マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:あまぐりムリーパー

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今更なんですが、結構な勢いでお気に入りとか評価とかもらってて
ありがとうございます。


マスター、このままだと天空スポーツジムが壊れちゃいますよ~

 生温い風が吹く。そろそろ、秋に差し掛かる頃にはなったが、それでもまだ暑い。

 

 冷房の効いた室内で、着替え終わったナギが椅子に座ってぼんやりとどこかを眺めていた。

 

「どうした、ナギ」

 

 と、声をかけるとハッと我に返ったナギがこちらを向いてから、もごもごと口元を動かして何か言いたそうにしてるものの、言葉にはならない。

 

 言いにくいことでもあるんだろうか。

 

「……その、マスター」

 

 おずおず、と話し始めた。

 

「なんだ?」

「暑いで、すね?」

 

 なんでそんな、途切れるような話し方をしてるんだか。

 

「本当に調子悪かったりしないか?」

「いや、大丈夫っすけど」

 

 ……話し方もちょっとおかしくないか?

 どうしたんだろうか、本当に。

 

 と、ナギの様子を訝しんでいると、「いやその」と慌てて、手をわたわたさせながら、目を左右に泳がせている。

 

「あっ、そういえば今日はコヨミさん来ないっす……来てないですよね!」

「そうだな。まあ、いつもここに来てるやつがいる方が珍しいけど」

「でも、ちょいちょい来てる……じゃないですか。あおちゃんとか」

 

 この店の客は、たまたまここを見つけた人とコヨミ以外は、ナギの友人ぐらいしか来ない。

 

 話から察するに、どうやらその子たちもTSしてるんだとか、そうらしいけど。

 

 いや、信じたくはないんだけどな。なんか本当にそうらしいから。本当にどういう地域なんだろうな、ここ。TS特区か?

 

 ともかく、そんなTSしてる子たちがなぜか、ここにちょくちょくやってきてるということだ。

 まあ、ナギの様子でも見に来てるんだろうけど。

 

 からんからん、と扉が開く時に音がした。

 

「やあ、マスター」

「ああ、今日は遅かった……です、ね?」

「どうしたんだい、何か様子がおかしいじゃないか」

「なんでもないです」

 

 コヨミにも、ぎこちないように返してる。本当にどうしたんだろうか。

 

 と思えば、急に立ち上がってカウンターの方まで来る。

 

「マスター、この前えーっと、私のことを猫っぽいとか言ってましたよね」

 

 カウンター席に座るとかでもなく、カウンターの中に入ってきて、なぜか俺の隣に立った。

 

「じゃあこの店の猫になります」

「どうした、本当に」

「にゃーん、なんつって……はっっず、これ」

「……」

 

 もうダメかもしれないな。なんか口調もおかしいし。

 

 コヨミもそんな様子のナギを見て、目をぱちくりとさせている。

 

「……なんだか、ナギくんの様子がおかしいね?」

「呼び方、ナギくんなんだな」

「マスターも、もうどう対応していいかわからなくて私のどうでもいい話に食いついてる時点で、大変さが伺えるよ」

 

 ははは、と苦笑しながら出したコーヒーにコヨミが口を付けた。

 そのまま、静かに座ったままで。こいつは静観するつもりらしい。

 

「マスター、もう秋ですねー」

 

 あれ、回復してきたか?

 

「でも、まだ暑いです」

 

 と言いながら、椅子を持ってきて俺の隣で座り込んでいる。一応、お前はバイトなんだけど忘れてないか?

 

「調子が悪いなら帰るか?」

「んー、嫌です。ここにいたいので」

「客としていてもらってもいいんだけどな」

「それだと、この距離感じゃないじゃないですか」

 

 このめちゃくちゃ近い距離感がいいのか?

 

「マスターとバイトじゃないと、境界線が壊れますよ」

「なんだよ、境界線って」

 

 と、呟いた俺の言葉をわざとか、聞こえてないふりをして、ナギはカウンターに持たれるようにして倒れた。

 

「やっぱり、夏が終わりそうなのに暑いですよね」

「そうだな。熱中症とかには気を付けろよ」

「お客さんも来ませんし」

 

 ああ、これはもしかしていつもの流れをやりたいのか?

 

「マスター、このままだと――」

 

 やっぱりそうだ。ぴくり、とコヨミも反応している。

 

「――天空スポーツジムが潰れちゃいますよ~」

「……そうか。なんだ、その天空スポーツジムって」

 

 段々と慣れてきたが、まあ聞いておいた方がいいよな。

 まあ、他に比べるとまだマシな単語じゃないか?

