。メス堕ちレベルだっけ?それが上昇しても大丈夫なのか?」
「まあ、そこですよね。メス堕ちレベルが上がりすぎると結局上限を突破されて壊れてもヤバイので、逆の手段を取るようになったんです」
別の手段?
耐えられるようにする、とかではないんだ。じゃあ、なんなんだ?
「それが、メス堕ちレベルを強制的に下げるって訳です。これがメス堕ちキャンセラーヘルモードってことです」
「なるほど」
まあ、順当ではあるな。そもそも、初期からついていた方がいい機能じゃないか?
……なんか、これに意見してるとメス堕ち許さないやつみたいな気持ちになってきて嫌だな普通に。
別に、どっち派でもないしな。そういう趣味でもないし。
と、考え込んでいると、眉を下げてナギが何か言いたげに視線をぶつけてきた。
「どうした、ナギ」
「マスターのせいですからね」
俺のせい?なんの話だ。
「マスターのせいで、こうやってメス堕ちキャンセラーが壊れそうになって強化されたんですから」
「……もしかして、メス堕ちコーヒーがどうとか言い出すやつか?」
「そりゃそうですよ。マスター、コーヒーに本当に何も仕込んでないですよね?」
えげつない言いがかりすぎる。そもそも、メス堕ちするように仕込むとか何いれるんだよ。
「何も入れてるわけないだろ」
「ふーん。でも、マスターのせいですからね」
じとっとした瞳で、俺のせいだと目で訴え掛けてきている。おかしいな、意味不明の冤罪を掛けられている。
ナギはココアを飲み干して、そのカップを持ったまま回り込んでくる。そのまま、流しの方へとそれを置いた。
別に、俺に渡せばいいのに。
「……えーい」
と思えば、急に後ろから何かがぶつかってきた。何かっていうか、ナギだろうけど。
「どうした?」
ぐりぐり、と頭を押し付けてくる。……なんかすごい甘え方をしてくるな。
ナギはまあまあ距離感が近い方だった。だから、ボディタッチぐらいは、たまにされてたんだけど。
ここまでのはなかなかないな。本当にどうしたんだ。
「マスター、私が冷たくなってもその……本当にここにいてもいいんですか?」
「ああ、変わってしまうとか言ってたやつか」
「はい。メス堕ちキャンセラーがヘルモードになったら、たぶん私は今まで通りじゃなくなっちゃうので」
そういうものなのか。冷たくなったナギ、か。
最初の方はわりとつんけんしてた気がするけど。
「それは寂しいな」
「……っ」
素直にそう答えると、息を飲む音が聞こえた。
「その、明日から冷たくなっちゃったらごめんなさい」
「まあ、仕方ないだろ」
メス堕ちキャンセラーのせいだし。……ん?
メス堕ちキャンセラーって別にメス堕ちレベルを下げるだけだよな。それで冷たくなるって――
「じゃあ、代わりに私がバイトしてもいい……ということかしら?」
気がつけば、目の前にメリィさんがいる。飲み終わって会計にきたらしい。
「バイトが二人もいるように見えるか?」
「だから、代わりにって言ったでしょ。冗談だけれど」
くすり、と笑う。そしてそのまま会計を済ませて店から出ていった。
「……もうちょっとだけ、甘えててもいいですか?」
「まあいいけど。ほどほどにしてくれ」
「……マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」
「雑すぎないか?」
ナギと引っ付いたまま、その日はもう客が来ることもなかった。