マスター、このままだとメス堕ちキャンセラーが壊れちゃいますよ~   作:あまぐりムリーパー

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がんばってひねり出しました
へんてこ概念がたまに弱い回があるのはごめんね


マスター、このままだとスライム水着工場が壊れちゃいますよ~

 ぴろん、とスマホに通知が来る。

 

 ナギから毎日のように、連絡が来るようになったが、暇なのか?

 

 この前は元気がなかったし、催眠が解けたって言ってたから、毎日連絡してくると逆に安心はしてるけど。

 何してるのかとか、日頃の軽い話とか、俺のことについて色々聞いてきたりとか。

 

 からんからん、と扉が開く音がしたので、ナギでも来たのかと思ってそっちに視線を向けた。

 

 あいつ、裏口から入れるようにしてるのに、なぜか入り口から来ること多いんだよな。

 

「おっ、今日はナギいない感じ?」

 

 一人の女子高生が、店内を覗き込む。

 

 髪を染めて、だらしなく第二ボタンを外しただらしない格好をしている。

 

 こいつは、桜木アオイ。ナギの友達、らしい。こうして、たまに来る。

 

 ナギは、確かあおちゃんとか読んでたっけな。

 

「まだナギのやつは来てない。最近、調子が悪いみたいだからな」

 

 調子が悪いというか、催眠が解けてるだけなんだが。

 

「ん?マジ?学校には来てたけど」

「そうなのか?」

 

 まあ、学校に行ってるならいいか。

 

「そっか、じゃあナギ来ないかもしれないんだ。まあいいや、ナギの気に入ってるものでも出して」

 

 座って、頬杖をついた。態度の悪いやつ。

 

「どうぞ、アイスカフェオレだ」

 

 からん、と氷同士がぶつかる音がした。

 

 机の上に置かれたそれを見て、アオイが目を丸くする。

 

「へえ、アイスカフェオレねえ」

 

 ストローを差して、そこを通してゆっくりと口に運ばれていく。

 

「まあ、割りきれるものじゃないよねー」

 

 と、何かわかったかのようにポツリと漏らしてる。

 

「何がだ?」

「何がって、それはもう。心が混ざってて、ごちゃついてるんだよ。わからん?」

 

 くるくる、とストローでアイスカフェオレを混ぜていく。

 

 心が混ざっててごちゃついてる、か。

 

 あいつも、大変そうだな。悩みぐらいは聞いてやろうかな。

 

「わかんなさそうだね、マスター。ナギも苦労してそう」

 

 けらけら、と笑いながらアイスカフェオレをゆっくりと飲み干した。

 

「マスター、遅れました!」

 

 急いで、扉を開ける音がした。

 

「遅かったな、ナギ」

「ごめんなさい、ちょっと手間取ってて……ってあおちゃん?」

 

 膝に手を置いて、息を荒くしていたと思えば、顔を上げてアオイを見つめた。

 

「よっ、ナギ」

 

 片腕を挙げて、軽く笑って返している。

 

「もう、来るなら言ってくれればいいのに」

「やーだ。行きたいときに行きまーす、ナギがいない方が悪いし」

「なにそれ、休んでるかもしれないじゃん」

「別に、あたしはそれでもいいけど?」

 

 アオイはコップに残った水滴を、するすると吸い上げる。

 

「……マスター、何もないですよね?あおちゃんと」

「なにその倒置法。っていうか、調子は大丈夫なのか?」

「えっ、はい。じゃなくて!」

 

 この前、様子がおかしかったが今回は問題なさそうだな。

 

 というか、元に戻ってないか?

 

 ずいっ、とナギがこちらに顔を寄せて、不満そうに頬を膨らませている。

 

「あおちゃんと、なんかいい感じになったりしてないですよね?」

「なんだよ、いい感じって」

「じゃあ、ちょっかい出すかなー」

「あおちゃんは、別に好きな人が――」

「あー、こら!好き勝手言うな!」

 

 ナギとアオイがじゃれている。こうして、友達と仲良くしてるナギを見るのも珍しい。

 

「もー、マスター。ちょっと準備してきますね?」

 

 もう、じゃれつくのは満足したらしい。

 

 そのまま、奥の方へと入っていく。

 

「あー、くそ。ナギのやつ、思ったより元気じゃん」

「そうだな。飲み終わったし、帰るか?」

「もう一杯ちょーだい」

「はいはい」

「うわ、客に対しての態度が軽すぎ」

 

 仕方ないので、もう一度アイスカフェオレをアオイの前に出した。

 

「つーか、あいつ普通だったじゃん。マスター、適当言ってんじゃない?」

「この前は、調子が悪そうだったんだよ。というか、ひとつ聞きたいんだが」

「ん、何?」

「お前もTSしてるってことでいいのか?」

「ぶっ!!」

 

 飲んでたアイスカフェオレを、軽く吹き出した。そのまま、けほけほと咳き込んでる。

 

「きゅ、急に何言うん。ってか、もしかして誰かから聞いた?」

「ナギがそれっぽいこと言ってたから」

「……あいつさあ」

「メス堕ちキャンセラーのくだりで」

「え、ごめん。なんか変なこと言った?聞き間違い?」

 