 

 天空スポーツジムだし。天空スポーツジムって何?

 

「そのままの通り、天空にあるスポーツジムですよ。なんか有酸素運動だとか無酸素運動だとかあるじゃないですか。そんな感じですって」

 

 ……今日はすごい適当だな。

 

「でも、暑いからみんな運動とかしすぎたら倒れちゃうじゃないですか。だから、みんな運動しなくてそのまま、スポーツジム潰れちゃうかもなーって」

「今回は本当に雑なことだけ言ってない?」

「うーん、でもこの前ちょろっとだけ見たんですよ。天空スポーツジム」

 

 ぐでー、とだらけたまま、一応出してあげたカフェオレにストローを通して、ちびちびと飲んでいる。

 

「……カフェオレ、か。なんか今の私にはぴったりなような、そうではないような」

 

 と、よくわからないことを呟いたと思えば、カフェオレをずっと飲んでいる。

 

「で、その天空スポーツジムとやらは、結局なんなんだ?」

「なんなんでしょーねー」

「なんかもう、潰れても良さそうか?今回は」

「そうですねー」

 

 ナギが喋らなくなると、店内に流れる穏やかな音楽だけが聞こえるようになってきた。

 

 そうして、時間も過ぎていくと、コヨミが席を立った。

 

「今日も美味しかったよ、マスター」

「そうか、それはよかった」

 

 と、淡々と返すと、くすりとコヨミが笑う。

 

「君って、ナギくん以外には全員に冷たいのかい?」

「冷たいのか?普通にしてるつもりだが」

「リピーターがあまり来ないのは、そのせいかもしれないね」

 

 とだけ言い残して、店を出ていく。

 

 扉が閉まると同時に、ゆっくりとナギが立ち上がった。

 

「空って、なんか自由って感じがしますよね」

 

 ボーッと、天井を見てる。

 

「だから、天空スポーツジムにいると、きっと解放された気持ちになるのかなって、思うんですよ」

「そこに戻ってくるのかよ」

「めっちゃ高いところにあるらしいですよ?」

「そこまで来ると、行くだけで命の危機がありそうだな」

「うーん、じゃあ別に暑くなくても潰れちゃいますね」

 

 自分から、ナギがコップを洗い始めた。

 

「なあ、マスターってこの前私が元に戻っても、別にここで働いてもいいって、言いましたよね」

 

 横目で、ちらりとこちらを見てくる。

 

「まあそうだな」

「ふーん。なんかさ――」

 

 洗い終わったコップを拭いて、そのまま仕舞い込んだ。

 

「――催眠解けちゃったかもしんない」

 

 ああ、そういえば来たばかりの頃は本当にこんな感じだったな。敬語もどう使えばいいか、わからなくて、少しぶっきらぼうで。

 妙に近づいてくるときもある。

 

 そういう部分も、猫と重なって見えていたのかもしれない。

 

「それ、アプリが消えたとかか?」

「……わかんない。消えてないと思うんだけど、なんか解けてるから」

「そうか」

「うん。ちょっとさ、マスター。このままだとやばいから、休んじゃうかも」

 

 ぽつり、と消え入りそうな声で呟いた。まるで、本当に消えてしまいそうだったから。

 

「寂しくなるな」

 

 とだけ、声をかけた。すると、ぴたりとナギの動きが止まる。

 

「そうなん?」

「だって、ここは基本的に俺一人だしな」

「コヨミも来てるじゃん」

「ずっといるわけじゃないだろ」

「……確かに。そっか、寂しいんだ」

「ああ、そうだな」

 

 みるみる、ナギの頬が緩んでいく。わかりやすいやつだな。

 

「じゃあ、じゃあさ……毎日連絡とかもしていい?」

「……連絡?」

「寂しいんでしょ。ここにいないときでも、スマホでメッセージ送ったりとか、できる、し……」

 

 段々と声が小さくなっていく。最初にあった勢いはどこへ行った。

 

「いいよ、別に。休みの連絡とかも、そっちでしてくれ」

「わかった」

 

 結局、この日はナギの口調とかはそのままで。催眠はまだ解けたままらしいってことだ。

 

 正直、そんなものに頼るのはよくないとは思うんだけど、色々あるだろうしな。

 

 余談だが、すごい頻繁にナギから連絡が来るようになった。まあ、元気ならいいか。

 




すみませんがこれでネタが一旦切れているので補充するまで時間かかったらごめんなさいね!
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