白銀の雪原。
吹雪の中で、獪岳と童磨が向かい合っていた。
カナエは少し離れた場所で、二人の戦いを見つめている。
「カナエ」
「はい」
「ここからは俺一人でやる」
「……獪岳さん」
「お前は呼吸を整えろ」
獪岳は刀を構える。
「こいつは俺が止める」
「ですが、上弦の弐ですよ」
「分かっている」
「一人では危険です」
「それでもだ」
獪岳は童磨を睨む。
「こいつは、俺が斬る」
カナエは少し黙った。
そして。
「……分かりました」
「カナエ?」
「信じます」
カナエは刀を下ろす。
「必ず戻ってきてください」
「ああ」
その言葉を聞いた童磨が笑った。
「いいねぇ」
扇を開く。
「仲間に見送られて、一人で僕と戦うんだ」
「黙れ」
「格好いいじゃないか」
「……」
獪岳の周囲に雷光が走る。
「始めるぞ」
「うん」
童磨の笑顔が消える。
「殺し合おう」
次の瞬間。
――轟ッ!
雷鳴。
獪岳の姿が消えた。
「雷の呼吸――」
童磨の目の前に現れる。
「壱ノ型・極!」
「――!」
一閃。
童磨は扇を交差させる。
――ガキィィン!!
衝撃で雪が吹き飛ぶ。
「速い!」
童磨が笑う。
「さっきより速くなってる!」
「まだだ!」
獪岳が刀を返す。
「迅雷・閃々!」
雷光が連続して走る。
童磨は後退しながら扇を振る。
「血鬼術――散り蓮華!」
無数の氷の花弁が舞う。
「邪魔だ!」
獪岳は刀を振り抜く。
雷が氷を次々と砕く。
だが。
一枚。
獪岳の頬を掠めた。
「……!」
皮膚が一瞬で凍りつく。
「冷たいだろう?」
童磨が笑う。
「僕の氷は触れるだけでも危険なんだよ」
獪岳は頬の氷を手で砕く。
「この程度……」
刀を構える。
「どうってことない」
「強がりだねぇ」
「違う」
獪岳の瞳が鋭くなる。
「俺には――」
雷光が増していく。
「守るものがある」
「……!」
「だから、ここで負けるわけにはいかない」
童磨が首を傾げる。
「胡蝶しのぶ?」
「……」
獪岳の殺気が爆発する。
「名前を呼ぶな!」
「図星だね」
「黙れ!」
獪岳が踏み込む。
「雷龍!」
雷を纏った斬撃が、龍のように童磨へ迫る。
童磨は扇を振る。
「血鬼術――凍て曇!」
冷気が爆発する。
雷と氷が激突した。
――ドォォォン!!
視界が白く染まる。
その中から。
「……!」
獪岳が飛び出す。
「何!?」
童磨が目を見開く。
獪岳の刀が童磨の肩を深く斬り裂く。
「――ッ!」
童磨の身体が吹き飛ぶ。
「やった……!」
遠くでカナエが声を上げる。
だが。
童磨は地面に着地すると。
「……あはは」
笑っていた。
「痛いなぁ」
肩の傷が瞬時に再生する。
「でも――」
童磨の瞳が妖しく光る。
「もっと面白くなってきた」
両手の扇を開く。
「血鬼術――蔓蓮華!」
巨大な氷の蓮が一斉に咲く。
「……!」
獪岳は地面を蹴る。
一つ。
二つ。
三つ。
無数の氷を斬り裂く。
しかし。
「――!」
背後から氷の槍。
獪岳は身体を捻る。
だが、避けきれない。
「ぐっ!」
左肩を貫かれる。
「獪岳さん!」
カナエが叫ぶ。
「来るな!」
獪岳が怒鳴る。
自ら刀を肩の氷へ突き立て。
「……ッ!」
一気に引き抜く。
血が雪に落ちる。
童磨が微笑む。
「痛そうだね」
「……」
「もう終わりにする?」
「馬鹿を言うな」
獪岳は傷口を押さえながら立ち上がる。
「まだ始まったばかりだ」
「へぇ」
「俺は――」
刀を構える。
「柱だ」
雷鳴が轟く。
「鬼殺隊の柱として、お前を斬る」
童磨は笑う。
「その意気だよ」
扇を構える。
「じゃあ、もっと本気を出そうか」
その瞬間。
童磨の周囲に巨大な氷像が次々と現れた。
「……!」
カナエが息を呑む。
「獪岳さん!」
「分かっている」
獪岳の額から汗が流れる。
童磨の圧倒的な力。
これまで戦った鬼とは、まるで次元が違う。
それでも。
獪岳は刀を下ろさなかった。
「……」
そして。
静かに目を閉じる。
雷の呼吸。
己の中にある雷を、極限まで研ぎ澄ます。
「雷は――」
目を開く。
「一瞬だ」
身体から凄まじい雷光が溢れ出す。
「一瞬で、全てを斬る」
童磨の表情が変わった。
「……!」
「雷の呼吸――」
雪原が震える。
「九頭龍の雷!」
――轟轟轟轟轟ッ!!
九条の雷が一斉に走る。
童磨が氷の盾を展開する。
しかし。
「――ッ!」
雷が氷を次々と破壊する。
童磨の身体が斬り裂かれる。
「ぐっ……!」
初めて。
童磨の笑顔が消えた。
「……これは」
獪岳は止まらない。
「まだ終わりじゃない!」
「雷鳴――」
さらに踏み込む。
「帝釈天!」
天から雷が落ちる。
――ドォォォォン!!
雪原が爆発した。
巨大な氷の像が粉砕される。
童磨の身体が吹き飛ぶ。
「……!」
カナエは息を呑む。
「凄い……」
しかし。
煙と雪の向こうから。
「……あはは」
童磨の笑い声。
獪岳の目が細くなる。
「……まだ立つか」
童磨がゆっくり立ち上がる。
身体は大きく傷ついている。
だが。
その傷は、すでに再生を始めていた。
「凄いね」
童磨は笑った。
「本当に凄い」
そして。
「君、今まで会った柱の中でも――」
虹色の瞳が獪岳を捉える。
「かなり強いよ」
獪岳は刀を構える。
「褒め言葉はいらない」
「そう?」
童磨も扇を構える。
「なら――」
冷気がさらに膨れ上がる。
「次で決めようか」
獪岳の雷も、さらに激しくなる。
「望むところだ」
二人の視線が交差する。
雷鳴。
吹雪。
そして殺気。
その中心で。
鳴柱・獪岳と上弦の弐・童磨。
二人の死闘は――。
いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。