 ああ、メス堕ちキャンセラーは共通認識じゃないんだ。

 

「気にするな」

「いや、気にするでしょ。まあいいよ、聞かないでおいてあげる」

「そうか」

 

 にしても、ナギは結構格好とかをきちんとしてるタイプだけど、アオイはまあまあだらしない。

 TSしてても、こういうところは元々の性格由来なんだろうか。いや、ナギも最初はだらしなかった気がするけど。

 

 そうやって考え込んでいると、アオイがじっとこちらを見つめているのに気付く。

 というよりも、ボーッとアオイを見ているのがバレたか。

 

「ん、何?あたしの顔になんかついてんの?」

「いや、お前は派手な格好をしているなと思っただけだ」

 

 と言うと、ぴたりと止まって遠くの方を見つめた。

 

「――こういうギャルっぽい雰囲気の方が、逆に男が寄ってこないんじゃねって思っただけ」

 

 ……好き好んで、そういう見た目をしているわけじゃなかったか。

 

「マスター、待たせちゃいました?」

 

 ひょっこりと、奥からナギが姿を見せる。

 

「ってか、あおちゃんまだいたの?」

「うっさいな、あんたと小競り合いして疲れたの。だからもう一杯飲んでんの」

「ふうん、まあいいけど」

 

 やっぱり、元に戻っているように見える。前みたいなぎこちなさがない。

 いや、元に戻っているっていうのもおかしいか。

 

「にしても、今日はあおちゃんしか来てない感じです?」

「そうだな」

「まあ、まだまだ暑いですしね。マスター、このままだと――」

 

 ああ、今日は結構速攻で来たな。

 

「――スライム水着工場が潰れちゃいますよ~」

「潰れろ、そんなもん」

 

 ちゅるちゅる、とアオイがストローで吸いながら、それに答える。こいつ、もしかしてこの系統に慣れてるタイプか?

 いやでも、メス堕ちキャンセラーは知らないんだよな。

 

「なんだ?その、スライム水着工場ってのは」

「スライムで作る水着の工場ですよ。素材がスライムになることで、簡単に千切れたりしないし、微妙に丈夫で、体温調整もしやすいんですよね」

 

 そうか、なんか優れた製品ってことでいいのかな。いやでも、水着って性能面で考えるものなのか?

 

「ってかさ、今の話の流れ、どう考えてもスライム水着工場にならなくね?」

「いや、あおちゃん見てて思ったんだよね。これだけ派手な格好してる人って最近、あんまいないなって」

「強引すぎ。ほんまにそれだけなん?」

「それだけだよ?」

 

 アオイがいると、勝手に話が進んで少し楽だな。

 

「それで、なんでスライム水着工場が潰れるんだ?」

「あー、それはですね。水着を作るためのスライムに抵抗ある人が結構いるらしくて」

「まあ、スライムだしな」

 

 肌に直につけるのがそれだと、嫌な人もいそう。

 

「だから、潰れる前にスライム水着買っておこうかなーって」

「いいんじゃないか?」

「……マスター、一緒に海とか行きます?」

 

 その瞬間に、あははと軽快にアオイが笑い出す。

 そして、ぐいっと一気にアイスカフェオレを飲み干した。

 

「ナギって、本当にこういう瞬間、いつもの勢いがなくておもろい」

「あおちゃん、うざっ」

 

 にしても、海か。いや、ナギと二人で行くってことか?

 

「さすがに、ナギと二人で行くのは少しな」

「……そう、ですか」

 

 しゅんっ、と顔を伏せた。

 

「女子高生とおっさんが行ってたら、周りの目がすごいことになるぞ」

「まー、確かにそれはそうですね。今回は勘弁してあげます。っていうか、別にマスターもおっさんとかじゃないですよね?」

「そーそー、お兄さんではあるかもね。ん、飲み終わったから、支払い」

 

 強引に、アオイがこちらが会計の準備を済ませる前に、お金を無理やり押し付けてくる。

 ぴったりのせいで、文句も言いにくい。

 

 そのまま、何も言うこともなく、アオイは帰っていく。

 

 別に、もとからアオイが騒がしいタイプではないけど、いなくなると一気に静かになった気がする。

 

「そういえば、ナギ。催眠解けたんじゃなかったのか?」

「ああ、戻っちゃいました」

 

 てへ、と舌を出す。

 

「まあそれは、よかった……のか?」

「私、催眠ありきじゃないと人と話せてないので、実はよかったりします」

「……そうか」

 

 そういえば、今日は出してなかったなと思ってアイスカフェオレを――いや、別のものにするか。

 

 ことり、とナギの前にコップを置く。

 

「あれ、今日はカフェオレじゃないんですね?」

「なんとなく、別のものにしたけどそれでよかったか?」

「実は、マスターからのものなら、なんでも喜んじゃいます」

 

 本当か冗談か、よくわからないテンションのまま、俺の出したクリームソーダにストローを差す。

 

「今日は、他にお客さん来なさそうですかね」

「そうかもな」

「マスター、このままだとお店潰れちゃいますよ~」

 

 閑散とした店内に、ナギの声が響いた。




毎回思うんですけど、転生以外のTSって男でも女でもあんま違和感ない名前を考えないといけないの、ちょっと難しいですよね
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