『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第103話 届かなかった刃

白銀の雪原。

 

「帝釈天」と「九頭龍の雷」によって大きく抉られた大地に、吹雪が舞っていた。

 

獪岳は刀を握ったまま、童磨を睨んでいる。

 

「……」

 

肩で息をする。

 

腕には僅かな震え。

 

それでも、刀だけは決して下ろさない。

 

隣では、カナエも構えていた。

 

「獪岳さん」

 

「ああ」

 

「次は、私も前に出ます」

 

「無理をするな」

 

「無理ではありません」

 

カナエは微笑んだ。

 

「二人で戦うために来たんですから」

 

「……分かった」

 

獪岳は小さく頷いた。

 

「なら、合わせるぞ」

 

「はい」

 

二人が同時に踏み込む。

 

「雷の呼吸――」

 

「花の呼吸――」

 

雷光と花弁のような斬撃が、左右から童磨へ迫る。

 

「おお……!」

 

童磨が扇を構える。

 

「いい連携だね!」

 

――ガキィィン!!

 

獪岳の刀と童磨の扇が激突。

 

その隙を狙い、カナエが懐へ入る。

 

「花の呼吸――!」

 

童磨が後退する。

 

「おっと!」

 

カナエの刀が頬を掠めた。

 

「……!」

 

童磨の頬から血が流れる。

 

「やった!」

 

しかし。

 

「まだだ!」

 

獪岳が追撃する。

 

「迅雷・閃々!」

 

雷光が雪原を駆ける。

 

一閃。

 

二閃。

 

三閃。

 

童磨の身体に次々と斬撃が刻まれる。

 

「……!」

 

童磨が後退する。

 

「速い……!」

 

その一瞬。

 

カナエが童磨の背後へ回った。

 

「――今です!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「合わせる!」

 

二人の刀が、同時に童磨の首へ迫る。

 

「――!」

 

童磨の笑顔が消えた。

 

「血鬼術――」

 

扇を大きく開く。

 

「凍て曇!」

 

猛烈な冷気が爆発した。

 

「ぐっ……!」

 

「……っ!」

 

獪岳とカナエの身体が止まる。

 

ほんの一瞬。

 

それだけで十分だった。

 

童磨は身体を低く沈める。

 

「危ない危ない」

 

二人の刀を紙一重でかわした。

 

そして。

 

「残念だったね」

 

童磨が笑う。

 

二人の刃は――。

 

届かなかった。

 

「……!」

 

獪岳が振り返る。

 

「逃がすか!」

 

再び踏み込もうとする。

 

だが。

 

「獪岳さん!」

 

カナエが腕を掴んだ。

 

「待ってください!」

 

「離せ!」

 

「違います!」

 

カナエが叫ぶ。

 

「冷気が濃すぎます!」

 

獪岳は息を吸う。

 

「……!」

 

肺に冷気が入り込む。

 

胸の奥が焼けるように痛い。

 

「くっ……!」

 

「呼吸を止めて!」

 

カナエが叫ぶ。

 

「無理に吸わないで!」

 

「分かってる……!」

 

童磨はそんな二人を見ながら、静かに笑った。

 

「そうそう」

 

「……」

 

「僕の血鬼術の怖いところは、そこなんだよ」

 

扇をゆっくり振る。

 

「斬撃を避けるだけじゃない」

 

冷気がさらに広がる。

 

「呼吸することそのものが、命取りになる」

 

「……!」

 

獪岳の目が険しくなる。

 

カナエも胸元を押さえた。

 

「……っ」

 

呼吸が苦しい。

 

それでも。

 

「まだ……戦えます」

 

「カナエ」

 

「大丈夫です」

 

「嘘をつくな」

 

「……」

 

「お前の顔色で分かる」

 

獪岳は前へ出る。

 

「俺がやる」

 

「獪岳さん……」

 

「お前は後ろにいろ」

 

童磨が笑った。

 

「一人で僕に勝つつもり?」

 

「そうだ」

 

「さっきの技をもう一度使ったら?」

 

「……」

 

獪岳は黙る。

 

帝釈天。

 

九頭龍。

 

どちらも強力だ。

 

だが、今の身体で連発すれば限界を超える。

 

童磨はそれを理解している。

 

「使えないんだね」

 

「……」

 

「だったら――」

 

