『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第10話 家族になろう

寺に、穏やかな朝が戻っていた。

 

鳥の声。

 

薪が割れる音。

 

子供たちの笑い声。

 

そして――。

 

「獪岳兄ちゃん! 起きて!」

 

「……うるせぇ」

 

「朝だよ!」

 

「あと五分……」

 

「昨日、悲鳴嶼さんが『早寝早起きは大事だ』って言ってた!」

 

「…………」

 

布団の中で、獪岳の眉がぴくりと動く。

 

「……分かったよ」

 

「やった!」

 

子供たちが走っていく。

 

獪岳は布団から起き上がり、大きく欠伸をした。

 

「……俺、いつからこんな生活になったんだよ」

 

前世では考えられなかった。

 

そして、獪岳として生き始めた当初も。

 

ただ強くなることだけを考えていた。

 

だが今は。

 

「……悪くねぇな」

 

そう思える自分がいる。

 

朝食を終えた後。

 

子供たちは境内で遊び、獪岳は薪を割っていた。

 

「……ふっ!」

 

斧を振り下ろす。

 

パカンッ。

 

薪が綺麗に割れる。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

悲鳴嶼が近づいてくる。

 

「今日は山へ行く必要はない」

 

「そうですか?」

 

「ああ。食料も十分にある」

 

「じゃあ今日は修行します」

 

「その前に」

 

悲鳴嶼が少し間を置く。

 

「子供たちと過ごしなさい」

 

「……俺が?」

 

「そうだ」

 

「何でですか」

 

「お前も子供だからだ」

 

「…………」

 

獪岳は渋い顔をした。

 

「俺、もう十分大人っぽいと思うんですけど」

 

「そういうところが子供だ」

 

「……納得いかねぇ」

 

悲鳴嶼が僅かに笑う。

 

そんな二人を。

 

寺の子供たちが遠くから見ていた。

 

「ねえ」

 

「なに?」

 

「獪岳兄ちゃんと悲鳴嶼さんって、家族みたいだよね」

 

「うん!」

 

「じゃあ、俺たちも家族?」

 

その言葉に。

 

獪岳の動きが止まった。

 

「…………」

 

家族。

 

その言葉は。

 

思った以上に重かった。

 

前世では。

 

そんなものを意識したことはなかった。

 

そして。

 

この世界に来てからも。

 

自分は「原作の獪岳」だと思っていた。

 

寺にいる子供たち。

 

悲鳴嶼行冥。

 

自分。

 

それぞれ別の人生を歩む人間だと。

 

けれど。

 

「……家族、か」

 

その日の夜。

 

食事が終わった後。

 

子供たちが縁側に集まっていた。

 

「獪岳兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「質問!」

 

「何だ」

 

「家族って何?」

 

「…………」

 

獪岳は困った。

 

「……一緒に飯を食う奴ら?」

 

「じゃあ僕たち家族?」

 

「そうだな」

 

「一緒に寝るのも?」

 

「まあ……」

 

「一緒に遊ぶのも?」

 

「……そうだ」

 

「喧嘩しても?」

 

「するだろ」

 

「じゃあ、家族だ!」

 

子供たちが笑う。

 

獪岳も思わず笑った。

 

その時。

 

「……獪岳」

 

悲鳴嶼の声がした。

 

「はい?」

 

「少し話がある」

 

「分かりました」

 

二人で境内へ出る。

 

月明かりが二人を照らす。

 

「今日、子供たちが言っていたことを聞いたか?」

 

「家族の話ですか?」

 

「ああ」

 

「……聞きました」

 

悲鳴嶼はしばらく黙っていた。

 

「私は、お前たちを守る責任があると思っている」

 

「はい」

 

「だが」

 

悲鳴嶼は拳を握る。

 

「守るだけでは足りないと思うようになった」

 

「…………」

 

「私はこれまで、子供たちを救えなかった」

 

その声に。

 

深い痛みが滲んだ。

 

「だからこそ……」

 

悲鳴嶼は続ける。

 

「今度こそ、誰も失いたくない」

 

獪岳は黙って聞いていた。

 

