妖精王オベロン
時はリムルがゴブリンと牙狼族をまとめあげた頃──
目が覚めたリムルがまず目にしたのは、すっかり変貌してしまったゴブリンたちだった。
「お前ら…なんか、でかくなってない?」
「我が主よ! 御快復、心よりお慶び仕ります!!!」
この流暢に喋る喋る巨大な獣はもしや……ランガか?
5メートルの巨獣に、片やこっちは地平線
考えてもみてほしい……ちょっと怖い。
いやいや今はもっと大きな問題について考えよう。
それはつまり……服 装 問 題!!
今までは子供体型で誤魔化されていたが、進化したゴブリナたちは小さな服も相まって非常に大変な姿になっていた。
衣食住、なにもかも足りていないがまずは衣をどうにかしなければ。
この問題から目を逸らしてはならない。
リムルはゴブリナの豊かな双丘をきっと見上げた。
ゴブリナは照れた。
というわけで、リムルはその解決のためにドワーフの王国へ出向いている。そしてあわよくば住の方もどうにかしてもらおう、という魂胆だ。
ドワーフの王国は、ゴブリンの足で歩いて二ヶ月の距離にあるそうだ。
森の中を流れるアメルド大河。
これを辿っていくと、山脈にでるのだとか。
その山脈に、目指すべきドワーフの王国がある。
東の方にあるという帝国と、ジュラの森周辺にあるらしい複数の国家。
この間を隔てるのが、カナート大山脈である。
東に森を抜ければ帝国だが、北上し、カナート大山脈を目指すのだ。
山頂まで登る必要はない。
ドワーフの王国は、アメルド大河の上流部であるカナート大山脈の麓に、その領土を構えている。
山脈の、自然の大洞窟を改造した、美しい都。
それが、ドワーフの王国なのだ。
リムルとランガ、それとリグルを筆頭に5組。荷物は3日分の食料と僅かなお金だけ。
それだけで俺たちは旅立った。
嵐牙狼族に進化した黒狼に乗り、道行を飛ばす。黒狼たちにかかれば険しい登山道もなんのその。まるで、渋滞のない高速を飛ばしているかのような清々しさだ。
「しかしその……もうちょっと休憩してくれてもね、構わないのだよ……?」
かれこれ出発してからもう3時間は走ったままだ。
そうは聞いたものの、この3時間の間で「大丈夫です、我が主!」以外の返答を聞いたことがない。
本当に大丈夫か?
えてして新人というものは休みを自分から上司に言えないものだ。ゼネコンでもそうだった。
ここは俺から休ませるべきか?
「ぁああ!!もう!
休憩だ休憩!ここから30分は休む時間とする!!」
その言葉からリグルたちはそれぞれの時間を過ごし始めた。1匹は地面に伸び、1人は見つけた果物を取りに草木に分け入った。
さて、俺はどうしようかと考えていると、ふと聞き慣れない声が小さく聞こえた。
「ゴブリンと牙狼族が手を組むとはね。牙狼族はゴブリンの天敵だったはずたけど……。うん、これは一大事だ!!」
ゴブリンのものでも、狼のものでもない、慌てているのにどこか楽しげ気なひょうきんな声。
「だ、誰だっ!?」
しかし周囲には人らしきものは1人もいない。
ならばそこかと俺はバッと背後を振り返った。
「スライムなのに随分人間臭い動きをするんだね。まるで目で見ているみたいだ」
そうだった!人間だったころの癖でつい振り返ってしまった。しかもしっかりバレてるし。
俺超恥ずかしいやつじゃん!
クスクスと笑う声が聞こえる。せめてもの救いは赤くなったりはしていないところか。
これでもし俺が赤面のレッドスライムと化していたら、いてもたってもいられなかっただろう。
「それで、どこにいるんだ?」
「ここだよ!!きみの正面さ!」
そう言われて上を見上げても青すぎる快晴の空が見えるだけだ。
「いやどこにも──」
いない。と言い切ろうとした声は遮られる。
「もっと下だよ」
その声に従い下へ下へ視線をずらすと……
自分と同じくらいのところで何者かと目が合った。
美しい白髪に、くりくりした青い瞳。ずんぐりむっくりの小さな体には蝶を模したかのようなひらひらした、暖かそうな衣装を纏っていた。
「小人!?」
そういうほかない可愛らしい姿に驚いた。ドラゴンもゴブリンもいるんだ、小人がいたところで不思議じゃないな。
小人族、なんて言ったりして。
「小さいけれど、小人ではないよ。これは世を偲ぶ仮の姿でね……。本当の僕は妖精族なんだ。」
そう言うや否やボンッと小さな爆破音と煙が立ち昇って、その中からなんとも見目麗しい長身の青年が出てきた。
見た目が劇的に変わってまさに仰天……
いやこの展開昨日も見たな。
だが、そんな変身劇でも注視せざるをえないものがある。彼の背で今もはためいている、美しい1対の巨大な羽だ。
鮮やかな模様が描かれているそれは、青年の華やかさも相まって青年全体を1羽のアゲハチョウのように仕立て上げている。
まさに、妖精!といって思い浮かぶ姿がこれだろう。
また、童話の中からでてきたと言われても受け入れてしまいそうな、青いマントが青年の大振りな動きによく似合っていた。
「はじめまして!僕はオベロン、妖精王のオベロンさ!
よろしくね?ゴブリンと狼の盟主様」
そうしてオベロンと名乗った好青年は人好きのする笑顔を浮かべた。