童磨が一歩踏み込む。

 

「今度は僕の番だ」

 

扇が振られる。

 

氷の刃が一斉に飛ぶ。

 

「――!」

 

獪岳が刀を振る。

 

「雷の呼吸!」

 

雷光が氷を砕く。

 

しかし。

 

「多い……!」

 

次々と氷が迫る。

 

「獪岳さん!」

 

カナエも刀を振る。

 

「花の呼吸――!」

 

二人で防ぐ。

 

だが。

 

一枚。

 

獪岳の肩を掠める。

 

「ぐっ!」

 

さらに一枚。

 

カナエの腕を切り裂く。

 

「……っ!」

 

「カナエ!」

 

「大丈夫です!」

 

二人は再び構える。

 

しかし。

 

童磨は笑っていた。

 

「二人とも、動きが鈍くなってきたね」

 

「……」

 

「そろそろ終わりかな?」

 

童磨が距離を詰める。

 

獪岳が迎え撃つ。

 

「まだ終わってない!」

 

「そう?」

 

――ガキィン!

 

刀と扇が激突。

 

獪岳が押し込む。

 

「……!」

 

「力は凄いね」

 

童磨が笑う。

 

「でも――」

 

扇が滑る。

 

「僕のほうが強い」

 

――ドンッ!

 

獪岳の身体が吹き飛ばされる。

 

「獪岳さん!」

 

雪の上を転がる。

 

獪岳はすぐに立ち上がる。

 

「……まだだ」

 

だが。

 

足元がふらつく。

 

「……っ」

 

カナエが支える。

 

「獪岳さん!」

 

「触るな……」

 

「もう限界です」

 

「まだ……」

 

「あなたまで倒れたら、誰がしのぶを守るんですか」

 

「……!」

 

その言葉に。

 

獪岳の動きが止まった。

 

「……しのぶ」

 

カナエは静かに言う。

 

「帰るのでしょう?」

 

「……ああ」

 

「なら、ここで無茶をしてはいけません」

 

獪岳は刀を見る。

 

刃は欠けてはいない。

 

だが。

 

自分の身体は限界へ近づいている。

 

「……俺は」

 

拳を握る。

 

「俺は、負けたくない」

 

「分かっています」

 

カナエは微笑む。

 

「だからこそ――」

 

刀を構える。

 

「次は私が時間を作ります」

 

「カナエ?」

 

「その間に、呼吸を整えてください」

 

「……駄目だ」

 

「大丈夫です」

 

「お前一人では――」

 

「一人ではありません」

 

カナエは獪岳を見る。

 

「あなたがいるから」

 

「……」

 

「だから、信じてください」

 

獪岳は黙った。

 

そして。

 

「……分かった」

 

カナエが前へ出る。

 

「ありがとうございます」

 

童磨が笑う。

 

「感動的だねぇ」

 

カナエは刀を構えた。

 

「あなたには分からないでしょうね」

 

「何が?」

 

「誰かを守りたいと思う気持ちなんて」

 

「……」

 

童磨の笑顔が僅かに止まる。

 

カナエは静かに息を整えた。

 

「花の呼吸――」

 

童磨へ向かって駆け出す。

 

「参ノ型!」

 

刀が舞う。

 

「――!」

 

童磨が扇で受ける。

 

「へぇ!」

 

カナエの斬撃が続く。

 

「まだまだ!」

 

童磨が後退する。

 

その背後。

 

獪岳が静かに立ち上がった。

 

荒い呼吸を整える。

 

「……」

 

刀を握り直す。

 

「……まだだ」

 

目に再び光が宿る。

 

「俺の刃は――」

 

雷が刀身に集まり始める。

 

「まだ届く」

 

しかし。

 

童磨の冷たい視線が、一瞬だけ獪岳を捉えた。

 

「……」

 

次の瞬間。

 

童磨の扇がカナエを大きく弾き飛ばした。

 

「――っ!」

 

カナエの身体が宙を舞う。

 

「カナエ!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

その瞬間。

 

童磨が笑った。

 

「さて――」

 

獪岳へ向き直る。

 

「次は君の番だ」

 

雪原に。

 

再び殺気が満ちる。

 

届かなかった刃。

 

それでも――。

 

獪岳の戦意は、まだ消えていなかった。

 

 

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