「だから」

 

悲鳴嶼が獪岳を見る。

 

「お前たちに尋ねたい」

 

「……何を?」

 

「この寺で」

 

「…………」

 

「私と共に、生きてくれないか」

 

獪岳の目が見開かれた。

 

「……それって」

 

「家族になろう」

 

その言葉が。

 

静かな夜に響いた。

 

獪岳は何も言えなかった。

 

「…………」

 

胸の奥が熱い。

 

前世では。

 

こんな言葉をかけてもらったことはなかった。

 

「家族になろう」

 

それは。

 

ただの言葉だった。

 

けれど。

 

今の獪岳には。

 

世界で一番欲しかった言葉に聞こえた。

 

「……俺」

 

声が震える。

 

「俺、いいんですか?」

 

悲鳴嶼は頷く。

 

「ああ」

 

「俺、口悪いですよ」

 

「知っている」

 

「負けず嫌いです」

 

「知っている」

 

「すぐムカつきます」

 

「それも知っている」

 

「……面倒臭い奴ですよ」

 

「それでもだ」

 

獪岳は俯いた。

 

「…………」

 

目元が熱い。

 

「……ずりぃですよ」

 

「何がだ?」

 

「そんなこと言われたら……」

 

涙が落ちた。

 

一滴。

 

そして二滴。

 

「……泣くじゃねぇか」

 

悲鳴嶼は何も言わず。

 

ただ獪岳の頭に手を置いた。

 

「泣いていい」

 

「…………」

 

「ここでは、無理をしなくていい」

 

「…………はい」

 

獪岳は涙を拭った。

 

そして。

 

ゆっくり顔を上げる。

 

「……俺も」

 

「…………」

 

「家族になりたい」

 

悲鳴嶼の目から涙が流れる。

 

「ありがとう」

 

「……はい」

 

「今日から」

 

悲鳴嶼が言う。

 

「お前たちは、私の家族だ」

 

「……家族」

 

獪岳はその言葉を噛み締める。

 

そして。

 

「だったら」

 

拳を握った。

 

「俺も、家族を守ります」

 

「ああ」

 

「子供たちも」

 

「ああ」

 

「悲鳴嶼さんも」

 

「ああ」

 

「俺が絶対に守ります」

 

悲鳴嶼は微笑んだ。

 

「それなら、私も負けられないな」

 

「……競争ですか?」

 

「そうだ」

 

「俺が先に強くなりますよ」

 

「楽しみにしている」

 

二人は笑った。

 

その夜。

 

寺の中には。

 

子供たちの寝息が響いていた。

 

そして。

 

その真ん中で。

 

獪岳は初めて思った。

 

――ここが。

 

――俺の帰る場所なのかもしれない。

 

「……家族、か」

 

悪くない。

 

いや。

 

「……大切だ」

 

絶対に失いたくない。

 

だから。

 

獪岳は心の中で誓った。

 

この家族だけは。

 

原作の悲劇に巻き込ませない。

 

自分が未来を知っている限り。

 

絶対に。

 

【大正コソコソ噂話】

 

「家族になろう」と決まった翌朝。

 

寺の子供たちは大喜び。

 

「じゃあ獪岳兄ちゃんはお兄ちゃん!」

 

「今までと何が違うんだよ」

 

「もっとお兄ちゃん!」

 

「意味分かんねぇよ」

 

さらに。

 

「悲鳴嶼さんはお父さん!」

 

「……お父さん?」

 

悲鳴嶼が固まる。

 

「獪岳兄ちゃんがお兄ちゃんだから!」

 

「そういう理屈かよ!」

 

その日から子供たちの中では、

 

悲鳴嶼=お父さん

獪岳=怖いけど優しい長兄

 

という謎の家族構成が定着した。

 

ちなみに獪岳は、

 

「俺はお父さんじゃねぇからな!」

 

と何度も念を押した。

 

しかし子供たちからは、

 

「お父さん!」

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

と両方から呼ばれ続けたという。

 

そして悲鳴嶼は。

 

「……家族とは、良いものだな」

 

と、穏やかに笑っていた。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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