『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第104話 「しのぶを……よろしくね」

吹雪の山中。

 

カナエの身体が雪の上を滑っていく。

 

「……っ!」

 

刀を支えに、どうにか立ち上がる。

 

「カナエ!」

 

獪岳が駆け寄ろうとする。

 

「来ないでください!」

 

カナエが叫んだ。

 

「……!」

 

「まだ……大丈夫です」

 

「その顔で何が大丈夫だ!」

 

獪岳の声が響く。

 

カナエは自分の手を見る。

 

指先が震えている。

 

肺も冷気に侵され、呼吸が苦しい。

 

それでも。

 

「私は……花柱ですから」

 

刀を握り直す。

 

「最後まで、鬼殺隊の柱として戦います」

 

「……」

 

獪岳は何も言えなかった。

 

その時。

 

「素晴らしいねぇ」

 

童磨が二人を見つめていた。

 

「本当に、君たちは立派だよ」

 

「……」

 

「でもね」

 

童磨が扇を開く。

 

「もう限界でしょう?」

 

冷気が広がる。

 

「次の攻撃で終わりにしてあげる」

 

「……させません」

 

カナエが前へ出る。

 

「お前を……」

 

刀を構える。

 

「ここから先へは、絶対に行かせません」

 

「ふふ」

 

童磨が笑う。

 

「じゃあ、最後まで頑張ってみようか」

 

次の瞬間。

 

童磨が消えた。

 

「――!」

 

カナエが振り向く。

 

扇が迫る。

 

「花の呼吸――!」

 

刀で受ける。

 

――ガキィン!

 

しかし。

 

「重い……!」

 

童磨がさらに力を込める。

 

「もう少しだよ」

 

「……っ!」

 

カナエの膝が沈む。

 

「カナエ!」

 

獪岳が踏み込む。

 

「雷の呼吸――!」

 

「獪岳さん!」

 

童磨が笑う。

 

「遅い」

 

扇が振り抜かれる。

 

「――!」

 

カナエの身体が大きく吹き飛んだ。

 

「カナエ!」

 

獪岳が追う。

 

だが。

 

「血鬼術――」

 

童磨の周囲に氷の花が咲く。

 

「凍て曇」

 

「……!」

 

冷気が獪岳を包み込む。

 

「ぐっ……!」

 

肺が凍るような痛み。

 

それでも。

 

「どけぇぇぇ!」

 

雷光が爆発する。

 

氷を斬り裂き、童磨へ迫る。

 

「おお!」

 

童磨が避ける。

 

その隙に獪岳はカナエのもとへ駆け寄った。

 

「カナエ!」

 

「……獪岳さん」

 

「立てるか?」

 

「……少し、難しいですね」

 

カナエは苦笑した。

 

「なら俺が――」

 

「獪岳さん」

 

カナエが彼の袖を掴む。

 

「聞いてください」

 

「何だ」

 

「しのぶを……」

 

「……?」

 

カナエは静かに微笑む。

 

「しのぶを……よろしくね」

 

「……!」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「何を言っている」

 

「私にもしものことがあったら――」

 

「縁起でもないことを言うな!」

 

「聞いてください」

 

カナエは穏やかな声で続ける。

 

「しのぶは、強い子です」

 

「……ああ」

 

「でも、本当はとても繊細で……」

 

カナエの目に、姉としての優しさが浮かぶ。

 

「無理をして笑ってしまうところがあります」

 

「……知っている」

 

「そうですか」

 

カナエは嬉しそうに笑った。

 

「なら、安心しました」

 

「何がだ」

 

「あなたなら……しのぶの本当の気持ちを分かってあげられる」

 

「……」

 

「私よりもずっと近くで、しのぶを見てくれる人だから」

 

獪岳は唇を噛む。

 

「そんな話は――」

 

「私は、あなたを信じています」

 

カナエは獪岳の手を握った。

 

「だから……」

 

「……」

 

「しのぶを、よろしくね」

 

獪岳の拳が震える。

 

「……ああ」

 

低い声。

 

「分かった」

 

「獪岳さん……」

 

「絶対に守る」

 

獪岳はカナエを見つめる。

 

「お前がそんなことを言わなくても――」

 

刀を握る。

 

「俺は、しのぶを守る」

 

「……」

 

「それに」

 

獪岳は立ち上がる。

 

「お前も守る」

 

「……!」

 

「勝手に死ぬな」

 

カナエは目を見開いた。

 

「……ふふ」

 

そして。

 

「はい」

 

小さく頷いた。

 

「約束します」

 

その時。

 

「感動的だねぇ」

 

童磨の声が響く。

 

二人が振り返る。

 

童磨が扇を手に立っている。

 

「でも――」

 

笑顔。

 

「その約束、守れるかな?」

 

獪岳の目が変わる。

 

「……童磨」

 

雷が刀身を包む。

 

「お前は――」

 

一歩。

 

「俺の大切な人たちに、手を出しすぎた」

 

二歩。

 

「しのぶも」

 

さらに雷が強くなる。

 

「カナエも」

 

三歩。

 

「もう許さない」

 

カナエはその背中を見つめる。

 

「獪岳さん……」

 

雷鳴。

 

雪原が震える。

 

童磨が笑う。

 

「へぇ……」

 

「今までとは違うね」

 

獪岳の瞳には、怒りだけではない。

 

守るという意志が宿っていた。

 

「雷の呼吸――」

 

童磨が構える。

 

「来るかい?」

 

獪岳も構える。

 

「ああ」

 

「今度こそ――」

 

雷光が弾ける。

 

「お前の首を斬る」

 

そして。

 

一筋の雷鳴が、白銀の雪原を駆け抜けた。

 

その背中を見つめながら。

 

カナエは静かに微笑んだ。

 

「……しのぶ」

 

「あなたには……」

 

小さく呟く。

 

「素敵な人がいるからね」

 

――第104話・終――

 

 

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